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幻覚剤研究結果と神秘体験

意識や非二元について調べているとき、瞑想中の人の脳内で何が起きているのかを測定した研究実験をよく見かけた。
(長年瞑想を続けている人はガンマ派が強まっていたり、脳の後頭部頂葉などに変化が起きる)

それなら外部から意図的に変化を起こしたとき(要するにおクスリ使用)脳の状態はどうなっているのか?と気になって読んでみたのがこの本。

人の体内で生成されることもあるDMT(自然界に発生する幻覚物質)。
それを被験者に静脈注射で打ち込んだらどんな変化が起きたのか。
過去の幻覚剤実験ではあまり記録されなかったという「被験者エピソード」について、特に詳しく書かれている。
ここだけ聞くと危ない話に思えるけど、筆者は神秘体験の生物学的根拠やDMTの可能性を探るべく、合法的に検証している。 

安全対策済みとはいえそうそう出来るコトではないようで、常に先の気になる展開。
既に神秘体験のある元修道女の人にも高用量DMTセッションして比較するとか、かなりアツい(?)実験です。 

被験者の多くは、DMT投与後数分で別世界を体験していた。
面白いのは、見えた幻覚世界が似ているところ。
細かいエピソードの違いはあれど、色鮮やかな謎空間に居たり、不思議生命体に導かれたり。
これに関しては、被験者がそう語るのだからそうなんだとしか言えない。 

寝るときに見る夢と明らかに違うのは、その没入感とリアリティらしい。
まあこれは読む前から何となく予想できていた。
気になるのはその後。
それらの体験は被験者たちにとってどんな意味があったのか? 

実験終了後も筆者は被験者たちと連絡を取って、その後の生活状態について聞き取り、回答を貰っている。
DMT注射で強烈な体験、光景を見た後でも、被験者は当然、人として普通の日常を過ごしていた。
勿論、考え方が変わったり、人生が良い方向に進んでいるという旨の回答はある。
でも、幻覚剤使用とは無関係にそういう変化を起こしている人も大勢いるはず。
結局、DMTという物質が人に何をさせているのか、その幻覚は何なのか? 

本書の終盤、筆者の推論がある。 

臨死の脳が出す化学物質が幻覚性を持つのは、その時意識にはそれが必要だからだ。(中略)DMT放出は生命が抜け出していくのを意識するための手段、意識が体から出ていく過程の一部なのだ。 

DMTー精神(スピリット)の分子ー臨死と神秘体験の生物学についての革命的な研究ー
 リック・ストラスマン(著)

体内で生成されるDMTが過剰になる時がある。その瞬間をあえて起こすと、生命危機ではないのに、普段の馴染んだ意識ネットワークがズレるというか、合わせている主観チャンネルが急に変わる……のかもしれない。
(そもそも人は世界全部をありのままに感知して暮らしてはいない)
PCでいえば突然ブルスク、再起動しても見たことない謎画面、みたいな。

幻覚剤によって記憶と向き合い、何かしら感じたものが心に影響を与え、実生活がずっと過ごしやすくなる可能性はある。
実際にそう語る被験者の例もあった。 

ただし意識変容の前、「で、何のためにそれをしたいの?」みたいな自問のほうが大事だろうし、瞑想関連情報でよく見かける「体験自体を重要視するな」の文言が腑に落ちてくる。 

幻覚剤の研究はタブーと言わずもっと語られてほしいし、筆者が感じていたように治療的な意味での可能性は広がってもいいのかもしれない。
結局、節度や環境が問題になってくるだろうけど。 

被験者とのやり取りや研究の苦労話が中心の本なので、難解な専門書という感じはしなかった。
今のところKindle読み放題対象なんで助かります。
紙版、¥3,000超え!

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