コミュニケーションにおける最強の枕詞
答えに窮する質問の1つに、「趣味はなんですか?」というものがあると思う。この質問をされると自分というものを値踏みされるような気がするのは僕だけだろうか。
趣味と言えるほどかはわからないが僕は音楽が好きだ。けれども、音楽好きだとなんとなく楽器の1つでもできないといけないような気がしてしまう。そして漫画も好きだ。だけど、漫画が好きだとアート系にも精通していないといけないような気がしてしまう。
少し悩んだ後に、僕は写真か音楽か漫画か映画か、そのあとの話題となりそうなものを答える。そうすると、必ずセットとなってこの質問が飛んでくる。
「1番好きな漫画は?」
「1番好きな曲は?」
「1番好きな作品は?」
ふむ。
最初の質問よりも値踏みの度合いが上がった。
音楽好き、漫画好き、映画好きな人とは話が盛り上がるが、この質問は相手のレベルを推し量るためのものだと思っている。
少なくとも僕はそうだ。相手のレベルがわからないとどれくらいの深さで話していいかわからない。浅い話をして失望されたくないし、踏み込みすぎて盛り上がらないのも避けたい。自分にも対して知識はないのに。
だって、漫画好きだと言っているのに、好きな漫画を『ONE PIECE』と言われると少しがっかりするでしょう?少なくとも僕はがっかりする。『鬼滅の刃』と言われるとミーハーなのかな?と思うし、『こち亀』と言われるとどこを突っついていいかわからない。
もしくは、尾崎豊が好きだという人に好きな曲を尋ねて『I LOVE YOU』が出たら、どうせカバーを聞いたんだろうと思うし、『15の夜』と言われたら、お前が好きなのは尾崎豆だろうと思う。
誤解しないで欲しいが、今挙げたのはどれも素晴らしい作品だし、僕も大好きだ。
しかし、「1番好き」というリングの上でジャブを出し合う際に、このどれも相手をノックダウンするに値する決定打とはならない。一般的にはマイナーだがファンの間では良作という名のカウンターで1発KOだ。
だから、この手の質問に対する最良の回答は「シブいね」という返しを相手から誘い出せる作品となる。
ただ、前述したようにこれは相手の度合いを推し量る質問だ。当然、この質問が出る間柄というのはまだよく相手のことを知らない。どの作品が相手の急所を突けるかわからないのだ。
しかし、この「1番好き」というリングから降り、解説席に立てる枕詞があることをご存知だろうか。不毛な戦いをせずに、かつてのチャンピオンという立場からジャブを眺めることのできる最強の枕詞が。
それが、「…結局」である。
…結局、ONE PIECE。
…結局、I LOVE YOU。
…結局、ショーシャンクの空に。
どんなにメジャーな、誰もが好きな作品を挙げても、「いろいろ読んで、聴いて、見たけど1周回ってやっぱりこれが1番という結論に落ち着いたんだよね」という感を出せるのだ。まさにチャンピオン。
この枕の肝は「…」である。この間が、玄人感を増させる。それでも不安な人は顎髭を生やすといい。顎髭を触りながら「…結局」と切り出されると、それだけで凄みが増す。
この最強の枕詞を知っているだけで、これまで憂鬱だった質問を待ちわびてしまう。この質問が飛んできたときには心の中で叫んで欲しい。
「あ、これ、進研ゼミでやったところだ!」
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