【5話め】魚はちょっとこわいけど


らくさんへ

残暑見舞い申し上げます。暑中見舞いしたかったんですけど、ネットで調べたら8月6日までが期間のようで、いささか遅くなってしまったようです。
そして本日8月23日から残暑の期間に入ります。
もう夏も終わりなんですね。
それにしては暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか?
僕は元気もりもりです。紅茶もがぶがぶ飲んでます。LadyGREYはお気に入りです。

お手紙拝見しました。
雨について。長雨という言葉があるんですね。なるほど。しとしと降る様は趣がありますね。しっとりした気持ちになります。
しかしながら僕はザアザアと降る激しい雨が好きです。ほんのひとときだけ降る夏の通り雨は特に良いです。胸のざわめきがとまりません。大きな雨音や打たれたときの感触がいいのかな。なにより、傘なくてびしょびしょになってもうどうでもよくなっちゃったときの開き直り感がいいです。もう笑うしかない感じ。

さて、5話めにして本題にはいりますが僕がこの往復書簡をお願いした理由は、人生の転換期を迎えるにあたって(このあたりはまた後ほど……)自己分析をしたかったからです。自分のことをいつもより深めに誰かに話して返事をもらってそれを繰り返せば自己分析がかなうのではないかと思ったからです。

すでに4回往復してますので考察は進んでますが、もう少しお付き合いいただけるとありがたいです。なんだか考察がムズイですし、らくさんのコメントが優しくて僕にはムズがゆいので、なかなかスムーズにいきません。

個人的に、その人の評価は最新の状態がすべてだと思っているので(過去がどうであれ現在がすべて)、それには反しますが、こういう心理分析は幼少期の過ごし方を聴取するのがベタなのでそのようにします。
あ、手紙の内容を幼少期しばりにしようと提案しているわけではないので、どうかお気になさらず。

僕は幼少期、乱暴者でした。幼稚園に通っていたころ、体が大きくて力も強かったので、ボクシングごっこと称して友達を叩いたり、紙飛行機に悪口を書いて誰かれ構わずに投げつけたり、ジャングルジムにいろいろなボールを投げこむという謎の遊びを友達連中に強制したりしました。そんな風にして乱暴狼藉を働き続けていたのですが、ある日、転機が訪れます。
僕は大きな動物のぬいぐるみを教室中の同級生たちに手あたり次第に投げつけて遊んでいたのですが、そのぬいぐるみについている目の部分が、ある女の子の顔に当たってしまい、その子が激しく泣き出したのです。プラスチックの硬い素材でできていたので痛かったのでしょう。
その子があんまり激しく泣くので、僕は萎縮して急に落ち着きました。そして、これまでの傍若無人ぶりは影を潜め、なぜだか急に深く反省しました。その後、騒ぎを聞きつけた先生がやってきて、僕はものすごく怒られました。髪の長いヒステリック系の女性の先生だったのですが、怒ってるときの顔がたいそう恐ろしかったです。過去に好きになった女性と歴代彼女がすべてショートカットなのはこれが原因かもしれないと今思いました。

それからの僕はスケッチブックに迷路を書き続ける不思議系男子に急変しました。さらに、だれかが怪我をするのを極端におそれ、下足場に陣どって園庭で遊ぶ子供たちを監視し、だれか転んだ子どもがいると猛ダッシュで先生を呼びにいく活動を開始したりしました。
不思議なことに、他の子が転んで怪我をすると真剣に対応するのに自分が転んでひざを擦りむいたときはなぜだかひどく恥ずかしく感じ、女の子に大丈夫かと尋ねられても、痛くない!転んでない!と言い張っていました。痛くない、というのはわかるけど、転んでない、は無理があります。
そのほか、幼稚園から3回脱走したり、お昼寝の時間に寝相が悪すぎて先生を困らせたり(友達の頭をまたぐらに挟む癖があった)していましたが、これらの悪癖も前述の転機で消滅しました。

えー、と……。お返事をお待ちしております。

吉村より

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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー