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2024年1番の問題提示作、【推しの子】The Final Act の感想。


2024年12月25日。
よりによってクリスマスの日、カップルが賑わう劇場に『【推しの子】 The Final Act』を観に行って来た。
何とかAmazon Primeでのドラマ版を完走してからの鑑賞。
今年観た映画の中で、群を抜いて映画について考えさせられた作品だったので、感想をまとめてみた。

推しの子の実写化を知ったのは、Xのタイムラインで。
絶対に期待外れだと信じて疑わなかった。
序盤のキャスティング発表で、誰ひとり自分の中で原作とフィットした役者がいなかったのが主な要因。
Xにもポストしたが、【推しの子】を実写にするなら、五反田監督は萩野崇さんをキャスティングして欲しかったという強い思いがあり、この思いはアニメ1期が放送し始めたタイミングでのこと。
東映が制作するので、やはり演技力の高さやキャラの再限度よりも、知名度や事務所の強さで制作するんだろうなという印象を受けた。

しかし、実写への印象が変化し始めたのは、【推しの子】のキャストの追加発表と、その予告動画が上がり始めた時だ。五反田母と、成田凌演じる雨宮五郎の予告動画をネットで観てから、自分の脳内のキャラの解像度よりも高い、その演技と存在感に驚き、作品に興味が湧いた。
原作ものの配役の演技で、自分の脳内解像度の上を行った役者を思い出してみると、『八日目の蝉』の小池栄子くらいだ。
「もしかしたら、【推しの子】の実写は、現在の映像制作に携わる人達からの挑戦状なんじゃないか」
と思い始めていた。

映画を観に行く前に、Amazon Primeで8話のドラマを完走したが、自分の中で評価が割れる。
良い部分もあるし、どうしてもアニメと比べてしまう部分もある。
実写が全然ダメかというとそうでもなく。劇場版を完走しないと意見も思いも中途半端になってしまうのではないかという気持ちになる。
ドラマ完走時点での総評は、頑張ってるけど、アニメより劣るかなという印象だった。

『【推しの子】The Final Act』の感想は、ドラマ版の時も感じていたが、齋藤飛鳥が高橋李依に、かなり寄せた演技をしていることに非常に驚いた。そして存在感が他の役者より頭ひとつ抜けていたと思う。
その齋藤飛鳥のアイを踏まえた演技、芝居を求められる星野ルビー役の齊藤なぎさと、黒川あかね役の茅島みずきのプレッシャーが本当に高過ぎたと感じた。
どちらも、作品で全力を出し切れたのか? 
それとも悔しさをにじませたのか?

役者の演技の部分で言えば、成田凌が圧勝だった。
あまり評価の高い役者では無かったが、この作品に関して、原作にもアニメでも描写が届かなかった雨宮五郎のヲタ味を明確に表現していた。
これが成田凌の役への咀嚼なのか、監督の演出なのか?
演出だとしてもあれを表現できるのは、役者としてのかなりの技量を感じざるを得ない。
また、しっとりした演技も非常に自然で、ヲタ味を感じさせる芝居との緩急、バランス共に素晴らしい演技だった。

そしてこの作品、3日程メチャメチャ深い余韻を感じたのだが、それは成田凌の演技や、齋藤飛鳥の存在感だったかというと全然違う。
【推しの子】を観て、深い印象を残したのは、作中とエンドロールで流れた『SHINING SONG』と、B小町、特に有馬かなだった。

アイドル経験も、ダンス経験もない有馬かな役の原菜乃華が、この役を演じ切ったこと。有馬かな役に彼女を抜擢した見事なキャスティングが作品を押し上げたと思う。
そして、非常に興味を引いたのが、12月25日に放送されたTOKYO FMの『TOKYO SPEAKEASY』での原菜乃華と潘めぐみとの対談。
原は、役作りとして原作よりも、脚本よりも、潘めぐみ演じる有馬かなの台詞を聴き込み、イメージして役作りに取り組んだということ。

今後の映画は、画作りも、脚本も、演技も、アニメ的なアプローチを取って制作するようになるのではないかと感じるエピソードだった。

余韻を感じたもう一つの要素が、『SHINING SONG』
アニメの曲では、全然心を動かされなかったのに、劇場に足を運んでから今作を観終わって長いこと『SHINING SONG』が、ずっと体と心から抜けていかない。
ストリングスの展開、ギターバッキング、間奏のソロとか、松隈ケンタ味を感じて本当胸に迫った。
って思ってたら、作詞作曲が、元SCRAMBLESの田仲圭太さん担当だった。
楽曲、劇伴の強さというものは、2024年上映作の『ルックバック』にも感じていたが、この『SHINING SONG』も同様、破壊力が凄まじかった。
映画というものが、劇伴や主題歌でこうも印象を引き上げられ、胸揺さぶられることに、改めて気付かされた。


最後に、【推しの子】The Final Actは、原作でもアニメにも成し得なかったことを実現している。それは、B小町を本物の生身のアイドルとして体現させたこと。実在するアイドルとしての存在感を、この作品で観客に届けることに確実に成功している。
それを1番喜び、胸打たれているのは、脳内でその存在を生み出し、育てた原作者の赤坂アカと横槍メンゴなんじゃないかと感じた。
そのリアリティを作ったのは、田仲圭太の手がけた、『SHINING SONG』であり、実在するアイドルと錯覚させるような映像を切り撮ったスミス監督の手腕であり、本当に両者の功績が高かった。

映画というものは、物語や演技以外でも、心に爪痕を残す作品として、人に届けられるものなんだということを、改めて知ることのできた、非常に特異な作品だったと感じる。
そして、【推しの子】は東映の仕切った祭りだったなってこと。
華やいだ祭りの後は寂しい。
と、振り返って思う。



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