朝の影
自民党本部に火炎瓶を放り込んだ臼田氏が大飯町でテントを張っていたあの頃、大飯原発の再稼働阻止を目指して私も町にいたことがある。
何十年も原発立地自治体を無視しておきながら、いきなり押し寄せて地元民を非難して、アンプを持ち込んでどんちゃん騒ぎする都会民、ずっと来なかったくせに突如町に溢れては消えていったレポーター。
危険を田舎に押し付けながら、原発に分断され、絡め取られた町を放置してきたくせに。
頼むからそのバカ騒ぎをやめてくれという気持ちと、誰かが町の人に謝らなければという想いから、町へ向かった。
原発の定期点検で働きにくる人が泊まっているのであろう、全く観光色のない、かなり古びた安宿に何泊かした。海側に行けば、原発マネーでできたらしい小綺麗なホテルも立っていたが。
その宿の茶色い待合室で、「原発は、停止しているときも、怖いんです。」と静かに語りはじめてくれた町の人のことが、忘れられない。
やがて原発再稼働が決まった時、私は「これで、血が流れる」と書いた。
10年後の2022年から、三年連続で政権中枢を狙うテロが起きた。あの年の12月に首相に返り咲いた安倍晋三は銃殺された。
そのテロの実行者の3人目は、大飯のテント村にいた。
もしやと思ったら、やっぱり当時知り合った人の中に共通の知人がいた。
その経歴は、あまりに私自身にとって見覚えのあるものだった。独学でWEB制作を学んだし、行政書士に受かるくらいは法律の勉強をしたし、なぜかトラックの免許も持っているし、親はあまり薬を使わない医者だし、氷河期世代だし、そして何より心から原発再稼働を止めたかった。
彼と私とを隔てるのは、何があっても決して破壊的な暴力を使わないという信念、いや、絶望のレベルと運だ。
そのリアルは、もうそこに立っていて、私はもう怯えるのにも慣れてきてしまっている。
いま私たちは、夜の前にいるのか、朝の影のなかにいるのか。
これは、おぼろげに姿をあらわしてくる現実だ。