美術館つれづれ:思索を楽しむ自由な時間。アーティゾン美術館
アーティゾン美術館にART IN BOXマルセル・デュシャンの≪トランクの箱≫とその後を見に行った。
その展示作品については後日まとめることにしするが、その展示は石橋財団コレクションのなかの特集展示なので、全体の中では大変ちいさなコーナーだった。
その日はまず、企画展示の”パリ・オペラ座 響きあう芸術の殿堂”というド派手な展覧会と、石橋財団コレクションの膨大な作品群をみなければその展示コーナーにたどりづけないため、しかたなく作品を見ながらダンジョンをめぐるようにして美術館を回遊した。(ほかにルートがあるかもしれないが、セット券を買うしかなかったため全部見た)
目当てにしていた展示コーナー、マルセル・デュシャンを中心とした”ART IN BOX”とは、つまり20世紀初頭くらいの箱を利用した芸術表現だ。
箱の作品で有名なジョセフ・コーネルや同時代の芸術集団フルクサスの作品も展示されていて、今では懐古趣味的でロマンチックに見える表現だが、これが現代アートと呼ばれていた時は画期的なアイディアだったのだろうと思いながら見た。
しかし、私はそこまでの道のりにかなり疲れていた。
ああ、つかれたなあ、と思って展示室内を歩いていると白い壁で区切られた区画があった。
そして、その中に向きを違えて椅子が2つと左右の壁に3枚づづ、合計6枚の絵が展示してあった。
中に入るとクロード・モネの部屋だった。
片側の壁には”睡蓮”をテーマにした作品2点と”黄昏・ヴェネツィア”、もう片方の壁には”アルジャントゥイユ”を描いた2点と”雨のベリール”、一つの壁に3点づつが展示してあった。
作品の前に置かれている椅子は一人がけのデザイナーズチェアで、倉俣史朗の作品だ。他の美術館では展示品として扱われていそうだ。
アーティゾンではこの椅子にはすわっていいらしい。
ちなみに、この日は平日だったためか、コレクション展示室ではごくまれに誰かとすれ違う程度で、モネの部屋は無人だった。
クロード・モネの絵を座って占有できる時間だった。
庶民感覚が板についた私としては、正直ドキドキした。
「ここにすわってほんとにいいのかな~」とつぶやきながら座ってみた。
快適な椅子に座りモネの絵を前にしてボーっとしていると、絵のよさというよりも外界から遮断された「モネの絵がある空間」の心地よさが堪能できた。
艶のないマチエールにばさばさとした筆致で描かれたモネの絵のどこがいいのだろう?と思っていたが、刺激なく心地よい。
食べ物でいうなら大豆にこだわった豆腐のようだ。
絵を食べ物に例えたのは初めてだが、意外にわかりやすいのではないだろうか。
絵から椅子までの距離は1,5から2メートル。
このサイズの印象派の絵を見るにはちょうどいい距離だ。
そして、疲れた目と体にはその絵の脱力感がありがたかった。
クロード・モネのよさがちょっとわかった。
アーティゾン美術館は日常から離れて自分の時間を取り戻したい人にはおすすめの上質な空間だ。