イケメンとくいだおれ花子
眼科に行った。
コンタクトの処方箋期限はまだ当分先だったのだが、転職してデスクワークになってからというもの、一日中PCとにらめっこしているせいで、視力が落ちてしまったのだ。
先生の診察を受ける前、看護師さんに視力検査や度数の相談に乗ってもらった。
今回私の担当だったのは、若い男性の看護師さんだった。
歳としては同世代くらいか。黒目がちで少し垂れ目。髪型は特別セットしているようには見えなかったが、きれいに切りそろえられ、清潔感がある。人懐こい感じはないけれど、話し方もゆる~い雰囲気で、たぶん二次元だったら、なんというか「かわいい後輩」ポジションといったところか。まあ簡単に言うと結構タイプのイケメンだった。
視力検査時御用達のあの謎のガチャガチャメカニック眼鏡をかけて、視力検査をしながら、自分の希望を聞いてもらった。
私は病院でも美容院でもお買い物でも、そのお店の方と話すのって、嫌いじゃないけどちょっと苦手で、自分の希望や話したいことの半分も伝えられなくて、妙に落ち込んで帰ってくることが多かったりする。
2年前、身だしなみのルールが厳しめの前職を辞めて、髪型を思いきって変えるぞー!とウキウキしながら、カラーとパーマで別日に別の美容院に行ったことがある。どちらも担当は初対面の男性の美容師さんで、私の率直な希望を勇気を出して伝えると「それは難しいのでこうしよう」「だいぶ印象変わりますけど本当に大丈夫ですか」「これのほうがいいと思うのでこうしますね」と淡々と正論で説き伏せられてしまった(ように感じた)ことがあった。それが自分でもびっくりするくらい、やたらと悲しかった。
私は本当はその時「その髪型にしたい」という気持ちよりも、「このワクワクの気持ちを共感してほしい」という気持ちのほうが強かったのだと思う。
「仕事を辞めたので髪型ももう自由なんです!だから好きな髪形にしようと思って!」「わー!それは素敵です!協力します!こういうのもどうですか!きっと似合いますよ!」みたいな、なんというか要はキャッキャウフフな会話がしたかったのだ。
しかし今回の看護師さんは、淡々としながらも、ちゃんとじっくり私の希望を最後まで丁寧に聞いてくれて、その上で嫌味ない言葉を選んで指摘してくれたり、圧もなく私の要望に沿っていろいろな提案をしてくれた。
自分の知らないことを指摘されると結構惨めな気持ちになることが多いのだが、今回は全くそういうことがなく、私が恥をかかないような話し方をしてくれた。…というよりも、この看護師さんはたぶん自然にそれができる人なんだと思う。それがなんだか嬉しくて、鳥肌が立つくらいじーんとしてしまった。惚れてまうやろ。
ただひとつ、懸念があるとすれば、、、
真面目に相談に乗ってもらっていたとき、私は例の視力検査用ガチャガチャメカニックメガネ(名称不明)をかけたままだった。
あれをかけている自分を想像するとだいぶ恥ずかしい。あれをかけた状態の自分の顔を鏡で見たことはないだけに、どういう見た目になっているのか具体的に想像ができない。でも絶対カッコよくはないだろ、アレ。
話してはいるけどまだ視力検査は続きそうだし、外せと言われていないので下手に外せないし、というか外したら外したでちょっと負けたような気になるし。でもこれ、周りからどう見えてる?そうとうダサくない?私。
あれのデザインってなんだかビン底メガネを思い起こさせる。パーティーグッズのような、まるで大阪道頓堀のくいだおれ太郎みたいな眼鏡。
眼科の一角で、イケメンとくいだおれ花子が大真面目に話をしている。
想像しただけでこっ恥ずかしい。
あのメガネをかけた状態の人が大真面目な顔で自分をまっすぐ見つめてきたら、私だったら笑ってしまうかもしれない。
というわけで、気持ちだけはまだ乙女な私は終始顔を伏せながら話をしていたのであった。
でもあのメガネってメカニックでちょっと興味ある。売ってるのかな。
あるのかよ。
あそぶのかよ。