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Column #31 暑い

暑いなぁ。ニュースによると、北海道より緯度の高いロンドンでも40度を越えてきている。暑い。もう一度言う。暑い。

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ただ、以前僕がよく開催していた「きこえる・シンポジウム」に参加したことがある人や、その辺りの情報をちょくちょく頭に入れていた人には、たいていの異常気象が想定内ではあると思う。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの提言通りに、世界が進んでいるだけだ。

コロナや、最近急増している"サル痘"も、気候変動との因果関係はある。違法かつ大規模な森林伐採が続き、本来は自然界の奥の奥でひっそりと暮らしているはずの生物と人間との距離が、異様なほど近くなってしまった。

そこに暮らす生物たちに寄生するウィルス。同一の環境のなかでは決して特異ではないのだけど、人間にとってはやはり特異なもの。同じ地球上に存在していながら、超えてはいけない世界線を超えてしまった。

陰謀論云々は基本的に信じないが、可能性で論じればまったくのゼロではない。誰かがこの世界をひっくり返そうとしているのは確かで。誰かどころか、この世界の半分の人がそう願っているのだろう。

まだ天動説が信じられていた時代、地球は山や海こそあれどこまでも平らな世界だった。もしもそのことが真実で、この大地の裏側にコウモリのように宙吊りになるような形で生きる者たちの、もうひとつの世界があったとしたら。向こう側から見れば、こちら側も宙吊りの状態だ。

現実に戻る。自然界の奥の奥の世界、そのまたもっと奥、洞窟の闇のなかで宙吊りになりながら暮らすコウモリと、彼らの身体のなかで安寧に暮らしていたコロナウィルスたち。何らかの理由で(こればかりは謎だ)人間の世界にやってきて。やってきたはいいが、どうやって子孫を残しながら生きながらえていけばいいかを、彼らなりに模索している。形を変えながら、増えてみたり減ってみたり。

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ああ、、、こんな風にコロナの話を書くつもりじゃなかった、ただ最初にまず「暑い」と言いたかっただけだ。(たいてい何も考えずに書き始めるのだ)

今だにどちらかというと夜に生きる自分にとって、今年、蝉の声に最初に気付いたのは、真夜中だった。たった一匹による独唱。夏の始まりを意味する開会式における、蝉の国の国歌斉唱。もしくはミュージアムの片隅でスクリーミングを始めるヨーコ・オノ。

スタジオのエアコンの下でぬるぬると毎日過ごしてしまっている自分は、ちょっと炎天下を歩いただけで、部屋に戻った途端に頭がクラクラする。運動不足もあり血流が足りていない。サラサラと流れる小川ではなく、澱んだ用水路のようだ。

目の前では最後のIntel CoreのiMacが、仕事に精を出しながら熱を吐き出している。人に気を遣って、裏側の壁に向かって。

そういえば最近、配線周りをよりスッキリさせて、仕事机がかなり広くなった。本来ならパソコン以外はなるべく何も置きたくないのだが、幾つかの資料用ファイルボックスと、さらに必要最低限なものがある。さっきのエアコンのリモコンとか、筆立てとか、iPhoneとか、時短用のタイマーとか。

それらをどかした部分、つまり机の上にマスキングテープを貼り、それぞれの道具の名前をそこに書いておくようにしている。そこがその道具の定位置であり、他の場所に置いてしまってもすぐ元に戻したくなるように。あとでいちいち探したくないので。

とくに仕事が乗っているときなんかに、仕事部屋で延々と探し物をしていると、「人生でこんなに無駄な時間はないな」と思う。ただでさえ現代人は時間がないのだし。

そのうちすべてのものに高性能GPS機能を付けられる時代がくるのだろうか。本棚や引き出しにしまった道具ひとつひとつに、何か小さなシールを貼るだけで、宇宙から人工衛星がミリ単位で探し出してくれる。床からの高さまで計算して。

でも、そんなことこそ技術の無駄遣いだな。人間の頭が衰えていくだけだ。パソコンで検索にかけたり、店の中だったら店員さんに聞けば、すぐに該当する場所を教えてくれらだろう。そういった手っ取り早さも大切だけど、自分の手や足、頭で探すということも大切。そうか、訂正しよう。何かを探す行為全てが無駄な時間ではない。

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おっと、そろそろ出かけないといけない時間だ。今は真昼間なので、蝉は独唱なんかではなく、お得意の大合唱。もしかしたら蛙のように輪唱しているのかもしれない。いや、蛙は輪唱していない。そういう歌があるだけだ。

日傘を差す勇気はまだない。かといって肌は弱いので、日焼け止め(敏感肌用)を丹念に塗る。数年前に買ったまま一度も使っていないサングラスを、今日はちょっと掛けてみようか。でも一度コンタクトを入れないといけないから、面倒くさい(結局かけた)。

我が街も今日は40度を越えるかもしれない。なるべく辺りをキョロキョロして、東南アジアやアフリカを旅行しているんだと自分に言い聞かせよう。

いっそのこと「暑い」と一度も言わないまま過ごせたら。もちろん他の人に対しては、いっさい咎めない。かつての「笑っていいとも!」の返しじゃないが、「暑いですね」と言われたら「そうですね〜」とだけ言うことにしよう。

そう思って玄関を出て、日向に足を踏み入れた瞬間、思わず口から言葉がこぼれる。「暑い...…。」