かつて私は「神」だった
「神」とは、その名のとおり神様のことです。Godであり、アッラーであり、天照大神でもある神です。
しかし私が今回取り上げる「神」は、いわゆる同人や二次創作と呼ばれる世界における「神」のことです。簡単にいうと、あるジャンルにおいての人気の作家さんのことなのです。
もちろん、その作家さんが自称するわけではありません。人気の度合や作品のクオリティ、作品量などでトップをひた走るような存在を、まわりの人たちが「神」と呼び始めるのです。
先日、かつてあるジャンルで「神」だった人の苦悩をつづった文章を読み、なんとなく私も書かずにいられなくなりました。
じつは私も、「神」と呼ばれていたことがあったのです。十数年のことです。
ジャンルはあるゲームです。その中の人気のあったキャラクター2人にハマった私は、ゲームをクリアしたとたんに二次創作の小説を書いていました。しかも十数話連作の。
総字数でいえば10万字弱ぐらいでしょうかね。書き上げるのに2か月もかかってなかったと思います。息子がまだ手のかかるころだったというのに、なにをしてたんだろう。
いや、息子の世話ばかりしていたからこそ、書かずにいられなかったのだと思います。自分の中からあふれ出たものを、子育て以外で発露させずにはいられなかった。
毎朝4時に起きて1時間ほど執筆して、息子のお弁当と家族の朝ごはんを作り……と、いまこうして書いてみると、「あの頃の私、若かったな……(遠い目)」としか思えません。すごい。
そんな情熱の甲斐もあって、自作のサイト(なつかしの「ジオシティーズ」でした)には、1日にユニーク数で1000人以上が訪れるような状態になっていました。感想をたくさんいただきましたし、のちに長い付き合いとなる仲間とも知り合いました。
そしていつの間にか、「神」と呼ばれるようになっていたのです。そのキャラクター2人のカップリング=私、という感じになっていたような気がします。たぶんそれは、私の作家としての技量というよりも、だれよりも早く二次創作を開始したというタイミングのよさが原因だったと思います。
多くの人に「神」と呼ばれて、私に驕りがなかったかといえば、ゼロではなかったと思います。それでも、「神」という言葉への居心地の悪さのほうがはるかに上でした。
私は「神」なんて呼ばれるよりも、純粋に私の書いた物語を楽しんでもらえるほうがうれしかったですし、そのジャンルのおもしろさをみんなで話すだけで楽しかったのです。ただ、それだけだったはずなのです。
なのに、みんなはやたら「神」「神」「神」と呼び、妙に恭しく接してきます。なにかの企画には「『神』も参加してください!」、参加したらしたで「『神』も参加してます!」と宣伝っぽくされたりもしました。
それでも、私とフラットにおもしろおかしく付き合ってくれる仲間もいたので、その人たちのおかげで、なんとか平常心を保ちながら、同人誌を作ったりイベントに参加したりもしました。
しかし、そのジャンルで仲よくしていたAさんからメールが届いてからは、ちょっと様子が変わってきました。
「私はBさんが嫌いなので、○○さん(私)もBさんとお付き合いするのはやめてください。Bさんみたいな人と付き合うと、神である○○さんがBさんを認めてしまうことになる」
……えっ。なに言ってんの?
それが正直な感想でした。
Bさんは私がかなり仲よくしていた作家さんで、Bさん含めて数人の仲間で、同人イベント後に飲みに行くような間柄でした。
私はBさんと絶縁するつもりもないですし、Aさんともふつうにお付き合いをしたい――そんな気持ちを返信に書いたと思います。それへのAさんの返信がどんなものだったかは忘れてしまいました。
さらにAさんは、私やBさんと仲のいいCさんともちょっとしたトラブルを起こしてしまいます。そこに追い打ちをかけて、まったく知らない同ジャンルの作家さんたちに、私に関する妙な噂を流されていることを知りました。
「『神』と呼ばれてるくせに、(閲覧数の)ランキングが下がっている」(そりゃそうだろう。閲覧数は減っていくものなんだから)
「私をシカトしている」(というか、私はその人の存在を知らなかった)
「○○さん(私)は私をシカトしてたのに、最近私のランキングが上がったらすり寄ってきた」(サイトを作ったという報告をもらったので、あいさつメッセージを送っただけ)
ああああああ! もうめんどくせぇぇぇぇぇ!!!!
私は! ただ! このジャンルで! おもしろおかしく! すごしたいんだよ!!!!
すでにジャンルの盛り上がりのピークも過ぎていたこともあり、私はそのジャンルに別れを告げることにしました。「神」引退です。じつは、ここに書いた以上の面倒くさいことがいくつか起こっていたので、本当にせいせいする気分で足を洗いました。
しかも私は、それまでに書いたすべての作品のデータをすべて消しました。サイト上からも、HDDからも。それぐらい、もうあの世界が嫌で嫌で仕方なかったのです。「神」と呼ばれる地位にあることをうまく乗りこなしている人もいるでしょうが、私には無理でした。
頼むから、純粋に創作を楽しませてくれ。
私以外の「神」と呼ばれている(た)人たちだって、少なからずこんな気持ちを抱えているんじゃないかなぁ。
ちなみに、いまはそのジャンルから遠く離れたこともあり、しみじみと「おもしろかったよなぁ」と思えています。私が消し去った作品も、友人がこっそり保存してくれていて、数年前にゲームがリメイクされたときには、その記念としてpixivに再掲載することができました。
そして、創作活動に嫌気のさした私が、このジャンル自体を嫌いにならずにいられたのは、活動当時に仲よくしてくれていた人たちのおかげでした。彼女たちがジャンルを変えながらでもずっと創作を続けてくれていたので、「あのころのウチら、最高だったんじゃね?」とギャルみたいに思っています。
そして、いま「神」として君臨している人たちも、だれかに惑わされず、創作活動を楽しむことができますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?