Cambridge IGCSE「経済(Economics)」2-3需要[393]
ここまでIGCSEのカリキュラムで学ぶ中学生が学ぶ「経済」についてまとめてきました。日本のカリキュラムとの違いは、テストの時に正解が決まっているものを選択したり、語句補充に止まらないということです。もちろんそういった形式のテストもありますが、最終的には論述という形式で説明が求められること、そしてその際に現実的な事例を使って説明するところです。今回は、「需要」というテーマで需要曲線やそのシフトなどについてどのように学ぶのかをまとめていきます。
"Apple"は家電・コンピュータソフトウェア・オンラインサービスを設計・開発・販売するアメリカの多国籍テクノロジー企業です。"Amazon"や"Google"や"Facebook"と並んで"GAFA"とも言われています。
"Samsung"は韓国の企業で、世界最大の電子機器メーカーの1つです。家電製品やデジタル・デバイスなど、さまざまな電子機器の製造をしています。
"Apple"と"Samsung"は毎年、新バージョンのスマートフォンを発売します。デジタル・デバイスの需要は世界的に増加しており、ここでの消費者の意思決定について考えていきます。つまり、どのブランドを購入すべきかをどう決定するのか、また消費者の商品やサービスの選択に影響を与える要因は何か、そして価格などの要因がどのように意思決定に影響を与えるのかなどです。
ここで、生徒たちは「仮に両親から€100を受け取った」と仮定して買いたいものリストを作成します。そのリストに入っているものをみて、生徒の選択に影響を与える要因について振り返ります。
・お金で何をしたいか、どう過ごしたいか
・どのブランドを買うか、もしくは価格を検討するか
・どれぐらい快適さを優先するのか
・€100を何に使うかを選択する時に影響するものは何か
このような活動の中で、私たちが消費者としてもつ欲求がどのように現れるのか、それを「需要」としてその概念や働きについて学びます。
「需要」の定義と決定要因
需要とは、特定の価格で商品やサービスを購入する個々の消費者の能力と意欲であると定義されます。つまり、消費者がどれだけその商品やサービスを求めているのかが分かります。
ただ欲しいという欲望だけでなく、消費者がお金を支払って購入したいと思う商品やサービスによって、生産者側の供給量が決まることを有効需要と言います。そして、政府・国・企業は売り手にも買い手にもなります。
さらに需要の法則として、価格と需要には負の因果関係があると考えられます。つまり、価格が上がると需要は減少し、価格が下がると需要は増加するということです。この時は他の要因は変化しないものと考えます。
価格が下がると、消費者の購入する能力と意欲が高まります。商品を購入した後も、お金が残るので「可処分所得(収入のうち自由に使える分のお金)」が増加します。そうして、それまでに購入することができなかった消費者も、価格が下がることで購入できるようになります。このように、価格は需要量を決める重要な要因となります。
非価格決定要因
価格が需要量を決める重要な要因であることを確認してきました。需要に影響を与える要因が他にどのようなものがあるのかを考えます。それは、「収入」「トレンド(流行)や習慣」「代替品(その商品やサービスの代わりになるもの)の価格」「補完品(商品・サービスの使用に際して必要になるもの)の価格」「人口の変化」があります。
「収入」が高いほど、商品やサービスを購入する能力と意欲が高くなり、ほとんどの製品の需要が増加します。例えば、自動車を購入する際に中古車よりも新車を購入する消費者が増え、それと同時に中古車の需要は下がります。
次に「トレンドや習慣」について、新型のスマートフォンが発売されると旧型のスマートフォンの需要は低下します。また、同質の商品であったとしても広告の効果によって、宣伝された商品やサービスの需要が上がります。
そして「代替品の価格」について考えてみましょう。他社で同じ種類の商品が販売されている場合、ある片方の価格が上がるとその商品の需要は低下します。すると、価格が上がっていない別の商品の需要が上がります。例えば、コカ・コーラとペプシ、ネスレと明治のチョコレート、ライオンとウォルテックの歯磨き粉などがあります。代替品があることで、消費者の選択肢が増えます。
今度は「補完的な商品の価格」です。補完財とは、組み合わせて使用する商品を示します。自動車と燃料、DVDとプレーヤー、バドミントンのラケットとシャトルなどがあります。この相互補完的は場合には、片方の価格が上がることで、補完関係にある商品の需要が低下します。
最後に「人口の変化」です。人口の数はそのまま消費者の数になるので人口の増減に合わせて消費の需要も増減します。
「需要」を決定する要因
需要に影響を与える価格以外の決定要因について、もう少し詳しくみていきます。
政府の政策
個人の健康に害を及ぼす特定の製品には規則や規制が設けられます。例えば、UAEのような多くの国ではタバコの需要を減らすためにタバコに100%の税金を課しています。その反対に、政府は環境に優しい製品を生産する特定の産業に補助金を与えることもあります。フランスでは、かつて電動自転車を購入する際に補助金を出すことを検討したことがありました。
経済
経済の好調であると、国民の収入が高くなるため需要も高くなります。しかし、景気が低迷すると収入が減り需要も減ります。
アメリカの清涼飲料水業界
ソフトドリンクは大量に消費されており、ペプシやコカ・コーラの売上や利益は高水準です。しかし、近年ではかつてソフトドリンクの消費量が多い国の1つであるアメリカでの需要が低下する傾向にあります。それは、アメリカ人の健康意識が高まり、過去5年間でのソフトドリンク関係の利益は減退しつつあると言われています。これに代わって、お茶やコーヒーなどオーガニックな代替品の需要が増加傾向にあります。
また、アメリカでの可処分所得の低下により、ソフトドリンクよりも手頃に手に入る水道水やボトル入りの水などに目を向けています。
https://big.assets.huffingtonpost.com/soda.pdf
価格と需要
価格と需要量の間には負の因果関係があることは以前確認しました。
ここでは「需要曲線」のみに目を向けてみていきます。価格が上がると需要は低下し、価格が下がると需要が上がるという構造が理解できるかどうかをこのグラフを見て確認してみてください。ポイントは、まず縦軸の価格から見てその時点での需要量を見てみると分かりやすいと思います。
例えば、アイスクリームの値段が高い場合は、全く購入しないもしくは1つだけ購入するという決断をします。しかし、価格が下がるにつれてより多く購入しようと考えます。これをグラフの動きで捉えると右下がりの曲線を描くことになります。
需要曲線に沿った動き
商品やサービスの価格が変化すると、需要曲線に沿った動きが起こります。先ほどとグラフの見方は同じですが、あるポイントから価格が上がった時の需要量の変化を見てみると、元の需要から減少している(需要量が左に動いている)ことが分かります。その反対に価格が下がった時も同じ変化をします。
個人の需要と市場の需要
需要というのは、「個別」的なものと個人の需要の合計である「市場の需要」に分けられます。市場の需要は、すべての消費者の総需要として考えます。グラフにこれらを表す場合は、個人の需要はそのままの数字をグラフに表し、市場の需要はそれぞれ個人の合計の数を示すことで需要曲線を描くことができます。
需要の条件
需要曲線の変化
ここまでの説明で、価格の変化が需要曲線に沿った動きを引き起こすことが理解できたと思います。その次に、所得水準、代替品や補完財の価格、政府の政策など、需要の非価格決定要因が需要曲線をどのように変化させるかを考えていきます。この時、需要曲線は右または左にシフトします。ここでは、サンプルになる図を載せられていないのですが、「需要曲線のシフト」などで検索するといろんな分かりやすい解説付きのイラストが見られます。
需要(需要量ではなく)が増加すると、需要曲線が右側へシフトします。たとえば、2019 年のフェスティバルシーズン(昇給やボーナスがもらえる)により、インドではメルセデスベンツ自動車の需要が増加しました。メルセデスベンツ自動車は、あらゆる価格レベルでインドでの予測を上回って完売したとされています。このことが示すのは、商品がどんな価格であっても需要が増加したことで、以前よりも多く購入されたということです。
需要曲線の右へのシフト
価格以外の決定要因の変化により需要が増加すると、需要曲線は右にシフトします 。例えば、収入が増えることで同じ価格でもより多くのサービスや商品を購入できます。
市場の需要の増加を引き起こす要因は以下のようなものがあります。
それぞれわかりやすい例を考えながら見ていくと理解が深まると思います。
・個人の収入増加「いろんなものが買える!」
・所得税の減少(消費者の可処分所得の増加)「他のことにお金が使える!」
・代替品の価格高騰「似ているこっちの商品を買おう」
・補完品価格の下落「PCが安くなったから付属品も買おう!」
・広告の増加「CMで見たから欲しくなった」
・人口の増加(購入者が増加する)
・金利の低下(利息が減り、可処分所得が増える)「消費にお金を使える!」
・製品を好む消費者の好みやファッションの変化「これは飽きたから、次はこっちを買おう!」
・気象条件(雨により傘やレインコートの需要増加の可能性)
需要曲線の左へのシフト
価格以外の決定要因の変化により需要が減少すると、需要曲線は左にシフトします。例えば、収入が減少すると同じ価格であっても人々が購入できるサービスや商品の数が減ります。
市場の需要の減少を引き起こす要因は以下のようなものがあります。これは先ほどの逆の事例になります。消費に回すことができるお金が減っていると考えるとわかりやすいと思います。
・個人の収入減少
・所得税の引き上げ(消費者の可処分所得が減少)
・代替品の価格の下落
・補品の価格の上昇
・特定商品の広告が禁止
・人口の減少
・金利の上昇(利子の支払い増加で可処分所得が減少)
・他の製品を好む消費者の好みやファッションの変化
・政府の規則や規制(公共の場所での喫煙の禁止など)
需要曲線の変化の原因となる要因を確認するには、以下のビデオが参照されています。
世界的にオーガニック食品の需要が増加
オーガニック食品に対する世界的な需要は増加しています。世界中でオーガニック食品を摂取することの健康上の利点が意識され始めています。オーガニック食品は、私たちが食料品店で購入する従来の食品とは異なり、人工肥料や人工原料を一切使用せずに自然栽培されています。その人気により、オーガニック食品を栽培する農業の面積も約3倍に増えています。
オーガニック食品の需要が高まっているもう一つの理由は、世界全体の収入の増加(需要曲線が右へシフト)です。アメリカとヨーロッパでは、オーガニック食品の需要が30%以上増加しています。中東諸国でも、オーガニック食品の健康上の利点と、これらの国への駐在員数の増加により、需要が増加しています。
最後に、生徒がこれまでの内容が理解できたかどうかの確認として、以下のそれぞれの状況で需要がどのように変化するのか(左右のどちらにシフトするのか)を考察する課題に取り組みます。具体的な事例に合わせて、需要に関する知識を活かしてみるとより理解が深まるので、専門用語なども用いて学習内容をまとめてみてほしいと思います。
・有名なニュースサイト製品 Z の摂取は健康に有害であると報道される
・有名なサッカー選手がナイキシューズの広告を出す
・ガソリンの価格が上がり、自動車市場にもたらす影響
・製品Aの価格が下がり、代替品である製品Bにもたらされる影響
・政府による製品Bへの課税
このように、製品の値段や需要の増減には直接関係するもの以外の要素があることをここでは学ぶことができます。単純な因果関係のみではなく、それに関連するところまで思考を及ぼすことができれば、さらに学ぶ力はついていくと考えることができるでしょう。