見出し画像

Cambridge IGCSE「経済(Economics)」1-4生産可能性曲線図[390]

 IGCSEのカリキュラムで学ぶ中学生の社会科の内容の続きです。今回は、「生産可能性曲線図(PPC)」についての学び方をご紹介したいと思います。用語だけでは理解が難しいのですが、この単元を中学生はどのように学ぶのかを記録していきます。


万里の長城の「機会費用」

 中国のことわざに「耕して草取りをしなければ収穫はない」があります。他にも、貧しきリチャードの暦には、「痛みなくして利益なし」、ラルフ・ウォルド・エマーソンの「失ったものはすべて、その代わりに何かを得ることができ、得たものはすべてて、何かを失う」があります。

 これらの格言は、人生で成功するための古くから伝えられいる知恵です。この言葉によると、人生で利益を得るには、重労働、不快な環境、長時間労働を通じて犠牲を払わなければならないことを示しています。

 これらのことわざは、機会費用や生産可能性曲線(PPC)の基本につながります。別のものを得るために何かを犠牲にしなければならないということです。つまり、ある財をより多く生産するには、別の財を生産するために必要な資源を犠牲にしなければならないということです。

 以下の動画は、中国の万里の長城を建設するために失われたものは何かについて説明されたものです。

PPCの定義

 生産可能性曲線図(PPC)は、2つの商品・サービスの間で行うことができる生産上のあらゆる選択を実証するモデルです。これは何かを得るときには何かを放棄しなければならないという観点で、希少性と機会費用を実証しています。

 政府や企業は限られた資源で意思決定をしています。例えば、国家の政策として予算を防衛費に支出するべきか、医療に支出するべきかを決めなければいけません。また、企業も何に投資するべきかを考え、世帯も仕事と余暇のどちらに多くの時間を使うべきなのかを考えます。

 この時にPPC モデルを使って、意思決定をした時の実際のコストを確認します。企業が研究開発に投資した場合、マーケティングが犠牲になるので短期的な売り上げが減少することになります。この選択をする際には、「仮定」が必要になります。

 PPCにおける5つ仮定とは、「資源を最大限に活用し、最大限の生産をする」「資源を効率よく使用する」「2つの商品・サービスを生産する時の組み合わせは、社会が望む組み合わせになっている」「すべての資源が商品・サービスのみに使用される」「技術や生産性に変化はない」です。

 これらの仮定を前提にすると、社会が1つの利益をさらに獲得するとき、他の利益に対するコストまたは犠牲が発生することになります。何かを得るには何かを放棄する必要があるため、常に機会費用が発生します。

PPCの分析

 生産における選択をする際に、資本財消費財を組み合わせてその比率を変えてグラフ化しながら検討していきます。ここで資本財とは、最終製品を作るために必要な資産で、消費財とは完成品そのものを示します。

 ピザ屋さんにとって、資本財とは建物や車などを示し、消費財とはピザを示します。その他の例として、自動車会社であれば販売用の自動車は消費財となります。

 話をPPCのグラフに戻すと、オートバイ(消費財)と輸送用の船(資本財)の組み合わせでその関係を考えていきます。資料で紹介されていた例は、いくつかのパターンに分けられそれをグラフ化しています。

・オートバイの生産にすべての資源を使用(A)
 オートバイ:18000、船:0
・船の生産にすべての資源を使用(E)
 オートバイ:0、船:4
・その他の比率
 オートバイ:17000、船:1(B)
 オートバイ:15000、船:2(C)
 オートバイ:10000、船:3(D)

→これらの点A〜Eを結んでいくと、右下がりの曲線グラフができます。ここにも1つを選択するとそれ以外の選択が犠牲になる機会費用が見られることがわかります。

コスト増加の原則

 なお、選択によって発生する機会費用は、リソースの移動や適応のしやすさの影響も受けます。その影響でコストが増加することもあるのです。他の例として、Tシャツと飛行機の生産の比較が示されています。Tシャツの製作過程において、以下の動画が紹介されています。

Tシャツ:1400万、飛行機:0
Tシャツ:1300万、飛行機:1
Tシャツ:11万、飛行機:2
Tシャツ:700万、飛行機:3
Tシャツ:0、飛行機:4

 Tシャツの生産から飛行機の生産へと移るにしたがってTシャツの生産枚数の減少数(機会費用)が大きくなっています。

 これは「コスト増加の法則」を示しています。飛行機の製造が増えるにつれてより多くの資源や労働力が飛行機に集中することで、Tシャツの生産数がどんどん減っていくことになります。

PPC内外のポイント

完全雇用とは、利用可能なすべての生産要素が使用されていることを意味しており、労働者の失業はありません。生産に使われる資本は、最大限低く抑えられたコストで最大の生産量を生み出すように最適化されています。

PPC 内のポイント

 PPC内部にポイントを置く場合、資源をすべて使っていません。これは効率的な組み合わせにはならず、機会費用を増加させることなくより多くの生産を目指します。この場合、PPC線上であれば機会費用を犠牲にすることなく利益につながります。

 経済が非効率になる時があります。それは、生産要素の質が低いことや生産技術の時代遅れなどがあります。労働者の訓練不足によって、生産の時間が必要以上にかかってしまうことなどがその例です。そういった非効率によって、生産量の不足や資源の活用が不十分になり、それが失業につながります。これらのことをPPCのグラフで考えた場合、資源の活用が不足したり非効率な生産が大きくなるとグラフの原点に近づきます。その反対に、資源の使用量と効率が高まればPPCに近づきます。

PPC の範囲外のポイント

 資源をどれだけ最大限に使用しても、PPCの範囲外にポイントを置くことはできません。縦軸の製品も横軸の製品も生産量を増やしたい場合は、新しい資源や技術、新たな自由貿易協定などが必要になります。生産性を向上させることもPPC拡大につながります。

世界大恐慌

 1929年10月のアメリカの株式市場の暴落から始まった大恐慌は、世界最悪の不況の1つです。その不況によって数年にわたり消費や投資が減少し、さらに解雇による失業者が増加しました。1933年までには、アメリカで約1500万人の失業者、国内の半数の銀行が破綻したとされています。

 大恐慌が起こる前、アメリカは「狂騒の20年代」と呼ばれる大きな経済成長を遂げていました。第一次世界大戦後、アメリカの経済は戦後の復興支出、新たな消費主義の考え方、そして戦後全体の前向きな精神がその成長につながったのです。

 このテーマの最後には、2つのワークが出されます。これまでの学習のまとめとして使われています。
①PPC曲線のグラフを描き、恐慌前のその最中の経済について述べる
②大恐慌の間に資本と労働に何が起こったのかと、それがアメリカのPPCにどのような影響を与えたのかを説明する

PPCシフトの原因

 生産要素の質や量の増加によって、PPCは変動します。例としては、生産性の向上などがあります。生産性とは、与えられた生産要素から生産できる商品やサービスの量がどれぐらい効果的なのかを考える時に考えます。これまでと同じ資源の量で生産できるものが増えたり、使用する資源が少なくなっても同じあるいはそれ以上の量を生産できると、生産性は向上します。

 生産要素の質や量は、4つのものが関連すると考えられます。それは、物理的な資本、人的資本、鉱物、技術です。

PPCのシフトと資本・労働・土地・テクノロジー

 資本とは、商品やサービスを生産するための道具です。これが最新のツールであれば生産性は向上し、古い機械をそのまま使っていると生産性は低下(PPCが内向きにシフト)することになります。

 労働とは、労働者が経済にもたらす経験、訓練、教育です。労働者の熟練度が高ければ高いほど、生産される商品やサービスの質と量は向上します。一方、人的資本に投資しない国では経済成長が低下し、PPCが内向きにシフトします。1つの例として、合法的な移民政策を行うと労働者の量が増加し、PPC は外部にシフトすることになる。

 土地は、石油、木材、小麦などの生産プロセスで使用される天然資源です。これらの資源が新たに発見されれば、生産能力の向上につながります。

 テクノロジーは、製品をより速く生産するための新しい物理的資本または新しい技術を指します。インターネットは、新しい市場を開拓することで生産コストを削減し、生産量を増加させる新しいテクノロジーです。テクノロジーの改善により、同じ投入物でより多くの商品やサービスを生産できるようになるため、PPCは外側にシフトします。

PPC シフトの結果

 PPCが外部にシフトすると、収入が増えるなどの生活基準の向上が見られます。収入が増えることで、支出・賃金・貯蓄・利益・利息収入などの全体的な生活の質が向上します。

 また、節約による投資支出も増加することで生産性が向上するという「正のフィードバックループ」が生まれます。

正のフィードバックループ

 PPCシフトの原因として、物的資本・人的資本・鉱物・技術の増加があるという話が出てきました。これによって、持続的な経済成長につながります。1979年頃から2015年にかけて、中国は PPC の最大の増加を経験しました。そして、それよりもPPCの定期的かつ強力な変化を維持したのはアメリカです。

 その一方で、物的資本・人的資本・鉱物・技術が減少すると、PPC は内向きに移動します。2011年に東日本大震災によって発生した津波は土地の多くを破壊しました。その結果、生産力が低下し立ち直るには何年もかかりました。また、韓国のような高齢化社会では、毎年退職する労働者の数が新たに経済に加わる労働者の数を上回り、労働力人口は減少し続けています。

PPC を内側にシフトさせるシナリオ

 ここで、ペアで「PPC」を内側にシフトさせるシナリオを考える課題に入ります。その例として、「地球温暖化により、土地、水などの天然資源の供給が減少し、経済の成長率、所得、GDP、生活水準が低下する」や「移民の厳格化、出生率の低下、退職労働者の増加などの政策」が紹介されています。

中国の経済成長

 「中国の経済的台頭: 歴史、傾向、課題、米国への影響」の報告書によると、中国は「主要経済国として史上最速の持続的拡大を経験し 、 8億人以上を貧困から救った」とされています。現在中国は世界トップクラスの経済大国となっていますが、それに至るまでの20世紀前半には、戦争、内戦、自然災害、経済政策の不成功により、中国の国内総生産は低下していました。労働力になるはずの兵士は死亡し、土地も破壊されるなどによって、1970年代までの世界の国内総生産のシェアは5%程度でしかありませんでした。

 1970 年代後半に経済改革が行われ、経済の急成長によって中国が世界の主要な経済大国になりました。経済学者によると、この急速な経済成長の要因は、資本(機械)の改善と労働力の技能の向上によるものだとされています。 

https://sgp.fas.org/crs/row/RL33534.pdf

 この単元の最後の確認事項として、「資本の定義」「中国の20世紀初頭のPPCの状況」「資本と労働者のスキルの向上がPPCに与える影響」について考える課題が提示されます。

まとめ:用語を覚えるのではなく、その意味を説明する

 生産可能性曲線図について、その意味や役割について学ぶ単元を見てきました。ここで私が大切だと思ったことは、知識として用語を覚えるのではなく、用語の意味や経済的な考え方が現実世界に対してどのように適応できるのかを説明することを問うているところです。このような評価であれば、生徒たちは単純な暗記に頼るのではなく、本質的に理解しようという方向に流れていきます。
 学習の難易度は高いですが、学びがいのある内容ではないかと感じます。

いいなと思ったら応援しよう!