延長した青春には代償がある
北斗の拳に登場する雲のジュウザに憧れていた。
北斗の拳の世界観の中にあって一人だけ浮いた存在だった。「俺は食いたい時に食い、飲みたい時に飲む。」という自由奔放さで我流の拳を使う。自由を謳歌しつつもその実力はラオウからも認められる。「自由」と「尊敬」を両立させるそんなジュウザの姿に自分の願望を投影させていたのかもしれない。
とにかく空想的だった私は「自由」を履き違えていたのだ。
そのせいでこんなことになるなんてその時は想像もしていなかった。
大学を卒業してからの生活を振り返ろうと思う。
蕎麦屋のアルバイト
会社員になることなんて早々に諦めた私は,大学時代から続けていた蕎麦屋でアルバイトを続けていた。
週に5日か6日働いて月に10万円くらいだったと思う。
実家暮らしだったし,お金を使う予定もほとんどなかったから何の不自由もなかった。将来のことなんて何も考えていなかったし,不安もなかった。アルバイトは楽しかったしこのままこの生活が続けばいいな,なんて甘い考えを抱いていた。
実家からの退去命令
半年ほどして転機が訪れた。父親から「独りで暮らせ」との厳命が下ったのである。昼ごろに起き出して自堕落な生活を送る私を見かねての親心からだったと思う。
とはいえ貯金などなかったので内心焦りながら「今年中に引っ越す」という約束をした。
パチンコ屋のバイト
そんなわけで時給の高いパチンコ屋のアルバイトを始めた。
ちょうど家から徒歩10分の最寄り駅前にグランドオープンするタイミングでちょうどよかった。時給1200円で月に20日働けば20万くらいもらえた。そんな大金一度に手にしたことがなかったから,最初の振り込みは舞い上がった。コンビニのATMの前で両手を上げて喜んでいた。
すごく狭い世界に生きていたのだ。
パチンコ店のアルバイトはなかなか大変だった。お客さんが当てた玉がたっぷり入った箱をその椅子の後ろにおいて空の箱を渡すのはめちゃくちゃ重かったし,空いている台の清掃も腰を屈めないといけなくて辛かった。ずっと笑顔でいなきゃいけなかったし,時には頭のネジが抜けているようなお客さんもいた。
それでも楽しかった。とにかくお金がよかったし,一緒に働いている人も優しかった。それに若い女の子もいたし,従業員はみんな仲良くて,よくボーリングに行ったり飲みに行ったりした。
延長した青春には代償がある。
あの時,楽しさを捨てていれば,今は楽しく過ごせていたのだろうか。
そんなことを考える。