
欲本 #3 『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』土田昇 みすず書房|欲本日記
3冊目の欲本は、みすず書房からでている『職人の近代』である。
もうすぐ11月だ。ということは、毎月の本に使う予算のリセットが近づいていることを意味する。リセットされるということは、また本を何冊か買えるということである。続けて更新しているのは、その高まる気持ちのせいである。もうすぐ本が買えるぜ!どれを買おうかな!この本がほしい!あの本もほしい!うえーい
さて、『職人の近代』という本を知ったのは、香川県にある本屋ルヌガンガの店主による投稿であった。
開店からずっと通ってくれている本読みのお客様が、もうこれからはこの1冊だけを読み返す人生でいいかな、と仰っていた。土田昇の『職人の近代』、すごく気になる… pic.twitter.com/Q9kRxcoMUr
— 本屋ルヌガンガ (@lunugangabooks) October 17, 2024
こんなことを言われちゃあ、気になるじゃないか。どこかの誰かに「この1冊だけを読み返す人生でいいかな」と言わせる本だなんて、気になって仕方ない。
とはいっても、そういうのは人それぞれでもある。それぞれの好みがあるのだから、100人いれば100通りの「この1冊を読み返す人生でいいかな」本があるはずである。だが、中身も気になったのだ。だから、ほしくなった。
まず、おれは自分のことを職人気質だと認識している。ビジネスはうまくない。自分なりにやってみてはいるが、ビジネスには向いていないと思う。それよりも、「これがおれのやるべきことだ」というものを見つけて、誰がそれに価値を感じるともわからないなか、ただひたすらこだわり、微調整を続け、なにかを創っていく。そういうタイプだと思う。だからこの本のタイトルは気にかかった。
もうひとつ、いま『生きのびるためのデザイン』という本を読んでいる。これは自分のビジネスのための勉強だ。デザイン力が試される分野ではあるのだけど、「そもそもなんでデザインって必要なん?」というところから考えたくなってきたのだ。その問いに答えてくれる第一候補の本としてこれを選び、読みながら、自分がするべきデザインについて考えている。生きのびるために、デザインをしたいのだ。
『生きのびるためのデザイン』は半分読んだところだが、この本の著者が言っていることの一部を乱暴にいうと、こういうことらしい。
「現代のデザインは、無駄なものばっかりだ。特に広告デザインなんて職業は、もっともいかがわしいものだ。人がほしがるように外側だけ化粧して、どんどん買わせる。それは消費をうながし続け、でも、結局なにを解決しているのかわからん。デザインってのは、ほんとうに価値のあるもの、人々の暮らしを変えるもの、課題を解決するものであるべきだ」
みたいな感じである。ダダダンと書いたので、微妙なニュアンスは違うかもしれないが、資本論でいう「使用価値」よりも「価値」の生産ばっかりということを言いたいのだろうか。
「使用価値」というのは、ハサミでいえば「紙を切れる」という意味での価値である。実用性の価値である。一方で「価値」というのは、かわいい、かっこいい、ミニマルなデザイン、みたいなところの価値である。「紙を切る」という点では全ハサミが達成しており、そこでの競争はむずかしい。だから、装飾というか外側の部分の価値を出すのだ。それが「価値」らしい。
『生きのびるためのデザイン』で言われているのは、もっと「使用価値」をみつめる、ということなのかもしれない。実例として途上国などでのデザイン例もでてくるが、外側の「価値」での装飾よりも、世界のどこかで本当に困っていて「使用価値」さえも十分に届いていない人たちのためにデザインしようぜ、という。
このあたりの話はむずかしそうだから、いくらでもつっこまれそうだし、もっともっと解像度を上げて考えるべきことだろう。とりあえず、最近こういう本を読んでいて、こういう理解をしている、というだけの話を書いた。
『職人の近代』の話にもどる。この本は、明治の職人である千代鶴是秀(1874-1957)という人物の人生を、第三者である著者が残された資料や話などを頼りに、その職人人生を追ったものであるらしい。
みすず書房の公式サイトより、一部の文章を引用する。
自由で流麗な意匠をまとったこれら切出群は、実用面からいえば使いにくく、道具が道具でなくなるギリギリの地点に位置する。抜群の切味を隠し持ちながら、使用されることを想定しない非実用の美。道具鍛冶として名声を得ながら、是秀はなぜ実用を犠牲にした美しいデザイン切出を作ったのか。
千代鶴是秀という職人は、最終的に実用を犠牲にしたようなデザインをつくっていったようなのである。あれ、『生きのびるためのデザイン』の話とぶつかるではないか。ひとつのことを極めた職人が、最終的に実用を犠牲にしたものをつくることになるなんて、一体どういうことが起こったのか。これはとても気になる。
この本、書店に行って実際に手に取ってみた。300ページちょっとで厚さは普通という感じ。薄くはない。みすず書房だから、ハードカバーだ。値段は4000円と、みすずプライスである。
買わなかった理由としては「高い」というのがあった。だが、いつか買いたい。デザインに興味があり、デザインを勉強したく、さらに自分自身を職人気質だと認識している点もふまえると、読むべき本だと感じている。11月に買うかどうか、悩むところだ。
書店にいったのは、確か1週間ほど前だっただろうか。そのときはアマゾンで在庫をきらしていて、てっきり絶版なのかと思い、書店で見つけて「これ、確保したほうがいいのか…」と悩んだものだが、いまはアマゾンで在庫が復活している。ということは、絶版ではない。
この本、もし絶版になって値段が数倍とかになってしまったら、めちゃくちゃ後悔するだろうなぁ。確保しておきたい本である。
欲本日記とは
ほしい本についての記録である。主テーマは「ほしい本」だが、関係のない話題にとぶこともある。「欲本」と書いて「ほっぽん」と読む。どうやら造語らしい。
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