「日本語A:文学」基本情報⑤学習者ポートフォリオ【224】
今回は、「学習者ポートフォリオ」を「日本語A:文学」でどのように活用するのかについて紹介させていただきます。ポートフォリオは、記録することを目的にしてしまうと大変苦痛になりますが、何のためにポートフォリオを作成するのかを理解することができていれば、日々の学習を充実させ、さらに最終試験の備えにもなります。
私がかつて日本の公立高校で働いている時は、「ポートフォリオ」の導入に関して大学入試でどのように活用するのかを会議でよく話し合っていました。当時、ポートフォリオの管理の問題や情報の整合性など、運用に関する問題点が話し合われていたのを記憶しています。
日本の高校生が「ポートフォリオ」を全面的に活用していくためにはあらゆる面での準備が必要になりますが、「学習歴」に注目されるようになった現在では、ポートフォリオを推進することは魅力的だと感じます。
学習者ポートフォリオとは?
「生徒が文学テクストの探究と振り返りをする場」です。また、直接評価の対象とはなりません。この「評価の対象としない」ことが大変重要です。ポートフォリオはあくまで、自分の学習の充実化を図るために活用するものなのです。もし、学習者ポートフォリオを評価対象にしてしまうと、評価に合わせたポートフォリオの作成が目的になってしまい、自身の学習の充実度を高めるために必要なそれぞれの形式や内容の自由度が低くなってしまうことが懸念されます。
そのためにも、学習者自身が「ポートフォリオが何のためにあるのか」を本質的に理解しておく必要があります。
また、SSSTの生徒さんのサポートをしている中で感じることは、IBの最終試験というのは、私が日本の学校に通っていた時のように試験の直前で一気に詰め込んで準備すれば何とかなるようなものではないということです。そういった意味でも、ポートフォリオの役割は大きいのではないでしょうか。
「ATLスキル(特に思考スキル、自己管理スキル、リサーチスキル)」を身につける
◯ATLスキルとは?
・テクストを探究し振り返りをすること。
・コースで学習したテクスト、探究領域、主要概念といった、コースの異なる要素の間のつながりを見いだすこと。
・コースの評価要素(内部評価、試験問題1、試験問題2、HL 小論文)への準備状況を記録すること。
→個人口述に用いる抜粋、作品やテクストおよびグローバルな問題、試験問題2の比較小論文の準備のために選ぶ作品、HL小論文のために選ぶ作品やテクストおよびトピックなどの決定
・学習とコース外部の要素の間のつながりを見いだすこと。
※「コース外部の要素」とは
以前に読んだことのある作品、他のコースで現在読んでいる読み物、読者としてのものの見方と価値観、知の理論(TOK:theory of knowledge)、「創造性・活動・ 奉仕」(CAS:creativity, activity, service)、生徒を取り巻く世界の課題などを示しています。
「学習者ポートフォリオ」に関するガイドライン(学校・教員側)
こちらは学校や教員が知っておけなければならないことですが、もし学校から十分なサポートを受けられていないと感じた場合はこちらも参考にしてみてください。
学習者ポートフォリオは、日本語Aの学習を始める最初の段階で導入し、その目的と重要性を明確にしなければなりません。また、学校や教員は生徒が学習者ポートフォリオに取り組み振り返りをする機会を授業時間に組み入れる必要があります。それは、電子的なフォーマットでもよく、紙の文書を集めたものでもかまいません。そして学校は、生徒がディプロマを受領した後、少なくとも6ヶ月間はポートフォリオにアクセスできるようにしておかなくてはなりません。
ポートフォリオは、生徒の学習が進み、外部評価および内部評価の準備をするにつれてより重要になってきます。形式は特に定められてはいませんが、各生徒のポートフォリオの一番最後に「学習作品フォーム」をつける必要があります。作品がシラバスの要件を満たしているかについても確認しなければなりません。
「学習者ポートフォリオ」の充実させるための読書記録の問い
ポートフォリオの作成を進める時に、最初はどのように取り組めば良いのかはっきりしない人もいるかもしれません。そういった時に参考になる問いかけをこちらに掲載いたします。
ポートフォリオの作成で困っているもしくは学校からの具体的な指示がない場合は、これらの問いを中心に、まずは書き進めてみても良いかもしれません。特に、最終試験の評価項目やコース概念、探究領域などを意識しておくとよいでしょう。
学習した作品を更なる課題として発展させる
学習した作品をより深く理解するために、いろんな発展学習が考えられます。その内容について、以下にまとめました。
・創作的課題
作品の模倣作(パスティーシュ)
・変換課題
戯曲または小説の会話を基にしたソーシャルメディアの投稿、散文テクストを基にした演劇の台詞、文学作品を基にした広告、文学作品の登場人物への仮想インタビュー、あるテクストへの応答として書かれたオリジナルの詩、口語テクストを動画にしたもの
・視覚資料
マインドマップ、概念マップ 、思考を可視化するルーティーン(「生み出す、分類する、つなげる、詳しく述 べる」など)
・実演課題
脚本、動画または音声を記録したもの
こういった学習は、SSSTの生徒のポートフォリオにも書かれていました。作品を違った角度から見ることで、学習が深まっていきます。
以上、「学習者ポートフォリオ」の意義や活用法について紹介いたしました。IB生の学習者ポートフォリオをいくつか見せてもらうと、自分が取り組んできた学習やその時に考察したことを記録しておくことで、後にテクストの関連性を考えたり、その他振り返りが必要な時に学習効果をより高めて、学習を積み上げていけるものだということが分かりました。
ポートフォリオの在り方などを考えるのに参考になればと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考資料>
・IBO「『言語A 文学』指導の手引き2021年第1回試験」