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俺と師匠の情熱seitai life season2 全身関節編 8

年末年始は大忙しだった。大晦日は19時まで、年始は2日から営業を始めた。3日目から予約が埋まり出す。なんと4日連続ほぼ満員で予約が埋まった。

そして2019年 1月のセミナーへ

今回の主役はスズムシだが、箸休めにリョウの話でもしておくか。

最初に自己紹介でぶっ飛びすぎてて、俺が高揚した奴、すごく優しい、見た目もデカくてカッコいい「漢」って感じだな。吉田栄作と長渕を足して2で割ったような感じ。

前回のセミナーで先生は整体以外で、古武術の達人の所によく行き、腕の調整法を閃いたという話をしてくれた。

整体以外のセミナーでも、知りたいことに繋がることは見つかるということ、間口を広げると見えるものが沢山あるということを教えてくれた。

リョウもその言葉にシビれたのかは解らないが、先生の技を受けると一瞬で動けなくなるらしい。その秘密を知るために古武術系の柔術に入門したと言っていた。

やっぱアイツは飛んでるな。理由はともあれ、「活殺」に向けて自分の道をさらに深く歩き出した。

さぁ話を変えよう。

スズムシは先月、勤めていた院を辞めた。

毎日極度の緊張と劣等感で、精神的にも肉体的にも限界だったそうだ。メールが送られてきた時に業界もやめようと思っていたと言う、それだけなら良かったが意味深な言葉もあった。

最初に会った時は表情が固く、笑いきれていなかった。焦燥感や無力な自分への怒りと職場に対する怒りが混同していたのかも。

スズムシの変化を見ていて、駆け出しの頃の記憶があたまをよぎる。個人的には関わりはないが、整体学校の系列店で自殺した院長がいた。

人の生命力を回復させる仕事の会社が、人を殺してどうするんだ!

最初の師匠にひどく噛み付いた。返す言葉はごもっともだったが俺には納得できなかった。学校、店舗管理を信用できなくなった。ネットで調べたことだったがあまりにも評判が悪い。自殺の話はたぶんホントだ。

それでも最初の師匠は「ヨシナリさんがそんなに傷ついたなら私も一緒に闘いますので、一緒に代表とケンカしましょう!」と言ってくれたが俺はもう諦めていてあの整体院をやめた。

スズムシは無職になったがよく笑うようになったし会話も増えた。会社に務めあげたり辞めないことが美徳とされているが、笑顔を奪われるような仕事ははたして続けていいのだろうか。

本人がそれで良いならいいと思うが、この仕事ではダメだと思う。人を笑顔にすることが仕事なのに自分が笑顔になれないなんて…。

スズムシはセンスが良いし、体の使い方も上手い勉強熱心だ。こういう子こそ俺達の業界の宝なんじゃないか?

この業界ではよくある話だが憤りを感じる。

働いていた職場を辞めて、見違えるぐらいスッキリした笑顔で技術を学ぶことを夢中で楽しんでいるスズムシを見ていると尚更思った。

快気祝いに、更に元気づけるためにも無職をイジり倒した。

ヤバいかなと思ったら、先生も

「無職なのに上手いな、効いてるぞ、無職なのに」

今回のセミナーは笑いが絶えない。

愛のある冗談と、先生の技術を丁寧に自分の中に落とし込むための真剣な表情。

この日の先生のsalonには屈託のない笑顔と、いつもより高い声のトーン、緊張感を適度に張り詰めた木漏れ日が素敵な午後だった。

帰り際、先生の施術ベッドの後ろにある大きな窓から見える夕暮れはとても綺麗なオレンジ色。

その夕陽を見つめていると遠い昔の記憶が蘇る。

オレンジ色にはつらい思い出しかない。哀しみを殺して、怒りを奮い立たせてくれる色。

34年前の母の背中、幼少期のオレンジの中で俺は寂しいという感情を捨てた。

40歳になってこんな穏やかに夕陽をみることができるとは夢にも思わなかった。

つづく



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