ここを守れば機能する。という話
前回までの振り返り
デザインという行為は「情報の再構築活動」なんです。
無限にあるパズルのピースを組み合わせるようなイメージ。よって答えも無限にあるし、そのパズルのピースを自作してしまっても構わない。組み合わせ方も自由。「情報」がそのピースの素材であることは間違いなく、うまく噛み合っていないと良いまとまりは生まれないと考えています。
この難解なパズルのピースのような「情報」について、「使う人・選ぶ人」、「競合との差」、「会社の強み」にわけて書いてきましたが、今回は「制約条件」の話をしたいと思います。
嗜好にあわせるスタイリング活動をする前に
商品企画が設定された後になっても、一般的にいうデザインというものは、すぐに色・形をユーザーの嗜好に合わせていく「スタイリング活動」をし始めるものではありません。
その前に「どのような寸法・素材でないと機能しないのか?」という制約条件がわかっていないと、見た目は素敵だけれど作れないプロダクト、作れても使い物にならないプロダクトになってしまう可能性が高いのです。
デザインを学ぶ大学生の課題でもよくある失敗を、ヘアドライヤーを事例に説明してみようと思います。学生に「新しいドライヤーを考えてみてください」と課題を与えると、今の商品に対する不満を考え始めます。
・重い
・大きい
・コードが邪魔
・うるさい
などなどといったことを挙げてくるでしょう。
そして、今のものよりも
・軽く
・小さく
・コードレス
・静音
といった特徴をもったドライヤーという案が上がってきます。とても純粋な意見なのですが、その提案は現在の技術ではできないことだったり、製造できてもとんでもない価格になったり、すぐに壊れてしまったり、使いにくいモノだったりする可能性が高いです。
制約条件もデザインに必要な「情報」
なぜ、先ほどのようなことになるのでしょうか?
それは、そのものが成り立つ要素に対する知識の少なさに関わっています。
・髪の毛を安全に快適に乾かすための温度
・その温度を髪の毛に与えるための風の温度、風速
・その温度を作るためのヒーターの方式
・そのヒーターを温めるための電源
・風を送るためのファンの方式
・ファンを回すための電源
・それらを包み込む筐体の素材と厚み
・その筐体を自分の髪の毛にあてやすくするためのハンドルと角度
・そのハンドルの断面形状
・それらを製造するためのコスト
・・・・
などなど、こういった情報がうまく組みわされないと、良くまとまったプロダクトは生まれません。
レオナルドのように
もしあなたがデザイン初心者で、これから何かをリデザインしようとするのであれば、是非一度既存商品の複数種類をよく観察し、分解し、図面か3Dモデリングにおこすことで、その謎に迫ることをオススメします。かつてのレオナルド・ダ・ヴィンチは絵を書く前に人体の解剖をおこなったように。
見ただけで全部を理解できる人はそれほど多くありません。何かに書き起こすためにより深く見ることになります。騙されたとおもって是非。
「制約条件」から考えたデザインという荒技
さて、この投稿のトップ画像に挙げている商品は、弊社オリジナルブランドSOGUのSOFT LOOP SHELFです。この商品の面白いところは「棚」という製品が成り立つ最少限度の制約条件にこだわって作ったということです。
タイトルにも掲げている「ここを守れば機能する」というところだけのプロダクトで、
・棚本体が下に落ちないように1点のみで支える
・置かれるモノは、その重心よりも手前の1点と壁、左右からの支えがあれば落ちてこない
この2つの原理だけで成り立っているものです。
構造としては、ループ状になった紐のみ。そのループをL字フックなどで壁に引っ掛けると、縦長の箱状のモノを壁に置くことができます。
もちろん理想顧客をデザイナーとしているSOGUブランドですから、ディテールへのこだわりもしっかりとしています。発色のよいアクリル素材を選定、A4ファイルボックスを置くことができるこの長さでバランスのよい幅、野暮ったくならなずに少ロットで作ることができる連結方法など、様々な「情報」を組み合わせてまとめあげています。
今回のまとめ
今までの「使う人・選ぶ人」「競合との差」「会社の強み」の投稿に引き続き「制約条件」について書いてみました。制約条件は物理的なもの、金銭的なもの、技術的なもの、イメージ的なもの、文化的なものなどなど様々なことが対象になりますが、それらもデザインを形作るための必要な「情報」であることを知っていただけると嬉しいです。