高校生の自立的な学習を考える(IBDPチューターの経験から)467
2024年の日本語Aの学習がスタートして約2〜3ヶ月が経ちました。学期が始まってからサポートを開始した生徒もいますが、春夏ぐらいから継続して学んでいる生徒たちは、下準備の期間が一定期間確保できたため、この2ヶ月で文学分析の方法を理解して自分のものにしている生徒たちもいます。分析能力の伸びは、文学分析の得手不得手並びに日本語環境でどれぐらいの期間学んでいたかによって異なりますが、努力は裏切らないという言葉があるように毎回の課題をコツコツとこなし、授業で考えることを楽しむことができている生徒は、エッセイの書き方や内容が向上していることを自覚しつつあるようです。
毎回課題を確認する私も、そういった生徒たちの学習状況を見ていると日本語Aにおける文学分析の視点が持てるようになってきたと感じます。
今回は分析の力が伸びている生徒とそうでない生徒の特徴について、それぞれまとめておきたいと思います。これはあくまで私がこれまでに担当してきた生徒たちの特徴を総合したものであり、個別の生徒を指すものではありません。例えば、日本語教育の期間が短かったために毎回課題やテストに努力はしているものの、分析の伸びが遅れてから出てくる生徒もいます。そのため、日本語Aにおいていまいち分析の方法をつかめていなくて困っていたり、自分の学習方法が不安な方は少し参考にしていただけると思います。
以下に特徴をまとめますが、簡潔に言うと指示通りにできるかどうかではなく、課題などで指示されたことの意味を読み取って自立的な学習ができるかどうかになります。この背景として、与えられた学習を作業的にこなすだけの学習が多かったのか、それだけではなく自分の考えを盛り込まなければいけない課題をどれだけしてきたかによって変わると思います。つまり、その生徒の能力だけではなく、どのような形式で学んできたのかも影響しているようです。
伸びる生徒の特徴〜学習を自分でコントロールしているか
分析が伸びている生徒は、学習を他人から押し付けられるものではなく自分の成長のために学んでいます。例えば、宿題の内容について疑問があれば質問したり、添削の時も「自分はこのように考えて書いたつもりだった」と自分の考えを明確に示すことができます。
また、私の説明の中で必要だと思ったところを適宜ポートフォリオに記録できます。学習状況の確認するためにポートフォリオの内容を確認すると、作品に関する情報や分析したことなどが細かく記録されています。また、自分で作品を読み進めたところについても作品の主題との関わりを書き留めておいたりしている箇所がいくつも見られます。
そして最後に、質問ができることが伸びる生徒の特徴だと思いました。もちろん、質問が思い当たらないのに無理やり質問をしたからといって伸びるわけではありません。最終試験の評価方法、学習の進め方、分析文や分析コメンタリーの添削など、文学分析に関する新しい情報を学びながら、理解できなかったことや関係することで沸いた疑問などを言語化して質問としてぶつけるのは一見簡単なことのように思えますが、実は難しいことであると私自身も感じます。授業時間に脳をフル稼働させ、わからないことは確認することができることが分析の力を伸ばすために必要な力だと言えます。
伸びない生徒の特徴〜学習をコントロールできない
自身のスケジュールを把握しているか
私は毎回の授業で生徒と相談して課題の量を決めます。学校によってイベントが行われたり、課題やテストが重なっている時期が異なります。そのため、必ず決まりきった宿題を与えるのではなく、次の授業までにできる量を必ず互いに確認してから出すようにしています。そうすることで、生徒自身が少し先の予定をシミュレーションしながら学習するようになります。この方法に慣れてくると、自分で課題の量を調整するためにこちらに自分の状況を伝えることができるようになる(そもそも把握できるようになることも含まれます)のですが、IBDPの学習全体を把握できていない生徒はこの辺りの判断が難しいようです。授業はたくさん入れるけれど、課題に取り組めていない場合などはスケジュール管理からスタートしてもいます。
中途半端に取り組んだ課題
文学分析の場合、ある程度時間をかけないと「読む→分析→執筆」のプロセスを経ることはできません。課題の量が適切であると確認が取れていた場合、中途半端に課題をしてきた時は、「何のためにこの課題をするのか」という問いに立ち戻るようにしています。終わらせることが目的なのか、もしくはその課題を通して自分の分析力や文章表現力を高めることが目的なのか、生徒が忙しい日々を送る中で、日本語Aに取り組む時間はどういった意味があるのかを考えていきます。時間をかけても難しかったところは、授業で一緒に考えたら良い(むしろここで質問が生まれます)のですが、そもそも課題に取り組む時間が少なかった場合のエッセイというのは、内容が薄く添削する価値もないように感じることがほとんどです。
もしも急な事情が入った場合などは、その都度連絡をして良いことにしています。そういった状況判断や他者とのやり取りによって、生徒たちの自主性も高まっていくと考えます。
事後報告が多い
伸びない生徒の場合、事後報告がかなり多いように感じます。授業がスタートしてから、「時間がなくてできなかった」「何をすれば良いかわからなかった」などといって言い訳をして結局は課題を完成させられない生徒もいます。さらには「大体のアイデアはできています」などといって、課題をしていないことを誤魔化すような発言をする場合もありました。そういったことが起こる場合、必ず先ほどの課題に関する話し合いをしています。
ポートフォリオの更新がほとんどない
こういった学び方をしている生徒の場合、学習記録の媒体となるポートフォリオの更新もほとんど行われていません。むしろ「何を書いて良いのかわからない」という状況が正しいのかもしれません。こういった場合は、思考そのものに注目することの大切さを伝えたり、言語化するのが難しくても今できる表現をするなど、今できることからコツコツと進めていくことが必要だということを伝えるようにしています。
正解主義の思考
最終試験の評価方法やエッセイの添削をしている時に、「じゃあ結局はどうやったら高得点が取れるんですか?」「結局は何て書き直せばいいんですか?」と聞かれたことがありました。日本語Aの試験の場合、一部を除いて同じ内容の文章を分析するということはありません。そのため、課題となる文、問いは毎回変わるために、自分の思考能力を十分にしておく必要があります。しかし、日本の正解主義のような勉強方法に慣れてしまっている生徒たちの場合、具体的な正解までの道のりを教えてもらおうとします。文学分析の場合、ある程度の思考や分析が似ていることがあっても、基本的に人によって観点が異なります。そのため、他人の考えを参考にすることはあってもそれを追跡したところであまり意味はないと思っています。
そういった質問をしてくる生徒の特徴として、とにかく答えを急ぐというところがあると思います。考えるプロセスではなく、正解をどうすれば良いのかというところに焦点が当たっているので、そういった場合は思考のプロセスを大切にするということを理解するところから始めなければいけません。
自立的な学習を確立するために
私の授業では、課題を自分でできるようにするにはどうすればよいかを一緒に考えていきます。この年齢になると怒って取り組ませる(そもそもどの年齢でも効果があるとは考えていませんが)、何か課題について分からないことがあった場合、授業まで放ったらかしにするのではなく、授業までに聞くことができなかったか、どうしてよいかわからないことをそのままにしておかないことからスタートさせています。