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倒産に至る社長の心の変化には4つのプロセスがあった(僕の場合)

倒産経験のある自分の体験を元に、会社を閉じる、廃業する為のことをこのnoteで書いていきます。破産の手続きが終わって、今思えば、「あの時こうしていれば良かった」と正直感じる事も多々あります。終わりが見えないコロナの影響の中で、日々事業に頑張って取り組んでいる経営者・事業主の方の役に少しでもたてれば幸いです。


倒産は怖い?不安な社長が抱える悩みの原因


私は会社の資金繰りが厳しくなってくると「このまま事業を続けられるのだろうか?」「いっそ会社を潰してしまった方が楽では、、、」といった思いが交錯して、頭のなかがモヤモヤして本来の仕事に集中できないというという状態になってしまいました。

会社を経営する中で、社長が考えなければならい事は多岐にわたります。自社の商品・サービスの事、お客様の事、取引先の事、従業員の事、月々のキャッシュフローetc。当然ながら、倒産はこれらの全てに大きな影響を与えます。正直、多くの方に迷惑をかける事を想像して、不安な気持ちがつのって眠れない日も沢山ありました。

どうして不安な気持ちになってのかを、改めて考えてみると「倒産の経験と知識がなかった」という事につきます。 知らなかった事を大きく分けるとは倒産の「仕組み」と「費用」と「スケジュール」になります。多くの経営者にとって倒産は未知のものになります。経験が無くても、事前に知識があれば必要以上に怖がったり、不安に思ったりする必要はないと思います。(今となって言えることですが)。充分な知識を持って一つのプロジェクトとして取り組んでいく事が大切になります。法律の専門家ではないので、法的な手続きの詳細については弁護士の先生に譲るとして、今回は僕が倒産前にどのような事を考えていたのかと、手続きの中で得た経験を「気持ちの変化」「心の状態」という事をベースにお伝えしていきます。

会社が危機的な状況になると社長はどんな気持ちになるのか?

経営者も様々なタイプの方がいて、経営手法も多種多様であれば会社が危機的になって来た時の心のあり方も色々あるかと思いますが、ここでは一中小企業の経営者であった私の気持ちの変化をつづっていきます。

(イヤイヤ期)

私が経営していた会社でも毎月、顧問の税理士事務所の担当と定例のミーティングを行っていました。試算表をベースに今後の受注予定や案件の利益率などをチェックして資金繰りの方向性などを確認していました。試算表を見ると、どう考えても「○月で資金がショートするな」というタイミングが見えてきていました。税理士事務所の担当も「このタイミングで借入をしては」と提案をしてきたのですが、借入をしても、乗り越えられるのはその月と翌月ぐらいで、それから先は事業の継続は難しいという事は明白でした。

ただ、その事実に向き合いたくないという気持ちが徐々に大きくなり、厳しい経営状況に対して目をそむけて判断をしたくないというモードに入ってきました。部下から判断を求めれても「適宜やっておいて」「今まで通りな感じで」「○○に任せるよ」といった杜撰な対応になっていきました。厳しい状況に会社が陥る中で現実逃避を図る為に、「今、そんな事しなくてもいいでしょ!」的な事に集中するようにもなりました。私の場合は、所有している物件の掃除に夢中になりました。掃除をしている時間だけは、自分が取り組んだ場所がきれいになって行く為、なんと言えない達成感が満たされたからです。

経営者として必要な「判断する」という大切な仕事を嫌がり、確実に逃げていました。お子さんのいる方だったらよくご存知の(イヤイヤ期)に入っていました。何をするのも「イヤ!イヤ!」という2才児のように、「仕事するのイヤ!」「判断するのイヤ!」と部下から逃げ、お客様からも逃げていました。経営が厳しくなってきた社長のイヤイヤ期ですが、NHK Eテレの「すくすく子育て」という番組の遠藤先生が仰っている下記が当てはまるような気がします。その時はまだ何が好きというが、何をしていいいの分からずに、ともかくあらゆる事を嫌がる時期がしばらく続きました。自分探し、確かにしていました。

Q イヤイヤ期はどういう時期なの?
A「イヤ」を繰り返し、「好き」を見つける自分探しの時期
https://www.nhk.or.jp/sukusuku/p2019/799.html

<なんで?どうして?期>
(イヤイヤ期)がすぎると、だんだん社内の雰囲気も悪くなってきて、色々な社内コミュニケーションの障害やホウ・レン・ソウのミスが頻発するようになってきました。経営者が判断する事をサボって、仕事をしなくなれば当然のように、クレームなどが生まれてその対応などに忙殺される事になります。「なんで、こんなクレーム対応を俺がしなきゃいけないんだ」とか「どうして、こんな事もやってくれないんだ」と社内のスタッフに対して、不満がつのっていきました。また、顧客からの問い合わせも丁寧に対応して次の仕事につなげていかなければならないところを、「こんな細かな事でいちいちクレームをつけるなんて、どうかしている!」という気持ちにもなったりしました。今起きている困難な事象を、「〇〇がいけない」「□□が出来ていないのがダメだ」人のせいにするマインドに陥ってしまいました。

普段は鷹揚でどちらかといえは何事もポジティブにとらえるタイプと自認してきたのですが、この時ばかりは、自分の責任を棚上げして、「悪いのは○○だ」と犯人探しのような事をつづける時期が続きました。経営をしていく中で、会社の中で起こる事は、最終的にはすべて社長である自分の責任であるのは当然ですが、この時期はどうしても「部下が悪い」「業者が悪い」「客が悪い」と人のせいにしないとなんともならなかったのが正直なところです。今思うとこの時期の自分が一番恥ずかしいです。

(モヤモヤ期)と倒産の壁
(イヤイヤ期)や(なんで?どうして?期)を経て、今後の入金状況と、これから発生する支払いの状況をみると、「この月はしのげても、翌月はしのげない」という事が明確になってきました。この時期になると、なんともならない事を薄々感じながらも新規の仕事を確保する為に営業しようとしたり、固定費の削減の為に従業員の配置転換や給与削減などを考えるようになりました。新規案件の獲得については、今までアプローチしていた見込み客へのアプローチなどを泥臭く取り組みましたが、商品特性上、一度や2度訪問して受注が取れるようにものではなかった為、結果からすると徒労に終わりました。

また、固定費として一番のウェイトを占めている人件費については、タニタの社長さんが「タニタの働き方改革」の中で提案している社内フリーランス制度のように希望する社員を一旦解雇して、業務委託契約にする事などを検討しました。このプランに関しては社労士の先生に相談しながら、私自身としてはかなり前向きになっていました。ただ、当社が取り組んでいる事業の形態が現場に根ざした現業である事と「正社員としての雇用」に重きを置くタイプの従業員がほとんどだった為、この取組も結局のところ実現できませんでした。また、なんとかキャッシュを作ろうと所有している物件の売却ができればと査定などをしたのもこの時期です。不動産業者に打診したところ、「すぐには買い手が見つからないし、売れたとしてもたいした金額になならい」という返答で、本当にがっかりしてしまいました。

やることなす事すべてうまく進まずに、一方でタイムリミットが迫っている。いろんな思いが交錯して、考えがまとまらず、もやもやした感じが自分自身を覆っていました。「もう、会社も俺もダメだ」そんな事ばかり考えていたこの時期を勝手に(モヤモヤ期)と呼んでいます。気持ちが「会社を閉める」「会社を継続する」という2つの方向性の中で、ピンポン玉のように行ったり来たりしていました。決断しなければいけないタイミングが迫っていて、考えがまとまらずお酒の量が増えたのもこの時期です。今思いかえせば、自分に迫っていたのは廃業や倒産という大きな壁だったと思います。

(心がと整う期)
(イヤイヤ期)(なんで?どうして期)(モヤモヤ期)を経て私が到達したのは(心が整う期)です。フランクフルトMF長谷部選手の「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣」にあるような立派な事をしたわけではないですが、経営の危機に瀕して迷い悩んだ末に、行動していく方向性を定めることができるようになった状態の事を、勝手に(心が整う期)と呼んでいます。

この状態になれたきっかけは以外と簡単でした。部下から案件の報告があるという事で話は聞いていると「社長、そろそろ○○案件の契約をお願いします」との事でした。「ところで、○○の粗利率は何%なの」と確認すると「△△%です。」と普通のトーンで話していました。業界や取り扱っている商品やサービスによって適切な粗利率というのはあると思いますが、当社が取り組んでいる受託型の仕事の中で「△△%」で仕事を受注したら、完全に成り立たないレベルの数字でした。

その数字を聞いた瞬間に「がーーーん!」と頭を叩かれたようになり、率直に言うと「こりゃダメだ。。。」という気持ちになりました。ただ、この彼の発言によって、今まで悶々と思い悩んでいた気持ちを変える事が出来ました。会社の命脈もつきかけている中で、法的な手続きを含めて判断を下す必要があると心に決めて顧問の弁護士の先生宛に電話をした瞬間を鮮明に記憶しています。この状態(心が整う期)に入ってからは、取引先の対応、従業員への対応、お金の工面など(イヤイヤ期)にあった自分からは信じられないくらいのスピードで様々な決断をして法的な手続きに入っていく事ができました。今思い返せば、従業員がふと発言した一言が、自分の気持ちを変える大きなきっかけになってくれた事に感謝しています。

僕の場合は、

(イヤイヤ期)

(なんで?どうして?期)

(モヤモヤ期)

(心が整う期)

と心のあり方が変化していったという事をあとになってみるとまとめる事が出来ます。すべての経営者が、会社の危機に際してこのような気持ちの変化になるという訳ではないと思いますが 、私の場合はこのように変わっていきました。

もちろん、気持ちの変化を経て事業を立て直す事がベストなのでしょうが、倒産という大きな決断をする前には多かれ少なかれ社長の心に負担はかかってきます。創業社長で業歴が長くなっていればいるほど、会社=自分となり、その存在が失われるかもしれないという決断は耐え難い事になります。親しい人の喪失に対する不安や恐れは誰にとってもありますが、中小企業の社長にとって会社の喪失は自分の喪失と限りなく近いものなので当然のように心は不安定になります。

今でも経営不振に陥った会社の社長の自殺は多くあります。真面目な人ほど保険金で借金の返済をしようとするという事も聞きます。従業員、取引先に迷惑をかけたくないとい気持ちは大切ですが、借金の返済が免責になる、法的な手続きが「破産」「民事再生手続き」「会社更生」などがあります。破産をしても昔のように債権者が家に押しかけるようない事もなければ、奥さんと別れる必要もありません。法的な手続をしっかりとれば、借金を返す必要がなくなって、社長個人の生きる権利はきちんと保証されます。会社が危機的な状況になったとしても、社長が死ぬ必要は全くありません。我が子のような会社という存在であったとしても、社長の命に勝るものではありません。

倒産は社長にとって命を守る為の行動でもあります。早めに決断する事が、従業員や取引先に対して迷惑をかける度合いが少なくなります。その行動が、社長自身の次のステージにつながっていくものになります。会社を畳む、廃業するという大きな喪失の前に、心が乱れる事は当然ありますが、適切なタイミングで判断を行う事がよりよい解決策に近づきます。


会社が危機的な状況になり、廃業しているのであれば倒産に向けて「社長の心は大きく変化する」という事を前提に、今できる準備がなにかを考えていった方がよいのかなぁと今となっては思っております。

少しづつ起業、廃業、M&Aについて書いていきます。


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