旧仮名キーボード開発記#11|改善計画
去る1月22日、旧仮名キーボードの利用者数(ユニークユーザ数)が200人を突破しました。ありがとうございます。
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現在の開発内容
現在、変換精度の根本的な改善のために、辞書データの構造を組み立て直す作業を進めています。
さまざまな機能要望が上がっていることは認識していますが、機能には本末があるため、根本にあたる機能を先に実装し、枝葉にあたる機能を後に実装する必要があります。
機能の本末の判断基準としては、利便性や重要度の順ではなく、因果関係の順を採用しています。本心としては、学習機能やユーザ辞書連携などメリットの大きい機能を先に実装したいのですが、それらは事情があって後回しにしています。
そもそも学習機能やユーザ辞書連携などの機能は、辞書データの構造がむやみに変わらないことを前提としている機能です。もし実装後に辞書データの構造を変更してしまうと、せっかく蓄積した学習データやユーザ辞書ファイルが無意味になってしまうか、全体の変換精度が著しく劣化してしまうおそれがあります。
つまり土台の機能を改変すると、その上に立つすべての機能が影響を受けてしまうわけです。辞書データの構造はほとんどの機能にとっての大土台であり、学習機能やユーザ辞書連携はその土台の上に立つ小機能です。土台を改善する行為が、その上の小機能にとっては改悪としてはたらくことはよくあります。辞書データの構造の変更は、まさしくそのような性質をもつ修正です。
変換精度の制御の容易化や文語体への将来的な対応などを見越すに、辞書データの構造に改変を加えるならば今しかなく、諸機能に先行して作業している次第です。この作業は、順調にいけば2月末までに完了する見込みです。
寄せられた機能要望
お問合せフォームやTwitterなどから機能要望を収集しており、現時点で以下の機能要望を把握しています。
※つぶやきや問いかけの形を借りた意見もすべて「〜に対応してほしい」という要求の一種であると解釈しています。
Android端末に対応してほしい
PC端末に対応してほしい
ガラケー端末に対応してほしい
ユーザ辞書(単語の登録機能)に対応してほしい
トグル入力に対応してほしい
ローマ字入力に対応してほしい
フラワータッチ入力に対応してほしい
全角/半角スペースの打ち分けに対応してほしい
「ゐ」「ゑ」を「わ」キーに収めるように対応してほしい
新仮名遣いに対応してほしい
字音仮名遣いのみ新仮名遣いに対応してほしい
現在正則とされる字音仮名遣いに対応してほしい
右書きに対応してほしい
原則として後方互換性を維持するようにしたいため、従来の使用方法を再現できなくなるような仕様変更や一度出した機能の取り下げなどはせず、大抵は設定で選べるようにします。
以下、各機能についての所見を述べていきます。
Android端末に対応してほしい
将来的に対応します。iPhone版と同じ機能ラインナップを予定しています。
PC端末に対応してほしい
将来的に対応します。Windows / Mac / Linux を視野に入れています。ただし、機能限定版になる可能性があります。
ガラケー端末に対応してほしい
未検討ですが、もし技術的な障害がなければ、将来的に対応する可能性はあります。ただし、機能限定版になる可能性があります。
ユーザ辞書(単語の登録機能)に対応してほしい
将来的に対応します。
トグル入力に対応してほしい
将来的に対応します。
ローマ字入力に対応してほしい
将来的に対応します。
キー配列はQWERTY(日本式)とする予定です。
なお、ローマ字の綴り方については、ヰ(wi? wyi? whi?)、ヱ(we? wye? whe?)の割当て問題をはじめとして、クヰ(kwi? khi? qi?)やスヰン(swin? syin?)など現在未対応の字音仮名遣いをも包括するような仕様を全面的に整理する必要があるため、慎重に検討する予定です。キーコンフィグを実装する可能性もあります。
フラワータッチ入力に対応してほしい
まことに残念ながら、対応しない可能性が高いです。
フラワータッチ入力は、ATOK社以外での実装例が見当たらないことから、権利関係の問題が存在する可能性があります。仮に権利関係の問題がないとしても何らかの問題の火種となるおそれがあるため、安全に技術使用できる確証が得られないかぎり、対応は見送りとさせていただきます。あしからずご了承ください。
全角/半角スペースの打ち分けに対応してほしい
将来的に対応します。
実装内容としては、①フリックによる打ち分け、②変換バーにおける候補選択、③全角/半角のうち主に使用する方を設定画面で指定、④直前の文字によって自動切り替え、以上すべてへの対応を考えています。
①については、下図のとおり、Simeji式またはazooKey式のいずれかを採用する予定です。
「ゐ」「ゑ」を「わ」キーに収めるように対応してほしい
将来的に対応する可能性はありますが、保留とさせていただきます。
実は下図の案Aと案Bを実装して使用感をテストしたことがあるのですが、フリックの向きをすでに手が覚えてしまっているため、「を」と打ったつもりが「ゐ」となり、「ん」と打ったつもりが「を」となってしまうケースが多発しました。また、案Cのように母音とフリック方向の関係性を意識したものも考慮しましたが、画面上のタッチ有効領域の制約があるため難しく、対応を見送ったという事情があります。
新仮名遣いに対応してほしい
将来的に対応します。
字音仮名遣いのみ新仮名遣いに対応してほしい
将来的に対応します。
現在正則とされる字音仮名遣いに対応してほしい
将来的に対応します。
現代における字音仮名遣いは辞書ごとにポリシーが異なりますが、ひとまず広辞苑式に対応する予定です。
以下は各辞書における字音の例です。
青い行は本アプリで典拠とした戦前の辞書(絶版)であり、それ以外は現在販売されている辞書です。
そもそも本アプリが「戦前(昭和初期)の仮名遣い」をデフォルトの仮名遣いとして採用した最大の理由は、現代の辞書では字音仮名遣いのばらつきが大きすぎるためです。日本語の歴史において、字音仮名遣いの統一性が社会的に維持されていたのはおそらく終戦までであり、その後は各辞書の見解に応じて独自に分岐してしまっています。
人によって所有している辞書は異なることから、いずれか1つを採用してしまうと「辞書のとおりに打っているのに変換できない」という事態が頻発するおそれがあったため、万人が「祖」と認めるバージョンまで遡るにしかずとの判断で「戦前の仮名遣い」という仕様を採りました。
そもそもの経緯は以上のとおりですが、現代ではかえって戦前の仮名遣いを調べられる辞書がほとんど存在しないため、現代版の字音仮名遣いに対応する意義はあると認識しています。
ざっと確認したところ、学校の古文・漢文で習う「歴史的仮名遣い」は広辞苑のものとおそらく同じであるため、広辞苑式を現代における正則の字音仮名遣いとみなし、採用することにします。
余力があれば、その他のパターンにも対応するかもしれません。
右書きに対応してほしい
疑似的なものになりますが、将来的に対応する可能性はあります。対応する場合、句読点や括弧などは左書き用のものを使用する可能性があります。
要望には上がっていないが実装予定の機能
要望には上がっていませんが、以下は将来的に実装予定です。
学習機能
文語体への対応
「〻」や「〳〵(くの字点)」の使用
その他のアイデア
遠い将来に実装するかもしれないアイデアを載せておきます。
本来は有料オプションで提供しようと思って考えた特別機能ですが、マイナーな機能すぎて小銭にしかならなさそうなので、無料で出すかもしれません。
変体仮名
変体仮名を使用できる機能。
翻刻用の擬似的な変体仮名
翻刻において変体仮名を再現するために使われる「ハ」や「里」などを、平仮名として出力できるようにする機能。
字形のカスタマイズ
各漢字に付与する異体字セレクタを任意のものにカスタマイズできる機能。
また、「間 vs. 閒」のように使用にブレがある字について、字形を設定できる機能。
振り仮名のマークアップ
振り仮名付きで出力する機能。
あるいはHTMLで、以下のように出力する機能。
漢文用の返点の入力
返点(㆑など)をキーボードから入力できる機能。
漢文の引用
書き下し文の読みから白文に変換する機能。
外来語の仮名遣い
外来語にも旧仮名遣いを適用する機能。
たとえば、「ウイスキー」ではなく「ウヰスキー」、「ランプ」ではなく「ラムプ」として変換する機能。
新仮名から旧仮名への超変換
入力はすべて新仮名遣いで行うが、出力はすべて旧仮名遣いで行われる機能。
たとえば、「かんがえています」と打つと「考へてゐます」という変換候補が出るような機能。ただし、直打ちで確定すると新仮名遣いが混入してしまう問題がある。
おわりに
アップデートは停滞していますが、作業は進んでいますので安心してください。
仕様に迷った場合、旧仮名キーボード公式Twitterアカウントでアンケートを取るかもしれません。
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