夜に掃除
「いや~、やっぱ見ちゃうね。アルバム。
お前も人並みに生きてきたんだなぁ。当たり前なんだけどさ。
なんかしんみりしちゃうね」
ふと、男は腕時計に目を落とす。
「ははっ! 笑っちゃうよ。もう夜だぜ。さっさと片づけないと」
男は押し入れの中にある衣装ケースを取り出していき、きれいに並べ、一つずつ中のものを整理してゆく。必要なものは取り出し、大きなボストンバッグに詰め、不要なものはきれいに拭いてからケースに戻す。
男の手際が良いためか、見ていて心地がいい。
雑然としていた衣装ケースの中身がきれいに整頓されていく。
男が口笛を吹き始めた。マック・ザ・ナイフ。ジャズのスタンダードナンバーだ。軽快で陽気な曲が彼の心情を表している。
「あ、いけね。もう夜なんだった」
男の携帯電話が鳴る。
「あー。蛇が出ちまったかな」
男は電話をとる。
「あー。もうすぐ終わるよ。……ん? いやそっちはとっくに片づけたよ。俺は掃除してんのよ。きれい好きだからさ。……はい、はい、はーい。わかってるよ。もう5分もすればここを出る」
男は電話を切り、衣装ケースを押し入れに戻していく。
無意識なのだろう。マック・ザ・ナイフを口ずさみながら。
すべてを片づけた後、流しで手を洗う。指先から肘までを丁寧に。蛇口を絞った後に指紋を拭きとるのも忘れない。
男が立ち去った後、そこには血の海と死体が残されていた。
部屋の壁に沁みたマック・ザ・ナイフが死体となった彼の鎮魂歌となった。
日曜の朝、路地に血まみれの死体が転がっていたが
角の辺りに こっそり逃げるヤツがいた
もしかしてそいつがマック・ザ・ナイフなんじゃないか?
マック・ザ・ナイフ / ボビー・ダーリン
(原曲「マッキー・メッサーのモリタート」:殺人物語大道歌)
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最後まで読んでくれてありがとー