台本 人魚が笑った
せなM:学校からの帰り道、わたしはおじいちゃんの家に寄っていくことにした。
寄り道すると、いつもお母さんに怒られるけど、おじいちゃんの家なら大丈夫。
おばあちゃんが死んでしまって、いつまでもおじいちゃんは元気がないままだから、
お母さんには、おじいちゃんを元気づけてあげて、って言われてる。
今日はいい報告があるから、おじいちゃんも喜んでくれるかもしれない。
祖父:おお、よくきたな
せなM:おじいちゃんは日に焼けた浅黒い顔にしわくちゃの笑顔をうかべて
わたしを迎えてくれた。
一見、元気そうだけど、わたしにはわかる。
何となく、生きる力、みたいなものが、薄い感じがするの。
祖父:なんか食べるもの持ってくるから、縁側で待ってな
せなM:わたしとおじいちゃんがお話しするときは、
縁側でお茶を飲みながら、というのが定番だ。
(SE)風鈴
せなM:気持ちがいい夏の風が吹いてきた。なんか、またプールで泳ぎたくなっちゃったなぁ。
海で泳いでいるのをイメージして、足をバタバタしていたら、
おじいちゃんが水羊羹と麦茶をもって縁側に出てきた。
せな:ふふふ。おじいちゃん、これ見て!
せなM:わたしはランドセルに丸めてつっこんでいた賞状を、おじいちゃんの目の前に広げる。
祖父:おお、せなちゃんは水泳で一等賞か。すごいなぁ
せな:えー!? ぜんぜん、驚いてないじゃない!
祖父:ははは……。そりゃあなぁ、せなちゃんは去年も一昨年も一等賞だからなぁ
せな:え~、もっと驚いてほしー。つまんないなぁ~
祖父:泳ぎがうまいのは、きっと、おばあちゃんに似たんだな
せな:え、おばあちゃんって、泳ぐのうまかったんだ
祖父:そりゃあ、そうだ。…いや、泳ぐのが上手でな。
町の連中はみんな、おばあちゃんが人魚なんじゃないかって噂するぐらいでな…
せな:ぷぷー。なにそれ! 人魚なわけないのにね!
祖父:ははは…
せな:ねぇ、おばあちゃんってどんな人だったの?
祖父:きれいな人だったよ。不思議な黄色い瞳でな。それこそ、人魚のお姫様のようだった
せな:えー。ちょっと。おじいちゃ~ん。そんなこといったら、恥ずかしいよ?
祖父:いいんだよ。本当のことだ。
でも、おばあちゃんは変わり者でな。いつも不愛想で、人を寄せ付けなかった
せな:へぇ、それなのによくおばあちゃんと結婚できたね
祖父:そうだな。色々あって、おじいちゃんには心を開いてくれていたんだ。この世のものとは思えないくらい、それはもう、素敵な笑顔をみせてくれた。
でもね…、
何というか、おばあちゃんの家族…、みたいなヒト達は結婚に反対だったみたいでな。あの時は大変だったなぁ
せな:でも、結局は結婚できたってことでしょ? よかったねぇ
祖父:そうだなあ。あの頃は、ただただ目の前の事に必死でね。
よく意味も分からず、夢中で…
なぜ結婚に反対されたのか、
その本当の理由に何年も経ってから、やっと気がついたんだ。
人間の世界はマナ…、おばあちゃんには辛すぎたんだ。
…ああ、せなちゃん。もう膝に、アレが生えてきちゃったね。
この前、剃ったばかりなのに
せな:あ、ほんとだー。もー! 面倒くさくてイヤなんだよね
祖父:カミソリをもってこよう。ちょっと待ってなさい
せな:えー。いいよー。家に帰ってから剃るから
祖父:いや、だめだ
せな:えー…。わかったー
…でも、これ、キラキラして綺麗だよ。そのまま生やしといてもいいんじゃないかな。なんか、アレに似てるみたい。…魚のウロコ?
…おじいちゃん、どうかした? …泣いてるの?
祖父:いいかい? 絶対に、他の人に見せてはいけないよ
(SE)ヒグラシが鳴く
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