【祭り】の体験が、大切な思い出になる
「覚えとるか。『じいちゃーん、はなびみにいこー!』て言うから連れいったら、『じいちゃん、こわい。はよかえろー』て泣きよったとぞ。」
お酒が入ると、じいちゃんはいつもその話をしていました。正月でも、お盆でも。
花火に連れていけと言いながら、始まった瞬間に大きな音がコワくて泣きだしていた少年は、僕です。何度も何度もじいちゃんが語っていたからなのか、今でもはっきりとその場面は覚えています。
生まれ故郷の矢部町(今は山都町)では、お祭りと言ったら9月の第一土曜・日曜に開催される『八朔祭』。江戸中期から五穀豊穣を願う祭りとして受け継がれてきた伝統行事で、町のみんなで盛り上がります。小学生の時には、全校生徒で鼓笛隊を組んでパレードもしていました。高さが3メートル以上にもなる『大造り物』でも有名で、その年の有名人やキャラクターなどが、山の自然の材料で作り上げられます。
残念ながら今年の八朔祭は感染症対策のため中止となりましたが、大造り物は祭りが終わっても町の中に展示されているので、インスタ映えを狙う人にもオススメです。
※山都町観光協会と山都町役場のホームページはこちら。過去の『大造り物』写真と、展示場所の地図が載っています。
この八朔祭の会場は、山都町の中心部にある商店街。当時は、そこから離れた地域に住んでいたので、祭りの日は商店街から近いじいちゃんの家に泊まりに行くのが毎年のお楽しみになっていました。
夜には、通潤橋の近くで打ち上げ花火が上がります。
じいちゃんの家からも見えるのに、どうしても近くまで行きたいと言い張った僕。まだ小学校に上がる前だった僕の気持ちが、強がりだったのか、好奇心だったのかは覚えていません。じいちゃんに連れられて玄関を出て、小さな橋を渡って、薄暗い道を商店街に向かって2人で歩きました。はやくはやくとせかしながら。
だんだんと祭りの音楽やざわざわとした人の声が聞こえてくるようになり、提灯と屋台の明るさが近くなります。わたがし、おめん、いか焼き、くじ引き、金魚すくい、ヨーヨーつり。道の両側には、たくさんの屋台が並んでいます。おいしそうな誘惑にも楽しそうな誘惑にも負けることなく、商店街の先の花火会場まで一直線に歩きました。
じいちゃんが選んでくれた場所は、通潤橋を見下ろせる坂の途中。ガードレールの手前に2人で並ぶと、ちょうど目の前に花火が見える高さです。周りにもたくさんの人が集まって、みんなで花火の開始を待ちます。
そして、ヒュルー、、、ドーン!!
「わぁー」と歓声が上がり、笑顔が光りに照らされる中、僕の心は一発で吹き飛ばされていました。
『じいちゃん、こわい。はよかえろー。』
じいちゃんの思い出は、こんなちょっと恥ずかしい場面から始まります。それ以降、ずっとやさしくて心強い存在でした。川遊びや山遊び、魚つりに連れていってくれたり、病気の時には病院に連れていってくれたり。
3年前に亡くなった時、最期の瞬間には一緒に病室にいさせてもらいました。穏やかに、静かに、眠るように、息を引き取りました。生きることの大切さをたくさん教えてもらった気がします。
祭りには、人それぞれ、いろんな思い出を持っていると思います。祭りそのものも素敵だけど、誰と行って、どんな体験をして、それをどう記憶しているかも大事な気がしています。繰り返し語ることで、「体験」が大切な「思い出」になる。
そんなことを感じています。
誰もが、いつかは最期の瞬間を迎えます。
生きているうちに、会えるうちに、たくさん語っておきたいですね。
もし、じいちゃんとまたお酒を飲めたら、この話をしてくれるでしょうか?
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毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 祭り 】でした。
「祭り」の日のじいちゃんとの思い出が頭に浮かんでいるのは、土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)です。
今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
メンバーみんなのnoteも、忘れずチェックしてくださいね。
それではまた、お会いしましょう。