![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23745450/rectangle_large_type_2_c6ded25111c3fbc8a9a612c9d76b91b8.png?width=1200)
4月22日 - クオモNY州知事の会見
クオモ知事のよく使う言葉に、Perspective がある。Perspectiveの中で考えてみようというような言い方をする。自分たちのいる位置を少し身を引いて見てみようと折に触れて言う。特に、このような非常事態では、disoriented になりがちなので、つまり方向を見失いがちなので、位置確認を聴衆と共にしようとしている。
今日は、NY州がコロナに襲われて、53日目というのが最初のスライドだった。
それは長いのか、短いのか?
クオモ氏は他の社会が激変した例を出して、相対化してみようとする。
第一次世界大戦 ー 4年
第二次世界大戦 ー 6年
ヴェトナム戦争 ー 8年
1910年のコレラアウトブレーク ー 1年
1918年のスペインかぜ ー 2年
それらに比べたら、コロナ戦はまだたった53日しか経っていない。それをNY州民は思い出さされる。
しかし、クオモ氏は、それでもめっちゃ長く感じるのは分かると州民に理解を示す。
統計
頂点のプラトーを越えて、下降に入った傾向は続いているように見える。クオモ氏は最悪の予測モデルに従って、医療キャパ(ベッド、人工呼吸器、医療サプライ(マスク、ガウン、フェイスシールド等)、医療スタッフ)の大増強をやったので、今は余裕が出来てきている。人工呼吸器を他の州に送り、海軍の病院船も返すことになった。
クオモ氏が絶対に避けると言っていた事態:ベッドがないから患者の受け入れを断るとか、人工呼吸器がないから必要な患者に行き渡らず、患者が死んでしまうというような事態は、結局一度も起こらなかった。つまり、助かる命を落とすことはなかった。日本風に言えば、彼は医療崩壊は阻止したということになる。
医療サプライの不足をセンセーショナルにメディアは取り上げていたが、少なくともNY州では一度も備蓄が切れたことはなく、結局あれもCDCの非常時基準を理解していない一部の医療スタッフが起こした騒動だった。
CDCはマスクやガウンの仕様基準を決めていて、厳格に守らないと病院が罰則を受ける。例えば、マスク、ガウンは感染患者一人診るごとに捨てるというような基準。
但し、サプライが不足するような事態では非常時基準が適用される。これは企業や役所のBCP(Business Continuity Plan)のようなもので、それが発動されたら、平常時とは違った基準で動く。電子機器のバッテリーが減ったら、節約モードに切り替えるようなものだ。例えば、マスクやガウンの取り替え頻度がガクッと下がる。今もNY州の病院は非常時基準に従って稼働している。これは病院の誰かが裁量で勝手に変えれるものではない。
時々、東京もいずれNYのようになってしまう、というような記事やツイートを見るが、出だしで破綻した東京の医療体制はどう頑張ってももうNYのようになることは出来ない。むしろ、NYは今の東京のようになることを予測して全力で防いだということだ。
入院しているコロナ感染者の数の推移
入院者数の1日あたりの増減
人工呼吸器を必要とする人の1日あたりの増減
1日に入院する人の数
過去1週間の死者数の推移
死者は減ってきている。しかし、彼はここでやはり立ち止まった。人の死に多いも少ないもないと言う。今我々は歴史の深淵の瞬間にいると言って。
なんだか歯を食いしばって絞り出すように見えたのだが、彼は、
我々の行動が我々の未来を作る。
と言う。
そして、嫌な数字に向き合うことを言ったのか、
真実だけが問題なのだ。
と言った。
トランプとの会見
昨日、クオモ知事はワシントンDCに行って、トランプ大統領と彼のスタッフに会った。日本語なら、多分いいミーティングだった、みたいな表現になると思うが、するべきことが達成されたなら、Productive だった、と英語ではよく言う。
クオモ氏は、トランプは私のことが嫌いだろうと切り出した。ホワイトハウスにも私が嫌いな人いるだろうし、自分もトランプに批判的なことはしょっちゅう言ってると。
しかし、そんなことはどうでもいい。するべき仕事が出来れば、いいんだと彼が常に言ってる持論を繰り返した。政治をやってる場合ではないと。
トランプ会見で、一番大きなトピックは、検査。NYだけでなく、ホワイトハウスもどこの州も検査、検査の話題でうるさいくらいだ。公衆衛生に比重を置く人も、経済再開をもっと重視する人も、どっちにしても、検査キャパの大幅な拡大なしではにっちもさっちも行かないという点で共通理解が出来上がっている。問題はその巨大な検査を具体的にどうするかという話になる。
クオモ氏の主張はこれまでに明らかになってるように、実際の実施は州レベルに任せて欲しい(あるいはゴチャゴチャ口出しするな)、但し、連邦政府は、単独の州ではなく全米を相手にしている検査会社間の調整や、国際調達を担当して欲しいということだ。トランプと合意したらしいので、クオモ氏の構想で進むのだろう。詳細がわからないのでなんとも言えないが。
もう一つの重要なトピックは、全米州知事会が合同で要求している、5,000億ドルの州予算への補助についてだ。これなしでは、二重の打撃を受けている州予算は絶対にもたないのは誰でも分かる。二重というのは、(1)コロナ対策のための緊急の出費(様々な調達や人件費や食料や教育のための出費)、(2)経済活動がほぼ停止したための税収の激減。
NY州の場合、(2)で開いた穴が100億ドルから150億ドルと推定されている。これは、トランプの一存でどうにかなるものでもない。クオモ知事は議会にも働きかけているし、徐々に周りから押していくのだろうと思われる。
最後の話題は、State/FEMA Match の免除。これは何かというと、FEMAが緊急災害援助などで、ある州に動員された時、その州はFEMAの費用の25%を支払わなければいけないという制度。クオモ氏は、最大の被害を受けて、さらに最大の費用を払うはめになる、こんなバカバカしいことあるかと怒こっていたが、トランプはそれを免除したらしい。推測だが、トランプは誰にもきかずに勝手に免除したような気がする。
検査・追跡調査・隔離
検査・追跡調査・隔離がこれからの鍵であるという、これまでの話のおさらいをする。
検査をして感染者を見つけたら、追跡調査をする。
追跡調査をして感染者を見つけたら、隔離する。
クオモ氏はこれが途方もない仕事量になることを強調する。そして、こんな大規模な検査・追跡調査・隔離という仕事は、いままでに一度も行われたことがないと。
その上で、彼が言ったのは、
それがどうした!
だった。
追跡調査団
まず、何が大変かといって、大量の追跡調査のための人員が必要になる。ここで、Army と言ってるのは、軍という意味ではなくて、めちゃくちゃたくさんの人という意味だ。
この追跡調査団を隣のニュージャージー州とコネティカット州とそしてNY州の三つの州で結成する。
そして、驚いたことに、NY市長を三期勤めた、そしてトランプの再選を阻止すると言って民主党候補になるべく立候補した、あのマイケル・ブルームバーグが、「検査・追跡調査・隔離」プログラムの設計から、人員確保、実施監督まで全てやると申し出た。もちろんお金も10億円ほど持ってきたらしい。
専門的な分野は、これもなんと公衆衛生のトップに君臨するジョンズ・ホプキンス大学と、Vital Strategies が協力することになった。
そして、SUNY(ニューヨーク州立大学)とCUNY(ニューヨーク市立大学)から、35,000人の医学関係の学生が追跡調査団に参加する。
SUNYもCUNYも日本の大学のイメージでは捉えがたい巨大さで、SUNYの学生数は43万人、CUNYの学生数は28万人。SUNYは、66個の大学が一つになった巨大な大学システムで、CUNYも26大学が一つになった巨大システム。
これまで、クオモ氏が言ったことをほんまに出来んのかと思ったことが何度もあったが、翌日には必ず言った通りの進捗があって驚いた。今回もまさかここまで進んでるとは思わなかった。
しかも、何もかも、resourceful で驚く。何をやっても世界のトップレベルの頭脳とモノがあっという間に集まるのは、何度見ても凄い。
マイノリティ対策
毎年4月22日は、Earth Day だ。今年は50周年出そうだ。日本でEarth Day をなんというか知らないが、コロナがなくて普通の状態なら、環境保護に熱心な団体が何かイベントをするだろう。環境が検査とどう関係するのか、この段階では分からなかった。
コロナ感染者が集中する地域は汚染物を排出するプラントのある地域でもある。そして、そういう地域の住民では、黒人(African Americans)の比率が高いという。
黒人のコミュニティでの喘息や気管支系の病気を持っている割合は、他のコミュニティの3倍以上ある。つまり、黒人の貧困率が高い→黒人が家賃・生活費の安い汚染地域に住む傾向→喘息や気管支系の病気を患う→コロナ死亡率が高い、という構図になっていると。
クオモ氏は、黒人におけるコロナの死亡率が高いという発表があった翌日、この問題の研究を専門家に依頼して開始した。前日(4月21日)は、必須のワーカー達、つまり配達をする人、地下鉄やバスの職員、警察や消防署の職員などに黒人の比率が高い、故に感染率も高いという報告をクオモ氏はしたところだった。依頼した専門家の報告が次々に入ってるのだろうと想像できる。
これが我々がこの経験から学ばねければいけない教訓の一つなのだ、とクオモ氏は言う。
ニューヨーカー / アメリカ人が一つになれば、解決できない問題などない。
気候変動や環境保護など時間を超越した脅威でも解決できるのだ、と。このあたりはかなり力の入ったスピーチなので、是非動画を見てみることを勧める。
政治的圧力
ここから、彼の「個人的意見」の時間なのだが、最近出始めた話題が始まる。つまり、州の下にある市や郡という自治体の長が、もうソーシャル・ディスタンシングなんかやめて、早く解放してくれという住民のプレッシャーを感じているという話だ。
それは分かってる!とクオモ氏は言う。
しかし、今はアホなことする時ではないのだ。
これは短距離走ではない、マラソンなのだ。今間違いを犯したら、いままでの苦労は一瞬で無になってしまう。
1918年のスペインかぜで何が起こったか思い出して欲しい。第一波よりはるかに大きい第二波がきて、多くの人が亡くなった。
市長たちを責めてはいけない。
私を責めろ!
おそらく、彼は選挙で選ばれる市長たちが窮地に陥るのを守ろうとしているのだろう。
最後にクオモ知事は、エディス・ハミルトンが引用したエドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』中の言葉を引用した。
彼らが最も欲しいと願った自由は
責任からの自由であった。
そして、彼らがそれを得た時、
彼らは自由ではなくなった。
NEW YORK TOUGH を忘れてはいけない。賢明で、規律を持って、団結し、愛を持つのです。
* * *
この会見はここで見れます。