さみしさの種類とは。「NATURAL」に問う
故郷を離れたことのある人とない人って
さみしさの種類がどこか違う気がする
(NATURAL/成田美名子/白泉社文庫3巻P211)
青く晴れた広い空にもくもくと立体感のある真っ白な雲。公園の緑からは姿を見せない蝉の声が届き、どこかのバスケットコートからボールが弾む音が聞こえてくる。
着ているTシャツには頬から滴った汗が落ちるが、この天気だからすぐに乾くだろう。私は気にせず目的地に向かう。
「NATURAL」のイメージは、梅雨が明けてお盆になる前の本当の真夏のイメージだ。昨今の殺人的な暑さではない、一昔前の。
私が成田美名子先生の作品に触れたのは「NATURAL」がはじめてだ。
先生のキャリアとしては、「エイリアン通り(ストリート)」や「CIPHER(サイファ)」で一世を風靡。ゆるぎない人気と作家としての安定性を身に付けてしばらくたった頃と思われる。
「NATURAL」では、高校生の主人公である山王丸ミゲールが、信頼できる友人を得ながら新しい経験をしたり事件に巻き込まれたりする。瑞々しい青春を謳歌すると同時に、自分の過去と向き合い決着をつける話だ。
この作品の特徴は、主人公が常に境界に立つ人間として描かれていること。
キリスト教文化のペルーで生まれながら、日本人の養子となり移り住んだ経緯。バスケと弓道を両立させていること。山王丸という氏とミゲール(ミカエル)という名、西洋と東洋の神様の名前を持っていること。
個人的には、成田美名子作品には「赦し」が共通のテーマとしてあると感じているが、この作品も主人公がペルー時代に犯した罪と、自分を傷つけた相手の罪と向き合わざるを得なくなる。自分を赦すのか赦されるのか、相手を赦すのか赦されるのか。
なにが凄いって、境界に経つ人間の揺れと、青春の揺れを融合させながら描いている点だ。え、まさに天才の所業。
と、この作品の凄さを語れば尽きない。
傑作漫画なので、印象的なシーンは数多いが、なにげなく思い出すのが上記のひとことだ。
ペルーで幼い頃を過ごし故郷として胸に刻む、主人公の義理の姉の理子が漏らした呟きである。
思い返してみると成田美名子先生の「エイリアン通り(ストリート)」や「CIPHER(サイファ)」といった代表作は、故郷を離れたひとの物語だ。
ときに「エイリアン=異分子」としても描かれる。
「郷愁」という言葉がある。故郷を思い返すのは普遍的な心の動きだ。しかし、郷愁を感じたときにその故郷は失われている。自分が経験と年齢を重ねると同じように故郷もときを重ねて変質しているからだ。
もしかしたら、離れてしまった故郷を思い返すさみしさは、幼く純粋だったもう失われてしまったかつての自分への憧憬かもしれない。
取り戻せないが、ときに決着をつける必要がある。
「NATURAL」では過去に決着をつけた主人公を見ることができる。ぜひ、大人に読んでほしい少女漫画だ。
※「CIPHER(サイファ)」について語りたくて、でもまとまらなくて始めたnoteなので思いがけず練習っぽい。