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とある神社に纏わる話
前にやっていた派遣バイトでの話。
派遣バイトにしては、
自分にとっては今迄で一番居心地が良く、そこで割と長く組んでいた三歳歳上の男性が飲み屋で語ってくれた話…
そのバイト先がある場所は、
海の印象が強い房総半島の中では異色で、駅を中心とした街や住宅地のある数キロ圏内の外側は全部が森に囲まれており、
まるで世界中からそこだけがポツンと、まるで離れ小島みたいに存在する街。
隣駅との距離も長く、
JR線沿線に見られる様な、栄えている街に特有の雑然とした感じは全くないので、
何年間もの間、住み心地の良い街一位という冠のあった地域。
バイトのある日、いつもの様に集合場所(といっても二人だけだが)に早めに来て相方さんが来るのを待っていたけどもなかなか現れず、
メールや電話をしても出ず、まったく連絡がつかない。
仕事をバックれる様な人ではないので心配していたら、
そのバイトは週二回程度のバイトだったので、相方さん不在時には派遣会社の社員が代わりに来る様になったのだけど、
何週間か後になってから、その相方さんと連絡がとれたと派遣会社の社員から聞かされた。
何でも本業の仕事の最中に倒れて、何日間も意識不明になっていたとの事。
幸い命に別状はなかったけど、
病名が、相方さんが倒れた頃とほぼ同時期に野村沙知代さんが亡くなったのだけど、
野村さんの死因と同じ、虚血性心不全との事。
数ヶ月後、その現場での仕事が終了してから打ち上げと称して、
同じ場所で働いていた自分と、
命を取り留めた相方さんと、そして同じ場所で働いていた別の派遣会社の女性陣二人を含めた四人で、懐かしのバイト先のあった駅に再び集まり、
近くの飲み屋でお疲れ様の乾杯をしたあとに、
皆の懸案であった、突然音信不通になったと思ったら倒れて意識不明となっていた相方さんに、助かって本当に良かったと、心から安堵の思いを皆で伝えると
「それがさ〜」
と、話し始める元相方さんいわく、
その現場のバイトが終わったある日の帰りに、
ふと思い立って10数キロ先の家の最寄り駅まで歩いて帰ろうとして、
テクテクと真っ暗闇(駅と駅の間は鬱蒼とした森がただただ続いている)
の中を家に向かってひたすら歩いていたその途中…
その話の時に初めて知らされたけど、
以前にも同じ道を歩いて帰った事があるそうで
その時には気づかなかったけど、
ふと道の先に神社らしき建物が見えたそう。
ちょっと拝んで行こうと、たまたま立ち寄ったその神社には拝殿が幾つかあり、
その全てに同じ事を祈願したという
その内容は、
「人生をリセットしたい」
との事。
そして、
名前の分からない神社に立ち寄って祈願をした数日後、
本業でその相方さんが同僚二人と外勤で歩いていたら、突然意識が朦朧として…
そこから先の記憶がないとの事。
幸いにも、相方さんが倒れたのはとある大きな病院の目と鼻の先だったそうで、
急いで同僚が病院まで走って担架を持った職員さんを連れてきて、相方さんはそのまま病院に担ぎ込まれたとの事。
ベッドの上で数日ぶりに意識を取り戻した相方さんは、看護師から数時間心臓が止まっていたと聞かされる。
ここからは相方さんの解釈だけど、
件の神社で神様に
「リセットしたい」
と願ったら、まさにその通り
「強制リセット」
されたと。
つまり、相方さんの心境としては倒れてからの記憶が無くなったので、
「まさに新しく生まれ変わった」ようだと。
でも、ひとつ間違ったら命は無くなっていた。
だから無闇に神社で願い事をしてはいけない。
実体験に基づき、その様な警鐘ともとれる注意を飲み屋の席で相方さんにされた。
同席していたバイト先の女性も、
「神社での願い事は本当にその通りになるから気をつけなよ〜」
と相槌を打った。
自分は神社についてはよく分からないというか…
神様みたいな存在は漠然と信じてはいるけど、
神社については昨今のパワースポットブームや神社参拝ブームがあっても詳しくはないので、
「そういうものなのか…」
と、なるほどと思いながらハイボールを喉に注ぎこんだのであった。
終わり