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 私は現在「IBDP日本語Aのチューター」と「IGCSEの経済・地理」のサポートをしています。元々は公立高校の社会科の教諭だったのですが、教育的な視野を広げるとともに社会科の探究的な学びをより深めたいと思い、オランダへやってきました。

 IBやIGCSEで学んでいる生徒たちを見ると、日本のカリキュラムとはかなり異なるプロセスで学んでいることが分かりました。そういったことをより多くの方に実感していただけたらと思い、自分が学んだことを少しずつ記録しています。

 今回は、IBDPの経済の科目概要についてまとめておきたいと思います。学習内容に関係する評価がこれほどに異なるということが伝われば何よりです。


コースの説明とねらい

 まずは、経済という科目についての説明を見ていきます。

急速に変化する世界における経済活動の複雑さや相互依存の理解を促す、知的刺激に満ちたダイナミックな科目

 希少性の問題が経済理論の中核にあり、限られた資源や労働力などをどのように配分するのかという選択が余儀なくされています。経済理論、モデル、 重要概念を学び、それらを用いて、個別市場における生産者と消費者のレベル(ミクロ経済学)、政府と国民経済のレベル(マクロ経済学)、および国同士が相互依存を強める国際的なレベル(グローバル経済)という各レベルで「選択」がどのように行われるかを考察します。

 そのために、9つの重要概念と6つの実社会の問題に焦点を当てます。

9つの概念
希少性、選択、効率、公正、経済的福祉、持続可能性、変化、相互依存、介入

 経済モデルがもつ価値と限界を認識しつつ、実社会の経済事象を理解していきます。そして、グローバル市民としての責任ある行動を促す知識、スキル、価値観、態度を育むとされています。

DP「経済」のねらい

・ミクロ経済学、マクロ経済学、グローバル経済の分野において、広範な経済理論、モデル、観念、ツールへの批判的な理解を育む。
実社会の経済問題や、個人と社会が直面する問題を理解し、それらに取り組んでいくために、経済理論、モデル、観念、ツールを応用し、経済データを分析する。
個人と社会の経済的な選択と、経済的な意思決定の相互作用、阻害要因、結果の概念的理解を育む。

カリキュラムモデルの概要

①経済学への導入(10時間)
・経済学とは何か
・経済学者はどう世界にアプローチするか

②ミクロ経済学(SL:35時間、HL:70時間)
・需要
・供給
・競争市場の均衡
・消費者と生産者の利益最大化行動に対する批判
・需要の弾力性
・供給の弾力性
・ミクロ経済学における政府の役割
・市場の失敗 ― 外部性と共有資源
・市場の失敗 ― 公共財

③マクロ経済学(SL:40時間、HL:75時間)
・経済活動を測定するさまざまな方法
・さまざまな経済活動 ― 総需要と総供給
・マクロ経済目標
・不平等と貧困の経済学
・需要管理(需要サイド政策)― 金融政策
・需要管理 ― 財政政策
・供給管理(供給サイド政策)

④グローバル経済(SL:45時間、HL:65時間)
・国際貿易の便益
・貿易保護の種類
・貿易保護、規制に対する賛否
・経済統合
・為替相場
・国際収支
・持続可能な経済発展
・経済発展の測定
・経済成長、経済発展を妨げる障壁
・経済成長、経済発展戦略

⑤内部評価[IA](20時間)
 3つのコメンタリー(論評)のポートフォリオ

評価モデル

4つの評価目標

①知識と理解
・特定の学習内容についての知識と理解を示す。
・シラバスのSL・HL共通の学習項目についての知識と理解を示す。
・時事的な経済問題やデータへの知識と理解を示す。
・(HLのみ)「HL発展項目」のトピックについての知識と理解を示す。

応用と分析
・経済学的概念と理論を実社会の状況に応用する。
・経済データを特定し、解釈する。
・特定の文脈において、経済的な情報がどう効果的に用いられている
かを分析する。
・「経済」の重要概念とコメンタリーの関係を説明する。(内部評価課題)
・(HLのみ)「HL発展項目」のトピックを応用し、分析する能力を示す。

統合と評価
・経済学的概念と理論を考察する。
・経済学的概念と事例を用いて議論を構築し、発表する。
・経済的な情報と理論について論じ、評価する。
・(HLのみ)「HL発展項目」のトピックを経済学的に総括し、評価する能力を示す。
・(HLのみ)政策を提言するために、経済理論を使いながら経済でーたを選択し、活用する。

適切なスキルの活用と応用
・適切な経済理論、概念、用語を使用し、構成の整った文書を作成する。
・経済理論や概念、実社会の問題を説明するために、ダイアグラムを作成し、活用する。
・(HLのみ)報道メディアから適切な抜粋を選び、解釈および分析する。
・(HLのみ)一連の適切なデータを解釈する。
・(HLのみ)数量的に表すテクニックを用いて経済的な関係を見極め、説明し、分析する。

評価の詳細

○外部評価
試験問題1(1時間15分、SL:30%、HL:20%)
 シラバスの全単元に基づく自由論述問題
試験問題 2(1時間45分、SL:40%、HL:30%)
 シラバスの全単元に基づくデータ分析問題
・(HLのみ)試験問題3(1時間45分、30%)
 シラバスの全単元に基づく政策提言問題

○内部評価(20時間、SL:30%、HL:20%)
・ポートフォリオ
 シラバスの異なる単元(導入的な単元を除く)に基づいて、報道記事の抜粋をさまざまな重要概念を用いて分析した、3つのコメンタリーを作成

問題のサンプル

 最後に、「経済」の最終試験で出題された内容について、問題のサンプルも掲載されていたのでそちらも掲載いたします。

○試験問題1(SL)

・報道メディアから適切な抜粋を選び、解釈および分析する。
・一連の適切なデータを解釈する。
・数量的に表すテクニックを用いて経済的な関係を見極め、説明し、
分析する。
・政府が財の上限価格(最高価格)を設定する理由を2つ説明しなさい。
・実社会の例を用いて、上限価格が利害関係者にもたらす影響について論じなさい。

○試験問題1(HL)

拡張的な金融政策をとるために中央銀行が使うことのできる方法を2つ説明しなさい。
・実社会の例を用いて、失業率を下げるための金融政策の有効性を評価しなさい。

○試験問題2(SL)

 貧困サイクルのダイアグラムを用いて、2010年から2015年までのメ キシコにおける外国直接投資(FDI)の純増加がどのように経済発展の向上をもたらしえたかを説明しなさい。

○試験問題2(HL)

 為替レートのダイアグラムを用いて、ナイジェリア中央銀行による金利引き上げがナイラの価値の継続的な下落をどのように防止するかを説明しなさい。

○試験問題3(HLのみ)

 提供されたデータと自身の経済の知識を用いて、コーヒーの国際価格が下落するという見通しに対して、X国の政府が導入できる政策を提言しなさい。

まとめ〜知識は実用できて初めて価値がある

 このように、経済で学ぶことは知識の定着にとどまらず、実社会の中での経済的な事象を学んだ知識を活かして解釈することが求められています。このように、現実世界とのつながりの中で「経済」という科目を学ぶことによって、生徒たちの世の中の見方も変化するのではないでしょうか。また、その変化によって社会の問題解決に取り組むことができるかもしれません。

 学び方を変えるためには、「評価の規準」が「求められる生徒の学び」と合致することが必要だということが分かります。学力という観点だけでなく、将来の社会が少しでも良くなるための学びであってほしいと思います。

<参考資料>
・国際バカロレアディプロマプログラム科目概要
https://www.ibo.org/globalassets/new-structure/programmes/dp/pdfs/economics-hl-2022_jp.pdf

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