カングーと僕の密かな欲望
我が家の足車、ルノーカングーを車検に出した。9年目。もうとっくに10万㎞突破している。まあ、代わりにほしい車もないし、半年ほど前に大規模なオイル漏れ修理をしているから車検通さないともったいない、とあまり何も考えずに車検に出した。
代車はヴ⚪ッツ。まあ、代車だしこんなもんだよね、と帰途に着く。
運転して数㎞、違和感が膨れ上がった。
「…死ぬほどつまらない…」
まあ、死ぬほどは大げさだけど、何のために運転してるのかとか考えずにはいられなかったのは事実。
とにかく、運転がつまらない。どうつまらないのか?冷静に分析しよう。
まず、オートマチックトランスミッションであること。日本のAT率が9割オーバーなのは知ってる、だけど敢えて言おう。「オートマ、なにがいいの?」アクセル踏んでるだけのゴーカートである。メーカーが「楽に運転できていいでしょ?」と言ってる妄想が聞こえてくる。他にも、やたら軽いステアリング、視線を反らさざるを得ないカーナビ、ふかふかすぎるシート…諸君!我々はバカにされてることに気づくべきだ!と妄想は止まらない。冷静になってなかった。
家に帰って改めて見る。別にこの子には罪はないのだ。当たり前に最大公約数的な売れる車を作ったらこうなっただけなのだ。申し訳ないけど、変にかっこつけてる顔立ちも気に入らない。ああ、ごめんなさい。
ルノーのディーラーは通勤経路にあるので、車検が終わるまで毎朝「うちの子」をチェックしてしまう。見るたびに連れて帰りたくなる。ああ、そのとぼけた顔。限定の変な緑色のボディ。いとおしい。こんなに好きだったのね、やっと自分の気持ちに気づいた。切ない恋のようだ。
9年前に買ったときのことを思い出す。三人目の子どもが生まれて、「家族五人が乗れる車」を探していた。条件はマニュアルミッションであること。この、平成初期なら大したことない条件一つで、ほとんどの国産車が消えた。中古ならないわけではないけど、なかなか好みのものがない。あってもクラシックな価値が付きすぎて手が出ない。
そこでふと、通勤途中にあるルノーを思い出した。早速、家族五人でお邪魔する。入った瞬間、そこに展示してあったカエル色のカングーに釘付け。なんだこのふざけた色は!とぼけた顔は!もう、一目で気に入ってしまった。子どもも、スライドドアと高い天井が楽しくて、立ったまま乗れる!と感動していた。(今は中学生なので無理です)そこにあったのはAT 車だったので、MT車を注文、「この色のMTは16台しかないけど、フランスから⚪日の船で渡ってくるから大丈夫」と聞いたときはちょっと感慨深かった。
積載能力が高いので、キャンプにはすごく重宝する。高速でも安定するので、長距離ドライブもへっちゃらだ。
一昔前の外車とは違うなあ、と思っていると、急にオイル漏れを起こして駐車場をベタベタにしたり期待を裏切らないこともあった。塗装も薄いのか、高圧洗浄器を使ったら塗装が剥げたりした。でもなんだかかわいい。
一週間後、無事に車検から帰ってきた。家に連れて帰ったら、子どもも「わーい」と喜んだ。自分も、車検程度でこんな気持ちになるとは思わなかった。
たかだか車への、僕の熱烈な想いを自覚してしまった一週間。
あー、かわいい。