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適応型テストという仕組みについて

最近、
『適応型テストとはどんな仕組みですか?』
『適応型テストはどんなところがメリットですか?』
と聞かれる機会が増えました。自分の認識の範囲で、簡単に解説してみたいと思います。

適応型テストとは何か

テストを紙で実施する場合には、同じ問題をコピーしたテスト用紙に、全員が一斉に回答するのが一般的です。通常、テストというと、こうしたイメージをもっている方が多いと思います。

適応型テストは、このような通常のテストと異なって、一人一人の受検者に合わせて出題内容が逐次変化するテストのことです。ほとんどの場合、PCやタブレット上で実施されます。

そもそもテストは、受検者の特性の把握を目的に実施されるわけですが、その場合に『全員が同じ問題に回答することには必然性があるのか』ということについて少し考えてみます。

例えば英語のテストで、英語がある程度できることがわかっている上級者には難しい問題を、初心者の人には簡単な問題を出したとしたら、どんなことが起こるでしょうか?

上級者向けの難しい問題を初心者の人に出題しても、ほとんど回答できないでしょうし、上級者に初心者向きの問題を出したら簡単に全問正解してしまうでしょうから、それぞれの人のレベルに合わせた問題を出すことは、ある意味で理に適っているように思えます。

一方、課題としては、次の2点が挙げられそうです。

1)それぞれの受検者が初心者か上級者かをどのようにして判断するのか(まだテストを実施していないのに)

2)受検者によって出題される問題が異なっているとしたら、どのようにして比較可能なスコアを算出するのか

2点目が少しわかりづらいかもしれませんが、例えば、初心者用の問題で80点とった人と、上級者用の問題で70点の人のレベルをどうやって比べるのかという課題です。

適応型テストとは、端的にいうと、上手な方略を使ってこれらの課題をクリアすることで、受検者のレベルに合わせた問題を出題しながら、比較可能なスコアを算出するように構成されたテストのことです。

ポイントは、尤度(likelihood)という概念の活用にあります。尤度とはこの場合、各問題項目について集計された能力レベル別の正解率から、各受検者のレベルを推定した結果です。能力レベル別の正解率は、大量のデータを集めることで事前に把握しておきます。これを使って受検者の能力レベルを比較可能な形で推定することができます。

また、例えば最初の5問程度は出題をランダムに行って、その結果で受検者が初心者か上級者か判断すれば、6問目以降は受検者のレベルにあった問題を出題することができます。コンピュータを使うなどして、回答と同時に採点を行うようにすれば、このようなことも可能です(実際には能力レベルの推定も、回答の度に逐次的に実行されます)。

適応型テストのメリット

適応型テストのメリットはいくつか存在しますが、最大のメリットは、効率の良いテストの実施が可能で、少ない問題数で受検者の能力レベルが推定できる点にあると思われます。その仕組みは、前述の通り、各受検者のレベルにあった問題を出すというコンセプトで達成されます。
テストの効率を上げることは、受検者の負荷を下げることにつながります。
他に、複数回の受検が想定されるテストの場合に、受検者が同じ問題に出会う可能性を下げられる点もメリットとして挙げられます。

適応型テスト開発の注意点

個々の受検者に合わせた問題を出題するということは、それだけ沢山の問題をストックしておく必要があるということです。適応型テストを開発する場合の課題としては、大量の問題項目について、事前に正誤データを取得しておく必要がある点を指摘できます。また、出題や採点の計算アルゴリズムが複雑であり、独自の運用ノウハウのようなものが必要になることも開発上の課題になると考えられます。

適応型テストの開発を検討するケース

適応型テストは魅力的な仕組みですので、テスト開発を検討する中で『これからの時代にテストを開発するなら、ぜひ適応型にすべきだと考えている』というお話をいただくことは多いです。一方で、やはり開発上の課題も小さくはないので、導入は総合的に判断していく必要があるだろうと思います。

この記事が何かの参考になれば幸いです。

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