好きな音楽の話

 音楽の趣味が偏っている自覚がある。中島みゆきを筆頭に、松任谷由実、中森明菜、松田聖子…そう、偏見を承知で言えば、「昭和のゲイが好きなラインナップ」ど真ん中なのだ。
 昭和の生まれなので…と言えなくもないが、ものごころついたのは平成に入ってから。街中に流れていたのは彼女たちの音楽ではなく、浜崎あゆみやモーニング娘。だった。世代的にはそちらの方がしっくり来ても良さそうだ。なのになぜか、好んで聴くのは昭和の時代から活躍している女性アーティストの曲ばかり。
 年上の兄がいるが、たかだか4歳差なので彼の影響ではない。親は上に挙げたラインナップはむしろ嫌っているタイプなので、「親の運転する車の中で聴いていたから」という理由でもない。

 とりわけ好きなのが、いわゆる「フラれ歌」。「こんなに私はあなたのことを愛していたのに、あなたは私を捨てて去ってしまうのね。あぁ、なんて惨めな私…!」…言ってしまえばそんな内容の歌である。重い。しかも、諸般の事情で(自分がゲイであることを公にしていないし、たとえ公にしたところで恋人ができる見込みもない)恋愛方面の経験が極端に少なく、「あぁ、なんて惨めな私」なんて状況に自分がなったことがない。それにもかかわらず、好んで聴いてしまう。これはあれか、ノンケ相手に数々の叶わぬ片想いをしてきた故のことなのか。

 「あまり偏りすぎているのもなぁ…」と密かに気に病んでいたところ、つい先日、いろいろな音楽を教えてくれる新しい友達ができた。これまで名前も聞いたことなかったようなアーティストの曲を、「よしみくん、これ好きそう」と次々と教えてくれる。そして実際、教えてくれるどの曲も好きなので、本当にありがたい。教えてもらった曲を順番に登録したプレイリストも作った。
 趣味や好きなものに関して、ある程度範囲を限定して突き詰める人ももちろん素敵だが、最近の私は、色々なことに興味がある人に惹かれる。そして、その人が自分の好きなものについて話すのをずっと聞いていたいと思う。以前の偏屈な私はおそらくそうは思わなかっただろうから、これはここ数年で自分の身に起こった、とても良い変化だと思っている。
 これからも素敵な友人から、素敵な話をたくさん聞きたい。そのためには何よりも、自分自身が友人から愛想を尽かされないように努力を積まなければならない、と思ったりもする。

 20代の頃は「30代になると、人生に刺激がなくなって停滞してしまうのだろうなぁ」などという漠然とした諦めがあったが、不思議なことにまだまだ人生、色々と楽しみがあるようだ。

【おまけ】
 最近、とあるアニメーション映画を観た。劇中、登場人物が車で音楽をかけるシーンがあるのだが、ラインナップが松任谷由実、松田聖子など、私が普段好んで聴くアーティストとだいぶ被っていた。その人物は「いい奴」として描かれていたので、彼の音楽の趣味が自分と同じでなんだか嬉しくなってしまった、というお話。


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