事故中

舞台は暗いまま。車のブレーキ音。車体同士がぶつかる音。舞台の照明をつけるがなるべく薄暗く。

車のドアが閉まる音。舞台袖からトラックの運転手風の男がでてくる。怒った様子で腕組みをしている。長めの間を空けて、車のドアが閉まる音。逆の舞台袖から銀行員風の男がでてくる。声を出さずに号泣している。その様子をみてトラ運がギョッとする。

トラ運、一度驚いたものの威厳を取り戻して銀行員をにらみつける。

トラ運「お前どこみて運転しとんねん。ああ?」

銀行員、嗚咽するばかりで答えられない。

トラ運「ほんで、いつまで泣いとんねん。さっさ警察に連絡せえや」

銀行員、めちゃくちゃに号泣する。

銀行員「うっ! ひぐっ!! うぁぇぁあ!! あー!! ……助かった」

明らかに引いているトラ運。

トラ運「……いや、助かったってなんや」

銀行員、早口で長ゼリフ。

銀行員「私は今非常に危機的状況にいます偶然出くわしただけのあなたには気の毒ですが協力していただくほかありません実は私は今銀行強盗の一団に人質にとられているのです幸か不幸かこうして交通事故に遭い一時的に解放された形です奴らは顔を見られるわけにはいかないため苦肉の策として私にあなたと交渉するように指示してきましたこれはチャンスです奴らをハメて一網打尽にしましょう」

トラ運「は?」

銀行員「私は今非常に危機的状況にいます偶然出くわしただけのあなたには気の毒ですが協力していただくほかありません実は私は今銀行強盗の一団に人質にとられているのです幸か不幸かこうして交通事故に遭い一時的に解放された形です奴らは顔を見られるわけにはいかないため苦肉の策として私にあなたと交渉するように指示してきましたこれはチャンスです奴らをハメて一網打尽にしましょう」

トラ運「え?」

銀行員「私は今非常に危機的状況にいます偶然出くわしただけのあなたには気の毒ですが協力していただくほかありません実は私は今銀行強盗の一団に人質にとられているのです幸か不幸かこうして交通事故に遭い一時的に解放された形です奴らは顔を見られるわけにはいかないため苦肉の策として私にあなたと交渉するように指示してきましたこれはチャンスです奴らをハメて一網打尽にしましょう」

トラ運「いや、あの」

銀行員「私は今非常に危機的状況にいます偶然出くわしただけのあなたには気の毒ですが協力していただくほかありません実は私は今銀行強盗の一団に人質にとりゃりゃ……」

トラ運「あ……」

銀行員「あーーーー!! もーーーーーぅ!!」

舞台の照明を全部点ける。

銀行員「察しろよ!! 時間ないんだよ!! 飲み込み悪いなぁ!! もう!!」

銀行員「しかも最後に噛んだせいで俺の滑舌が悪いみたいになっちゃってんじゃんよーぉー……」

トラ運「そんなことないよ。あれだけの長ゼリフをこなせる奴はそうそういないよ」

銀行員「え……。ありがとう」

銀行員、はにかんだ笑顔をみせるが、すぐに真顔になる。

銀行員「いや!結局、最後に噛んだけどね!」

トラ運「しょうがないよ。あれだけの長ゼリフだもの」

銀行員、はにかんだ笑顔をみせるが、すぐに真顔になる。

銀行員「お前のせいじゃん!! お前が何回も言わせるからじゃん!!」 

トラ運「……すまん。俺のせいや」

トラ運、両手をポケットにつっこみ、観客席へニヒルな笑顔をみせる。

少し間をとる。

銀行員「ともかく!事情はわかったでしょう。私に協力してください」

トラ運「あー、どうすんねん?」

銀行員「私が交渉に失敗し、あなたを怒らせたようにみせるのです。そしてあなたが電話を取り出し、警察へ連絡するのです。」

トラ運「電話ない」

銀行員「そうすれば、やつらは私を置いて逃げだすはずです。車のナンバーと事故の損傷を警察に伝えれば奴らが捕まるのも時間の問題でしょう」

銀行員とトラ運が顔を見合わせてニッコリと笑う。

銀行員「なんで今どきスマホも持ってないんだ!!」

トラ運、両手をポケットにつっこみ、観客席へニヒルな笑顔をみせる。

トラ運「……落とした」

銀行員「使えねぇな!!」

銀行員「あー、もう最悪だよー。おしまいだよー」

銀行員、しゃがみこんで、両手を地面につける。

トラ運、一点をみつめ、思案顔。

トラ運「ちょっと待ってろ」

トラ運、銀行員がやってきた方向に向かう。舞台からはける。

銀行員「え?ちょっとちょっと……。そっちはヤバいって!!おわっ!マジかよ」

銀行員、地面に伏せて隠れる。

車が走り去る音。

トラ運、笑顔で戻ってくる。

トラ運「え?なにしてんの?」

無言て立ち上がりホコリをはらう銀行員。

銀行員「ちょっとね……」

銀行員「それより! 何してんだよ! どうなってんだよ!」

トラ運「交渉してきた。俺のトラックやるから金よこせって」

銀行員「それで?」

トラ運、両手をポケットにつっこみ、観客席へニヒルな笑顔をみせる。ポケットをひっくり返すと万札が溢れ落ちる。

トラ運「成功や」

銀行員「すげーーーーーーーーー!!」

暗転


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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー