胎毛筆制作させていただきました
キッカケはからむし筆
2023年のとある日、お世話になっているソンベカフェの裏庭で、からむし筆制作の様子をご覧になったお客さんが、「胎毛筆はお願いできるでしょうか?」と声をかけていただいた。
ソンベカフェのオーナーは「こいつなんでもやるから大丈夫だよ」と(*'▽')
僕は「作ったことないので調べてみますが、僕でよければ・・」と、連絡先をお伝えしてその日は終わりました。
後日、胎毛筆を調べて「絶対無理ではないけれど・・」いろいろと考えた。
書道の先生にも相談して、意見を聞いてみた。
「道具など必要なものがいろいろいるな・・」
「大事な記念品だから安請け合いしないほうがいいかな・・」
「経験ないし試作してみるかな・・」
「よくよく検討されて正式依頼はないかもしれない・・」
そんなことを思ったのでした。
しばらく経った2023年12月に、依頼のメールをいただきました。
お子さんの名前に「海」があるので、鎌倉の海の流木を使ったからむし筆を見て、依頼を考えた理由など伝わる内容でした。僕は、経験もなく大事な記念品なのでよく検討するよう返事しつつ、依頼された見積もりを作成した。
からむし筆とは「似て非なるもの」
見積もり作成にあたって、胎毛筆制作に必要なものを再度調べてみる。
籾殻の灰、桐箱、櫛、糸、作業台(毛髪をそろえる用)、接着用ノリ、毛をまとめるノリ、毛を焼く鏝、流木、などなど、どんなものがいいのかリサーチして購入するもの、他で代用できそうなものを考えてみた。
人の毛髪を筆状にまとめたり、1本の筆にするのは、からむし筆も容易ではないけれど、扱い方の違いから容易ではないことを感じた。誕生の記念品でもあるし、失敗したら作り直せばいいという訳にもいかない、大切ないい仕事だなと思ったのでした。
胎毛筆制作に取りかかる
2024年1月、子供さんの胎毛を受け取り、その量に合う流木をまず探すことにしたが、思った以上に大変でした。
大変だった点①髪
毛髪をまとめる作業です。
専用の道具はないので当然ですが、ある程度の長さと髪質を分けてまとめることに苦労しました。気長に作業して、煮沸消毒し熱を加えた髪をもみ殻の灰でもんで重しを加えるなどして、髪の癖の修正を試みることにしました。
便利な世の中で、調べるとある程度は工程がわかってきたので、力加減や必要な時間、進め方など、手探りでした。最終的に、癖の残った毛髪と、比較的まっすぐな毛髪の2種類にまとめ、2本作ることにしました。
大変だった点➁流木
流木は探せば見つかると思ってたけれど、意外に大変だった。理由は、筆として使える毛髪の量から細い流木を探したけど、細い流木は脆いものばかりで、筆に使えそうなものはなかなか見つかりません。数ヶ月間海に通って少しずつ候補になりそうな流木を集めた。早朝、昼間、夕方など時間帯を変えたりもしたけれど、時期によっても違うかな・・
煮沸消毒、乾燥させて、からむし筆制作の際に、購入した電動工具や彫刻刀などを使い、候補の流木を加工。「自然さを残したい」でも、「ある程度きれいに仕上げたい」の狭間で葛藤しながら、木によって違う風味と丈夫さを考えて、何本も加工しながら候補を絞った。
飾り付けに貝殻を考えたけれど、これまた思うようなものがなく、鎌倉の以外の海岸にも言ってみたけれど、帰省した時に鹿児島の海で探したものを持ち帰って使うことに。
流木の太さ、丈夫さ、長さから4本の候補に絞り、さらに髪に合わせてみて2本絞って制作することにした。
流木と髪の接合
髪の根本を熱で焼いて、髪のバラつき防止と接着部分をつくり、接合部分の穴のサイズを髪に合わせて調整します。接着剤とからむしの繊維を巻いて流木と接合します。
できるだけ自然なもので製作したいと考えて、接合部にからむし繊維を使いました。髪を綺麗に長持ちさせようとノリで固めてみたら、とってもスリムになりすぎで、後で1本はノリを落としました。
納める桐箱探し
桐箱は筆の長さと本数で、大きさや個数を検討しましたが、大きめ1箱に2本を納めることにして探した。鎌倉の材木屋さんで相談してアドバイスをいただき、最終的にネットで取り寄せることにした。
記念品としての名前入れ
依頼のきっかけにもなっている、名前に「海」があるということで、名前を入れたいと思っていました。
流木に名前と生年月日を焼いて書いてみた。
桐箱には、墨をすり名前と生年月日を書いた。寿、胎毛筆、記念、フルネーム、などなどいろいろ検討したが、最終的に名前と生年月日に決めた。
やり直しはできないので、少し緊張したけど、集中して気持ちを込めて・・
筆を固定する方法にも、からむしの繊維を使い、空きスペースに貝殻を置いてみました。貝殻も小さいものはなかなか見つからず、鎌倉の海岸では桜貝くらいで、あとは鹿児島の海から持ち帰ったものを使用しました。
完成品をお渡し
素人が初めて制作してみた胎毛筆。名前にある「海」に合う胎毛筆を望まれたお母さんの気持ちを考え、可能な限り素材は自然のものを使い、気持ちを込めて制作し、期間も要しましたが、無事にお渡しすることができました。
ご本人「七海ちゃん」にお渡しでき、喜んでいただけたことが何より嬉しく思いました。
このような貴重な経験をいただき、ありがとうございました。
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