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久保やん、安らかに…風 / Moony Night~自分の「聴覚」に多大な影響を与えたレコード (10)

 ブログ記事 (2021年9月21日) からの転載です。


Facebook で回ってきたバトン「自分の『聴覚』に多大な影響を与えたレコード」の補足シリーズもその10でようやく完結。最後を飾るのは日本のフォーク/ニューミュージック・デュオ《風》の “Moony Night” です。

…という感じでこのページを書きかけていた2021年9月16日、悲しいニュースが飛び込んできました。

何ということ…ショックです。正やんも Facebook にコメントを出していました。

「風」を応援して頂きました皆様へ 「風」のメンバー...

Posted by 伊勢正三 on Thursday, September 16, 2021

脳梗塞で闘病中でははあったものの、正やんのコメントによれば元気だったとのことで、あまりに残念です。故人のご冥福をお祈り致します。

さて、気を取り直して。元となった Facebook の投稿はこちら。

幼なじみにして俳優の 武田晋 さんからバトンを受けとりました。 10日連続で自分の「聴覚」に多大な影響を与えたレコードのアルバムカバーを1日1枚投稿してゆくミッションです。説明や理由は無しです。 10日目 風 / Moony...

Posted by Shunji Yoshimura on Wednesday, May 13, 2020

風 / Moony Night (1978, PANAM/日本クラウン)

聴覚刺激ポイント:この時代にして極上の音作り、和製 AOR / シティポップの先駆け

このアルバムについては2007年にも一度書いてました。よろしければそちらもご参照ください。

そもそも《風》っても若い人は知らないですよね。ただ彼等に関しては、むしろ知らない方が素直に聴けるような気もします。ちょうど風のオリジナルアルバムのサブスクも解禁されたので、ぜひ聴いてみてください。

1曲目の「月が射す夜」、かっこいいと思いませんか?ロックをベースとしつつ、ピアノの響かせ方にダンスミュージック的な要素も感じられる極上のポップスだと思います。中間とラストのアコースティックギターのソロは、音数こそ少ないものの鋭角的なフレーズとアタックを強調した音作り、ピッキングハーモニクスを多用した奏法が非常に印象的かつ効果的。これ正やんが弾いてるんですよね。そしてこれに乗っかる歌の、俳句のように無駄を削ぎ落とした言葉の切れ味。

2曲目の「あとがき」は久保やんの曲です。美しいボサノバ風のガットギターに乗せた伸びやかで優しい声、そこからバンドの音になる瞬間の大きく空間が広がるような爽快感。メロディの美しさと歌詞の描くストーリーが余韻を残します。個人的にこの曲は久保やんの最高傑作だと思っています。

この2曲だけでも、このアルバムが1978年当時間違いなく最先端のポップスであり、その後シティポップと呼ばれる音楽の先駆けだったこと、そして今聴いても全く色褪せないクオリティを持っているということに納得していただけるかと思います。

ここで改めて《風》について。風は、《かぐや姫》のメンバーだった伊勢正三と《猫》のメンバーだった大久保一久が1975年に結成したデュオで、我々の年代だとやっぱりフォークのイメージが強いんですよね。アルバムには初期の頃からポップな曲も結構多かったのに、ヒットしたのはデビューシングルの「22才の別れ」とか「あの唄はもう唄わないのですか」とか「北国列車」とか、やっぱりフォークの世界観の曲が多い気がします。

もちろんこれはこれで永遠に歌い継がれるべき名曲です。1970年代後半にフォークギターを持ってた人でこれを弾いたことがない人はいないんじゃないかっていうぐらい。

でも彼等の素晴らしさは、その洗練されたポップさにあったと思うのです。初期の頃はカントリー等のアメリカ音楽の要素も加えた爽やかなアコースティックポップスという印象でしたが、3枚目のアルバム “Windless Blue” からロック色、サウンド志向が強まります。「ほおづえをつく女」はサンタナ風のギターをフィーチャーしたラテンロック。米国ロサンゼルスで録音された4枚目『海風』で、さらにその路線は顕著になります。1曲目「海風」のイントロは当時衝撃的でした。ギター少年はみんな弦をビシビシ言わせて真似してましたね。

そしてその先に今回取り上げた “Moony Night” が来た、という流れでした。このアルバムもロサンゼルス録音で、プロデュースは風が自ら、楽曲アレンジは瀬尾一三、佐藤準、水谷公生という陣容。このアレンジ陣の力も素晴らしかったのだと思います (3人とも今でもトップミュージシャンですよね)。上で紹介した2曲以外も聴くべき曲ばかりなので、
ぜひアルバム通して聴いてください!

私自身はこのアルバムが出た1978年はまだ中学生で、フォークギターを弾いて友達とグループを組んだりしていました (タンゴだけではなかったのですw)。当時はどちらかと言えばアコースティックな音の方が好きであまりロック系の音楽には興味がなかったのですが、このアルバムによって聴く音楽の範囲がひとつ広がった気がします。コンサートにも行ったんですよね。まさに “Moony Night” のツアー。残念ながらこの後風は活動を停止してしまうのですが、今でも時々彼等の音楽に触れ、当時を思い出しながら一方で新しい刺激を感じたりもしています。

最後に改めて久保やんのこと。最初に正直に言ってしまうと、昔は正やんの曲ばかり聴いていました。でも改めて聴くとやはり良い曲がたくさんあるんですよね。「古都」は久保やんが曲を書いて正やんが詞を書き、久保やんが歌った曲。寂しさのにじむ歌詞とそれにぴったりの歌声、下のスタジオライブでは2人のギターの素晴らしさも堪能できます。

他にも優しさに溢れた歌声がとても魅力的な曲がたくさんあります。下のベスト盤に入っている曲では「デッキに佇む女」「漂う」「三丁目の夕焼け」「小さな手」「ロンリネス」等々。そして「夜の国道」や「男物のシャツ」のクールな世界もまた良いのです。

彼が帰らぬ人となってしまった悲しみはとても大きなものがありますが、せめてその優しい声に今一度耳を傾けて、しばし時を過ごしたいと思います。


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