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夕暮れ、ブランコで舞い上がった砂の味

Fernandoはアルゼンチン出身で、
当時齢40ほどだったと思う。    

写真のブランコに座るこの男とは、ゲストハウスで出会い2週間ほど生活を共にした。務めていた会社ではそれなりの役職にいたが、ただ働く毎日が嫌になり貯金を切り崩しながら世界一周をしているのだと彼は話していた。

2014年の8月、僕はタイのランタ島にいた。
昼過ぎまでゲストハウスで清掃やベッドメイキングなどの客室管理を行い、午後になったらFernandoと共に近所の売店でビールを買いビーチで過ごすという優雅な日々を過ごしていた。

ある日いつものようにビーチへ向かうと、いつもは日陰で手巻きのタバコを燻らせるFernandoが、その日は珍しく海で泳ごうと言い始めた。

とても波が高い日だったのを覚えている。

しばらく遊んでいると、大声でFernandoが僕を呼んだ。何かあったのかと近くに行くと、水着が波に攫われたのだという。漫画みたいな話があるのだと思いながらもしばらく一緒に探したがなかなか見つからない。おそらくもう流されてしまったのだろうと途中で諦めたが、どうゲストハウスへ帰るかが問題だった。

僕が一度ゲストハウスへ戻り、ズボンをとってくるよと彼に提案したが、彼はその提案を受け入れないどころか、僕は彼に叱られた。

「お前は旅というものをわかっていない」と。

この時ほど「旅の恥はかきすて」という諺を意識したこともないだろう。

彼は陸へ上がると、おもむろに近くに落ちていた大きはの葉っぱを手にとり、全速力でゲストハウスへ走り出したのだ。

齢40。全裸。葉っぱ。全速力。

夕暮れ、ブランコで舞い上がった砂の味を噛みしめながら見た彼の豊かに揺れるお尻は未だに脳裏に焼き付いている。彼が小径を駆け抜ける姿を見たのが、後ろからでよかったと本当に思う。

手にとった葉っぱで彼は、顔を隠していた。




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