逃げるは恥だし役にも立たない
タイムリープもののSFに,それをフィクションと知りながらも,いつも憤りを覚える。「そんなの一番ずるいよ!」と思う。
私たちは現在という一瞬において,持てる知力を総動員して意思決定をし,勇気を振り絞って行動していくのであって結果を知ってから「待った」はできない。そこが一番残酷なところだと思うし,一方で人生をかけがえのないものにしているとも思う。リハーサルなし。本番一発勝負。
なんて格好をつけているわけだけれど,今はすごく過去に戻りたい。やり直したい。ごめんなさい。失敗しました。大学4年に戻してください。イエスでもブッタでもムハンマドでも誰でもいいから戻して欲しい。イーロンマスクあたりがデロリアンを開発してくれることを願うばかりである。
私は,就職活動から逃げた。
説明会にはよく足を運んだ。けれど自分が働くのはなんかもったいない気がした。自分だったらもっと別のことができる。働くよりも高尚で意味があって有意義なこと。なんていう抽象的で非現実的な妄想で頭がいっぱいだったのだ。大体働くよりも高尚なことって何だよ。異次元の意識高い系だったのである。甘かった。
本当はただ怖かっただけなんだと思う。面接というものも怖かったし,大人と話すのも(自分もすでに大人なのに),そして何より評価され判断されるのが怖かった。自己PRなんてない。遅刻魔で自堕落な自分のどこをPRすれば良いのだろうか。そう思っていた。
やがて説明会にも行かなくなった。一応会社の最寄り駅までは行って駅周辺を散策する癖ができていた。ある時は靖国神社に立ち寄りそこに祀られている人たちと自分を比べて涙を流した。恵まれている時代のはずなのにどうして自分はがんばれないのか。どうして逃げてしまうのか。
それでも行動は変わらなかった。散策の時間が徐々に増え気がついたら大学を卒業していた。内定はもちろんぜろ。将来のことなんて少しも考えていなかった。危機感なんて少しもなかった。
昼夜逆転生活を送る29歳の今。
四畳半の陽の当たらないカビ臭い部屋で今も逃げ続けている。
逃げるは恥だし役にも立たない。
希望の扉が音を立てて閉ざされていく。
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