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Vol.5 ゴール前こそ蹴る!トライにつながるキック
「陣取りゲーム」とも言われるラグビーでは、最も速く・遠くにボールを運べるキックを使い、相手陣へ侵入するプレーが多く見られます。
特に自陣からのアタックでは、相手ディフェンスラインの背後に大きなスペースがあるため、ロングキックを蹴り込み、ボールを相手に与える代わりにキックチェイスからディフェンスへと切り替えていくのが一般的です。さらに、現代ラグビーではロングキックによるテリトリー獲得に加え、ショートキックでボールを再獲得するプレーも求められるようになりました。キックを浮かす、転がす、競り合うといったプレーが、トライにつながる重要な要素となっています。
1.トライエリアに転がすグラバーキック
ディフェンスを引きつけて、コーナーへ絶妙のグラバーキックでトライ演出。 #JEK pic.twitter.com/dHzJx60Bcp
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よく見られるキックの一つとして、ラインブレイク直後のコーナーへのグラバーキックがあります。ラインブレイク直後、独走するボールキャリアにとって、このキックは有効な選択肢の一つであり、トライにつながるケースも多く見られます。もちろんハンズパスやオフロードパスでトライを狙うのが基本ですが、パスコースがないと判断した場合、タックルされて攻撃の流れを止めるよりも、コーナーへキックを転がしてボールを手放した方が、スコアにつながりやすいという考え方です。
パスコースにディフェンスがいる場合はキックで走り込ませる。サッカーのスルーパスと同じ考え方。 #JEK pic.twitter.com/jQLSPlXVBF
— Japan Elite Kicking 🇯🇵 #JEK (@JekOfficial) February 8, 2025
ゴール前でのアタックでは、ディフェンスが素早く前に出る傾向があります。カバーすべきバックスペースが狭いため、ウィングやフルバックが前に上がり、ラッシュアップやアンブレラディフェンスでゲインラインの突破を阻止するのが目的です。アタック側にとっては、ボールを下げずにゲインラインを越えるダイレクトプレーを連続して仕掛けることに加え、手薄になりがちなエッジやバックスペースへのショートキックが、トライを奪う上で有効な手段となります。
2.低空クロスフィールドキック
低空のキックパスが得点につながる大きなポイント。 #JEK @mornesteyn pic.twitter.com/VZsVLj2WG5
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このプレーも近年、一般的になってきました。セットプレーやフェーズプレーで密集にディフェンダーを寄せて、一気に逆サイドへキックパスを通すプレーです。パントキックスキルの進化により、大きな得点源の一つとなっています。ポイントは、ボールを高く上げず、低く速く逆サイドに届けること。キックならではの「前パス」として活用します。
ゴール前アドバンテージの理想的な使い方。背後のスペースに低空キックをピンポイントで合わせていとも簡単にトライ!アドバンテージがあったからこその思い切った選択。 #JEK @FranceRugby pic.twitter.com/Vhe5JisbFz
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これらのプレーはハイリスク・ハイリターンです。ボールを再獲得することができればトライに直結するところですが、相手に渡れば一気にピンチに陥り、トライを奪われる可能性も高まります。そのため、多くの場合、このようなプレーはペナルティーアドバンテージを得た時に活用されます。アドバンテージ下であれば、たとえ失敗してもペナルティーから再開できるため、リスクなくチャレンジすることができるのです。
ゴール前アタックの中でのこの低空キックパスは、ディフェンス側からすると止めようがない。 #JEK pic.twitter.com/tjKuGH4fq3
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このレベルになるとフィールドのどこにいてもフリーな選手にボールを届けられるので、たとえアドバンテージがなくても、積極的にキックパスを狙うことができます。フランス代表 デュポン選手のこのキック精度は…。
3.2ndレシーバーからクロスフィールドキック
9シェイプを経由することでディフェンスラインが前に上がる。その背後にクロスフィールドキック。 #JEK pic.twitter.com/MCmvqgmaIM
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クロスフィールドキックを活用した応用アタック。SHまたはSO(1stレシーバー)から直接キックするシンプルなパターンに加え、9シェイプ経由やBK同士のバックドア(2ndレシーバー)からのクロスフィールドキックが、多くのトライを生み出しています。9シェイプを経由することでディフェンスラインは前に押し上げられ、キッカーへのプレッシャーは増しますが、その分、背後のスペースが広がり、再獲得しやすくなるのが特徴です。
4.コンテストキック(ハイパント)
あえて滞空時間の長い高めのキックパスにしたのがポイント。DFは後ろ向きに下がりながら処理するので高い位置でコンテストすることが難しく、AT側はトップスピードで走り込めるのでジャンプが高い。クロスフィールドキックの空中コンテストはアタックが有利。 #JEK pic.twitter.com/ieiQwIH9CH
— Japan Elite Kicking 🇯🇵 #JEK (@JekOfficial) January 12, 2024
ハイパント攻撃は、昔も今も変わらず有効なキック戦術の一つです。主に自陣からの脱出手段として使われますが、クロスフィールドキックの応用として、ゴール前やトライゾーンに高く蹴り上げるコンテストキックもトライに直結するプレーとなります。ディフェンスは後ろに下がりながら、あるいは真上に上がったボールを処理する必要があります。一方、アタック側はスピードをつけてジャンピングキャッチの体勢に入れるため、有利な状況を作りやすくなります。
さらに、ディフェンスは一つのミスも許されず、大きなプレッシャーを受けるため、キャッチングやポジショニングのエラーにつながる可能性もあります。
タッチライン際に張り付いているDFに対して、あえて滞空時間の長いキックパスを蹴り込み、チェイサーに走り込む時間を作る。特にクロスフィールドキックのコンテストは、助走がつく分アタック側が有利になりやすいです。#JEK @samgreene10_ @yaaatomi13pic.twitter.com/zR4nLwv07Z
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5.ショートパントでコンテスト
オープンサイドへのパスアウトから、ショートサイドへミドルパント。一度オープンサイドに出したことでショートサイドのバックスペースが手薄に。このエリアでの空中コンテストは、勢いのあるアタック側が有利になる。 #JEKpic.twitter.com/MsqsJU2F7P
— Japan Elite Kicking 🇯🇵 #JEK (@JekOfficial) February 9, 2025
コンテストキックはハイパントだけではありません。その名の通り、「競り合う」ことができれば、低めのショートパントの方がキャッチ成功率が高まり、そのままスコアにつながる可能性もあります。
チェイサーのスピードを生かし、絶妙な高さとコントロールでゴール前にキックをあげれば、トライに限りなく近づきます。
6.まとめ
従来の「長い距離のキックを蹴り込み、相手陣でディフェンスする」戦術に加え、近年では「短い距離のキックでボールを再獲得する」プレーがラグビーのトレンドとなっています。エリアを問わず、キックをパスの手段として活用するプレーが多くのトライを生み出しています。特に、ボールを大事にしたくなるゴール前だからこそ、生きるキックプレーがあります。
勇気を持ったキックアタックこそが、多くのトライシーンを生み出す原動力となるのです。