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ほんとだよ

小説のタイトルって、最初から納得度が高いものと、読み進めていくうちに「なるほど、だからこのフレーズを選んだんだね」とつながるものがありますよね。
それは、ひらめきかもしれないし、練りに練って最後の最後にようやくたどり着いたのかもしれない。
どちらにしても、物語の核心を突いていて、タイトルも含めて作品として完結しているから、ほんとにすごいといつも思っているんです。僕だったらどんなタイトルをつけるかなって考えたりするけれど、やっぱりそれ以上のものは思いつかないんですよね。

小説の世界だけでなく、日常も物語の積み重ねだとしたら、今日という日にどんなタイトルをつけるか。
これは、ちょっと難易度の高い遊びかもしれませんね。なにか印象深い出来事があったらそれに引っ張られてしまうし、特に変わったことがなく穏やかに過ごした一日であればそれこそタイトルなんて浮かばない。
毎日だとハードルが高いから、時々何かおもしろいことがあった日を物語に見立てて、タイトルをつけてみるのはどうでしょうか。

なんてことを考えたくなる出来事が、数日前にありました。

とある研修の仕事で、福岡市の隣の春日市に行きました。研修が始まる12時50分に向けて、担当の方との待ち合わせ時間は12時30分。いつもより早めに昼食を済ませて、11時40分頃に会場に着きました。
今思うと、途中に立ち寄ったラーメン屋さんから物語は始まっていた気がします。

11時の開店直後くらいだったから、まだお客さんもまばら。駐車場の車は1台だけでした。手動の引き戸に手をかけて開けようとしたところ、目の前にポトリと何かが落ちてきたんです。イメージするなら、昭和の小学校で教室のドアに黒板消しを挟んで待ち伏せするあのいたずら。と言っても、小さくて誰にも当たらず地面に落ちたから被害はなく、ただ、「え、うそ」と一瞬足が止まりました。そこにいたのは、ひっくり返ったG。いらっしゃいませと声をかける店員さんも、目線はそこに。そして顔を上げて二人の視線が合ったら、苦笑い。苦笑いで済ませた店員さんも、客からすると「うそやろ」ですけどね。
そんなラーメン屋さんが伏線扱いになるなんて、思いもしませんでしたよ。

話を研修会場に戻しましょう。
食事を終えて到着した時間がまだ待ち合わせまで余裕があったので、どうやって過ごそうか考えました。持ち歩いている読みかけの小説の世界に飛び込むのもいいけど、気になる場所があってですね。会場の近くにある小さな本屋さん、子どもの本の専門店『エルマー』です。僕が携わっているNPO法人では、立ち上げの頃から何かとお世話になっているお店。最近ご無沙汰していたので、ちょっとごあいさつに行こうと思ったわけです。「近くに来たのに、顔も見せに来なかったの?」とか思われたら寂しいじゃないですか。お店までは歩いて10分くらいだから、往復時間を計算しても間に合いそうですよね。

食後の運動にちょうどいいや、なんてひとりごとを頭に浮かべながら、懐かしい道を右に折れ、左に折れながら、エルマーにたどり着きました。変わらない店の佇まいを見ると、ホッとします。店長の前園さんはよく講演会に呼ばれてお話しに出かけられるので、アポなしの突撃はそこだけが心配。
だったけど、お店をのぞくと見えました。見慣れた赤いエプロンが動いています。前園さんです。さっそく店内に足を踏み入れ、2組の親子連れの接客中だった背中に向かって声をかけました。

そうそう、エルマーって、絵本好きにはちょっとした聖地なんです。日本中から絵本作家さんが訪れるお店として。どんないきさつがあったのかは聞いてないけど、ごく自然に来店される絵本作家さんに、運が良ければ会えます。その場でサインはもちろん、ツーショット写真にも応じてもらえます。

おっと、こんな解説をねじ込んだら、察してしまいますかね。でも、お察しの通りなんです。
お久しぶりのあいさつをして、午後の仕事や近況を報告して、店内をひと通りまわって、それではまたゆっくり来ますねと伝えて店を出ようとしたところで、前園さんが僕に声をかけました。
「吉村くん、サトシンさん来たよ。」

そうです、絵本作家さんのサトシンさん。「前園さんが来いって言ったから来たよ」って、どこまでほんとか分からないけど、店の前に立っているのは間違いなく本人です。トランクいっぱいに絵本を詰め込んで、全国を回っている途中だと言ってました。僕の前に来ていた2組の親子も大喜び。ご本人オススメの絵本、講演会で人気の絵本、子どもたちにウケがいい絵本、後ろで一緒に話を聞いてると、僕もワクワクしてきます。絵本好きですもん、当然ですよね。

ただ、気になるのが時間です。この場でそんなことしちゃ失礼だと思っても、そろそろ移動しないと間に合わないから時計をチラチラ見てしまいます。

そのくせ、子どもの後ろに並んで、僕もサインを書いてもらう気満々。表紙をめくり、タイトルが出てくるその前のまっさらなページに、子どもたちの名前を書きこんで、イラスト描いて、「今日は、えーっと」と言いながら日付を入れて、一冊、二冊と世界にひとつだけの宝物が生まれていく。時間がゆっくりあるなら、もっとこの時間に浸っていたいと思いつつ、やっぱりソワソワしている僕。

そうこうしてると、状況を知ってる前園さん言ってくれました。
「ごめんね、写真はこのお兄さんからでもいい?いそいでるの」
ごめんねと思いながらちゃっかりそれに便乗して、サインも写真もお願いしたら、こうなりました。

僕が選んだ絵本は、『うそだあ!』。

サインもらっちゃいました
サトシンさんとツーショット写真も

写真を撮ってくれたのは、前園さん。
「前園さんとツーショット撮れたらいいなぁ」とか思いながら行ったのに、カメラマンをお願いしてしまうなんて。
またゆっくりおじゃまします。

心が満たされて会場に移動してからは、研修で今日のよかったネタとしてしっかり使わせてもらいました。

今回の研修テーマは、「ストレスマネジメント」。
真面目な研修でいきなり講師が絵本自慢をするなんて、「うそだあ」って思ってもらえてたら大成功ですけどね。

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吉村伊織
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