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建設設計におけるCADとBIMの違いとは?―専門用語を交えて解説

CAD(Computer-Aided Design)とBIM(Building Information Modeling)は、建築設計やエンジニアリングの分野で広く使用される技術ですが、その役割や機能、アプローチには大きな違いがあります。以下では、これらの違いを専門用語を含めて、補足を加えながら詳しく説明します。

1. 基本的な概念

  • CAD(Computer-Aided Design、コンピュータ支援設計): CADは、設計や製図をコンピューターで行うための技術です。設計者は、2次元(2D)や3次元(3D)の図面を作成します。2D CADは、平面図や立面図などの図面を描く際に使用され、3D CADは、立体的な形状や構造を視覚的に表現するために使われます。例えば、オートデスク社のAutoCADが代表的なソフトウェアです。

  • BIM(Building Information Modeling、ビルディング・インフォメーション・モデリング): BIMは、建物やインフラのデジタルモデルを作成し、それをもとに設計、建設、運用を行うためのプロセスです。BIMモデルは、単なる3Dモデルにとどまらず、「情報の豊富な3Dデータベース」として機能します。これには、建材の特性(材質、色、強度など)、コスト、施工スケジュール、維持管理情報などが含まれます。RevitやARCHICADが代表的なBIMソフトウェアです。

2. 使用目的とアプローチ

  • CAD: CADの主な目的は、設計図や製図をデジタル化することです。設計者は、精密な2D図面や3Dモデルを作成し、それをもとに製品や建物を製作します。CADは「ジオメトリ」(Geometry、形状や寸法を表現するデータ)を扱うため、部品や製品の詳細設計に適しています。特に、機械設計や建築設計などで利用され、精密な寸法や形状を必要とするプロジェクトで重宝されます。

  • BIM: BIMは、建物全体のライフサイクルを管理するためのツールです。BIMは「パラメトリック・モデリング」(Parametric Modeling、部品や要素の相互関係を定義し、それに基づいて自動的にモデルを更新する手法)を利用します。これにより、設計の初期段階から建設、運用、維持管理に至るまで、すべてのプロセスを統合的に管理できるのです。BIMは、プロジェクト関係者が同じ情報をリアルタイムで共有し、協力して作業を進めるための「コラボレーション・プラットフォーム」としても機能します。

3. データの取り扱い

  • CAD: CADでは、設計データは主に「ベクター」(Vector、点と線で構成される図形データ)で表現されます。これらのデータは、通常、特定のプロジェクトや製品に関連する「DWG」や「DXF」などの個別の図面ファイル形式として保存されます。各図面は独立しており、異なる図面間で情報を共有することは通常行われません。

  • BIM: BIMでは、データは単なるジオメトリにとどまらず、各要素に関連する「属性情報」(Properties、材料、コスト、施工方法など)が含まれます。例えば、壁の要素にはその厚さ、材質、断熱性能などの詳細な情報が付加されます。これらのデータは一元的に管理され、「IFC(Industry Foundation Classes、建設業界の標準データフォーマット)」などの形式で保存され、異なるソフトウェア間でも情報を共有できます。

4. コラボレーションと情報の共有

  • CAD: CADは、主に個々の設計者やエンジニアが使用するツールであり、情報の共有は図面ファイルを通じて行われます。複数のメンバーが同じ図面を編集する場合、各メンバーが独立して作業し、それをまとめるという「非同期的なコラボレーション」が一般的です。このため、設計変更の調整には時間がかかることがあります。

  • BIM: BIMは、プロジェクト全体の関係者がリアルタイムで同じ「共有モデル」(Shared Model)にアクセスし、作業を進めることが可能です。これにより、「同期的なコラボレーション」が実現し、設計変更や施工計画の修正が迅速かつ正確に行えます。また、BIMでは「クラウドベースのプラットフォーム」(Cloud-Based Platform)が使用されることが多く、場所に依存せず、世界中の関係者が共同作業を行えます。

5. 結果の出力

  • CAD: CADの出力結果は、主に2D図面や3Dモデルです。これらの図面は、「製造図面」や「建築図面」として、製品の製造や建物の建設のための詳細な指示書として使用されます。これにより、現場での施工や製造工程がスムーズに進行します。

  • BIM: BIMの出力結果は、統合された「デジタルツイン」(Digital Twin、現実世界の建物やインフラのデジタル再現モデル)です。このモデルは、設計、施工、運用、メンテナンスの各フェーズで活用され、プロジェクトの全体像を可視化し、進行状況の把握やコスト管理を容易にします。さらに、BIMモデルは「シミュレーション」(Simulation、施工前に仮想環境で建物の性能を確認する手法)や「可視化ツール」としても利用されます。

まとめ

CADとBIMは、異なる目的とアプローチを持つツールです。CADは、精密な図面作成や個別の設計作業に特化しており、主にジオメトリデータを扱います。一方、BIMは、建物全体のライフサイクルを管理し、プロジェクト全体の効率化と協調作業を促進するための統合的なプラットフォームです。BIMの採用により、建設プロジェクトはより効率的で透明性の高いプロセスとなり、関係者全員が一貫した情報を基にして意思決定を行うことが可能になります。

このように、CADとBIMの違いを理解し、適切なツールを選択することで、プロジェクトの成功に大きく貢献できるでしょう。

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株式会社プロシーズ 越智(旧姓:菅)善隆
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