俺と師匠の情熱seitai life season2 全身関節編 9
金を無くして、売上を上げるために東京に来たのも大事な理由の1つだ。
だが椎名林檎のLiveを先生とイソップと3人で観てガラッと想いが変わり、金に追われる人生の虚しさを感じた。
所詮世の中金が全て。無ければ生きていけない。何の為にさらに多くの金が欲しいのか?
今度は月50万の壁だ...。年末年始とぶっ倒れるぐらい忙しかった。それでもまた暇になる。それはそうだ、一気にクライアントが来すぎたり新規も増えたが週1で通う人はそうはいない。研鑽された技術と、クライアントの絶対数と施術回数が先生とは圧倒的に違う。
俺も先生みたいに仕事と遊びを両立したい。それなりにお洒落もしたい。今まで諦めていた欲求が火を吹いた。
鬱積した思いを吐き出しながらリアルな質問をする。
去年や一昨年と比べて、かなり売上は伸びてるんですがまだまだ足りないんです!先生もそういう時ありましたよね?何をしてたんですか?教えて下さい!
「ヨシナリ、文章を書け。お前の文章は意外とイイぞ、暇な時しか出来ないことがある。HPの加筆やブログを書いてみろ」
先生はブログを毎日書いて、作り込まれたHPに静かなる熱い想いや人体構造学も細かく誰が観ても解りやすいように書いていた。そしてその文章センスを活かして、オークションでレア化したプロレス雑誌フィギュアコレクションを売り、足りない売上を補っていたと言う。
ブログは商売的になりすぎて苦手だったし、HPの業者とは相性が悪く、文面を送るのが面倒だった。他に何かこのリアルな気持ちを書ける所はないものかと考えながらセミナーを過ごした。
この日もセミナー後に飲み会があったのだが、楽しさと胸に刺さる思い、それぞれの現状、過去、未来への展望に沢山の希望を感じた。
話を聞いているうちに交錯する自分の中での葛藤と焦りがでてきた。俺は40歳、みんなは20代、俺には時間が無い。
大きな失敗は確実に出来ない。
若さが羨ましかったんだろうな。劣化したカラダで情熱を保つには、エンジンオイルを定期的に交換してキレイに循環させなければいけない。
怠ればすぐに壊れて走れなくなる。俺の嫌いな価値もないガラクタの旧車になっちまう。
そんな焦りから飲みすぎてしまい、先生から買わせてもらったアメリカからの輸入品で定期的に仕入れてくれるアパレルブランドのポスターを何処かに置き忘れてしまった。
俺はそのポスターがどうしても欲しくて先生も汚れないよう丁寧にラッピングしてくれた。
先生との思い出をいつでも忘れないよう、施術部屋の1番目立つ所に飾っておくつもりだった。
自宅に帰るための最終の新幹線も逃し、新横浜の漫喫で時間を潰しながら自己嫌悪に陥る。
罪悪感、若さへの嫉妬、圧倒的な実力不足、日々の怠慢…。
無くしたポスターが象徴している様に感じた。
金に翻弄される人生。普通より若干早い、多くの友人や家族の死。
築いていく未来への不安。
君は本当にまた這い上がれるのか?
誰もいない小さな個室で、耳元で囁かれている気がした…。
つづく
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