ゾンビ漫談

明転。

舞台上手から、ゾンビが中央に向かって歩いてくる。
いかにも、ゾンビらしくふらふらと歩くが、中央まで着くと、途端にしゃんと背筋を伸ばし、はきはきとしゃべりだす。

「ヴぁおヴぁーーー! なんつって、言ってますけどもねー。
 今日はね、ゾンビでもね、こうやって流暢にしゃべれるんですよーっていうのを皆さんにお伝えできたらなぁ、なんて思いますけどもー。
 ……え? ゾンビがそんなにしゃべれるわけない? いやいやいや、そりゃあ偏見ってもんですぜ!こうやってしゃべれてるじゃあないですか。
 ……え? お前はゾンビじゃない。人間が化けてるだろって?、ははぁ、そうきましたか!」

ゾンビ、いかにも参った!というように体を前に曲げて両手を膝につく。
パチン、と膝をたたく。

「いいでしょう! それじゃあ、まずはこれをご覧ください!」

ゾンビ、上着を脱いで左腕をさらす。なにかに噛みつかれた後がある。

「ほら見たでしょう! どうですか? お客さん!
 ……え? そんなのメイクでどうにでもできるって? 参ったなー。じゃあーこれでどうですか?」

ゾンビ、服をお腹までめくりあげる。下っ腹が腐り、臓物がはみ出している。観客席から悲鳴があがる。

「やれやれ、やっとご納得いただけたみたいだ。
 そんじゃあ、まあ、今日はワタシがこんな姿になったいきさつでもお話ししましょうかね。
 皆さん、ご承知の通り、こんなご時世だ。どこもかしこもゾンビだらけ。ワタシもね、ゾンビにはなりたくないよーってなもんで。必死に逃げ回ってたわけですよ。そうしてね、逃げ回ってるうちに、とあるシェルターでね、運命的な出会いがあったんですよ! そりゃあ、もう、ワタシの思い描いてた理想の女性でね、一目惚れっつーのはああいうことを言うんだね。
 ……え? こんなご時世に不謹慎だって? いやぁ、こればっかりはね。本能だから。しょうがないってなもんですよ。人間が恋をするのも、ゾンビが人に噛みつくのも。(自分の左腕を指さして)はは!
 そんでね、ワタシは猛烈にアプローチしたわけだ。好きです! 愛してます! ってね。……これがね、ワタシのやり方なんですよ。押して押して押しまくる!ってね。
 そうしたらね、その彼女には、どうやら恋人がいるってんだ。しかもね、いけねえことに、どうやら彼女を助けるためにその彼氏が身代わりになって助けてやったらしい。これはまずい! そんなことがあっちゃあ、彼女は未練たらたらだ。いつまでもあの人を待ってるわ! なんてぬかしやがる!
そんでね、彼女、その彼氏の写真をみせて惚気てきやがるんですよ。その写真の彼氏が男前でね、こりゃあ、どうしたもんか。ワタシのこの顔面じゃあ厳しいなーってね。
……だからといって、ねぇ、いい女なんですよ、彼女。とても諦めきれない! 
 そうやって悶々として過ごしてたんですけどね。ある日、ワタシにもツキがまわってきた。まだあんまり荒れてないコンビニを見つけてね、その中で食糧をさがしてたんですよ。そうしたらね、先客がいてね。若い男だった。どうにも、足を怪我しててね、動けないようだった。
 顔を見てね、ピンときましたよ。信じられない! なんて幸運なんだろう! あの、彼氏ですよ。彼氏。こりゃあ、ツイてる!
 さっそくね、彼氏に声をかけましたよ。おい!大丈夫か!ワタシが来たからにはもう安心だぞ!ってね。そんでね、おんぶして、シェルターまで運んでやるぞ、ってね。申し出たんですよ。そしたらね、彼氏はありがたがってね、何度も何度も言うんですよ。ありがとう、ありがとうって。
 

 ほんと、笑っちゃったな。


 そうしてね、シェルターまで安全な道を通って帰ろうとしたんだけどね。いけねぇ!道をまちがえた!ってね、ドジなワタシは間違えてゾンビがうようよしてる危ない危ない道を通っちゃったんですよ!
こいつはピンチだ!急いで逃げないといけない!
そうするとね、邪魔な荷物は捨てなきゃあいけない!
そんでね、荷物をね、ちょいっと捨ててきたってわけでさ!
一応ね、万が一があるから、逃げてる途中でちょいちょい振り返ったんだけどね。OK、OK。しっかりゾンビにもみくちゃされとりましたわ。

 そんで、シェルターまで帰って彼女にいきさつ話したらね。彼女、わんわん泣いちゃって。ここは、ワタシがしっかりしないとな!しっかり慰めてしんぜよう!そうしてね、寂しい彼女とワタシの距離が縮まっていくわけだ……なんてね、夢中で考えてたら、彼女、いつの間にかシェルターを飛び出して行っててね。まじか。信じられませんよ……。ゾンビの彼氏に抱きついて、自分もゾンビになってんの!うわー!そんなのありかよ!ってね!

 そんで、呆然と立ち尽くしてたら、肩をちょいちょいって叩かれてね、なんだよ今いそがしいんだよって、ちょっとばかし文句いってやろうとおもったらおじさんのゾンビでね、左腕をがぶり、いかれちゃったわけよ!
なんで、おじさんなの! せめて、彼女に噛まれたかったなー!
……ってなわけで。ワタシのお話はこれでおしまい。
次は、そんな彼氏彼女による夫婦漫才ですよー。
どうぞ、お時間ある方は観てってくださーい」

ゾンビ、深々とお辞儀をする。

暗転。

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吉村トチオ
最後まで読んでくれてありがとー