一寸先は
土曜日の夕方。
今日の晩御飯を考えてる。
実家で寝たきりの父と2人。
何か食べたいものを聞いても「何もない」と言う。やりがいなし。更に夜中に起こされるのでかなり寝不足。
昼間に、短い時間で職場に行き、PCを持ってきた。ただ、Wi-Fi環境がないので、ここではただの箱だ。
自分の家には3日帰ってない。せっかく大学生の長男が帰ってるから遊びたいのに・・・。実際に遊んでくれるかは置いておくけど。
なんでこんなことに。
頭に漫画の吹き出し(思い出す時に出るヤツ)が出る。ぽやぽやぽや。※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※木曜日の夜。
仕事帰りに突然母親から電話。
先ほどまで職場の女性社員たちと楽しく話してたので、いつもより浮かれ気味の私。そのテンションで電話を受ける。
「自転車で転んで立てない・・・来れる?」一気に血の気が引く。
基本的に自分のことは二の次、三の次で大抵のことは自分でなんとかする人なので、直感的に「マズイ」と思う。思うがとりあえず落ち着いたふりをして話す。
実家方面に向かう。
いた。実家の近くの道路。座り込んでる。近くには転がった自転車。
知らない若者2人がいて、傘をさしてもらってる。話を聞くと、本当に通りすがりの人らしい。やっぱり若い人は頼もしい人が多い。うれしいなあ、と場に合わない感慨に(一瞬)ふける。
「立てる?」
立たせようとするとものすごく痛がる。あ、
たぶん折れてる。
骨。
すぐに救急車を呼ぶことにする。最近何度か呼んでるので落ち着いて話せる。即決の私に若者が感心してるが、なんてことない、会社でもプライベートでもなぜかここ半年で数回掛けてるからだ。厄介ごとに巻き込まれやすいのだ。119に慣れるのは自慢にならないですね。
結局、大腿骨がひどく割れていた。
入院2ヶ月。即手術。足にはボルトが入ったらしい。
実家は、父と母の2人暮し。父親が寝たきりで、様々な介護サービスを使いながら母親がキーパーソンとなり過ごしてきた。子どもの私は休みに手伝う程度。
で、早速大問題。「父親見る人がいない」問題である。もう、母親が救急車で運ばれた直後からこの問題が発生してしまった。とりあえず、救急車は他の家人に任せ、実家へ急行。
・・・寝てた。
「おばあさん、病院運ばれたよ。たぶん入院になる」
「・・・かわいそうだな」
うまく伝わったかな。
部屋を見渡す。やりかけの台所。すぐ戻るつもりだったんだろう。とりあえず片付ける。
自分の布団を敷く。布団もすぐに見つからない。わたわたする。
いざ泊まろうと思うと、離れて30年経つ実家のなんとよそよそしいこと!家が「おまえ誰だ?」と言ってるようだ。妄想が止まらない。
父親の隣に寝転ぶ。
「おばあさん、遅いな」
やっぱりわかってなかった。
説明して寝ることにする。
1時。
「おい」「おい」
起こされる。
「もう行くぞ」
「もう夜中だからどこもいかないよ」
母親のところに行きたいのかな。
説得して寝てもらう。
3時。
「おい」「おい」
またか。
「しょんべん出た」
ああ。
4時。
「おい」「おい」
今度はなんだ。
「もう起きるぞ」
真っ暗だよ~。
結局、5時に起きた。
金曜日。
職場に電話して理解してもらう。先月は自分の体調不良で1週間休んだので気が引けるが、普段からうちの介護状況を話してるのもあり皆さん快く受け入れてもらう。
有能なケアマネージャーさんに依頼すると、あっという間に入所施設を見つけてくれた。ただ、すぐには入れず、数日は実家で見なければいけない。つまり施設に入るまで私は仕事に行けないのだ。頭に2人の私がいて、仕事嫌いの僕ちゃんは大喜びだ。ただ、もう一人の常識人の僕さんはまいったな、という顔をしている。とりあえずやれるようにやるしかない。
そんなわけで今は土曜日。
まだ先は長い。30年いない実家には私の楽しむものもなく、苦手なテレビを父親と一緒に見たりしてる。
人生、一瞬先はどうなるかわからない。でも、せっかくだから、どんな状況でもなんとか面白がらないといけない。
面白いこと・・・
さっき、父親が誰もいないところを指差して、「この人は誰だ」と言った。
・・・怖い話じゃないか。
あ、一つ良いことがあった。
某愛読雑誌の読者コーナーに長文を送ったら、採用されてその見本誌が送られてきた。小さいことだけどうれしい。
しばらくは小さい「よかった探し」をして過ごしていきましょう。
今夜は寝られるかな。