ホラえもん

舞台中央にホラえもんが立っている。真っ直ぐ正面を向いて微動だにしない。ホラえもんの服装は水色のスーツ、白いシャツ、黄色い蝶ネクタイ、赤いベルト、紳士風の口髭を生やしている。
少し間をとる。ホラえもんは微動だにしない。

舞台下手から少年が走ってやってくる。

少年「ホラえもん! またタケシに殴られた!」
ホラ「……」

ホラえもん、観客席正面を向いたまま微動だにしない。

少年「ボクは悪くないんだ! しみちゃんと話してたらタケシが急に殴ってきて……! くそぅ!タケシめ!」
ホラ「……」
少年「ねえ! ホラえもん! 聞いてる!?」
ホラ「……」
少年「ねぇってば!!」

ホラえもん、ワイヤレスのイヤホンをとる。

ホラ「え? なに?」

ホラえもん、軽いノリ。

少年「なんだぁー、イヤホンしてたんだー。もし故障だったら新しいロボットに買い替えないといけないところだったよ! よかったー」

ホラえもん、こいつマジか、の表情。

ホラ「……話は聞いてなかったけど、大体わかるよ。またタケシにいじめられたんでしょ? たまには自分でどうにかしなよー」
少年「そんなこといったって、ボクがケンカでタケシに敵うわけないじゃないかー……。
少年「(小声で)それに、ボクが自分でどうにかしちゃった場合、困るのはキミだろ?」

ホラえもん、萎縮する。

ホラ「……あの、それは、どういう……?」
少年「いいからなにか道具をだしてよー」

ホラえもん、スーツの内ポケットからデジカメをだす。

ホラ「ヨワミ、ニギニギ、カメラー!」
少年「ヨワミ、ニギニギ、カメラー?」
ホラ「このデジカメを使って、タケシの弱みを写真にとっておけばいいんだよ!ほら、このカメラ、画素数高いからキレイにとれるよ!」

少年、態度が急変する。両手をポケットにつっこみ、ホラえもんに詰め寄る。

少年「え? それ、マジで言ってる? 違うよね?」

ホラえもん、媚びるように笑う。

ホラ「あ、アハハ。あの……。もー、君はワガママだなぁー……。なんつって。アハハ……」

少年、舌打ち。

ホラえもん、デジカメをそっとしまう。

ホラえもん、狼狽して、少し黙った後、スーツの内ポケットからスタンガンを取り出す。

ホラ「ビ、ビリビリ、コラシメール!」
少年「ビリビリ、コラシメール?」

ホラ「これを使えばどんな大男でも一瞬で気絶させることができるんだ!本当は護身用なんだけど、能動的に相手を攻撃したいときにも便利なんだ!」

少年、ため息をつく。

少年「……あのさぁ」

ホラえもん、ビクビクしている。

少年、自分の頭の後ろをかきむしる。

少年「なんでさ、こんぐらいの事がさ……!わっかんねえかなあ!なあ!」

少年、ホラえもんの肩を小突く。

ホラえもん、目が泳いでいる。

少年「もっと考えようよ!未来の世界から来たんだろ!なんでもできんだろ!?」
ホラ「……あの、ほんと、口答えとかじゃないんすけど、未来っつっても、ボクが来たのは10年後からだし……。この世界とそんなに変わんないってゆーか……。あ!でも!自分、本気でやらせてもらいますんで!ほんと!頑張りますんで!」
少年「……あー、そーーーう?」 

少年、ホラえもんの顔を覗き込むようにみる。口元は笑っているが、目が笑ってない。

少年「……で? どうするわけー?」

ホラえもん、少年に敬礼する。

ホラ「自分は!!これからタケシをボコってきます!!」
少年「きばれやー」

ホラえもん、下手へダッシュ。

暗転。

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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー