『RUN!-3films-』別府ブルーバード劇場 上映、舞台挨拶参加レポ
2020年8月16日
本来ならこの日、別府ブルーバード劇場で、津田寛治さんをはじめ、『RUN!-3films-』に出演された役者の方々をお迎えしての舞台挨拶が開催される予定だったが…… 落ち着いていたように思えたコロナウイルスの、別府での感染拡大を受け、急遽役者陣の登壇は中止。土屋哲彦、畑井雄介両監督のみの登壇に変更された。基本、作り手が登壇していただけるのであれば、極力参加したいスタンスなので、万全を期して上映、舞台挨拶へ参加してきた。
この作品、元々は第1回Beppuブルーバード映画祭に短編作品として上映をされた『追憶ダンス』『ACTOR』と、新たに『VANISH』を加えた、オムニバス作品。凱旋上映といってもいいのではないだろうか?
残念ながら、自分がBeppuブルーバード映画祭の存在を知り、参加を始めたのが第2回から。今回、この映画は初見。去年の今頃、Twiitterのタイムラインに流れてきたことがあり、気になっていた作品。第1回Beppuブルーバード映画祭のネット記事が残っていないか調べてみたが、公式ではない別サイトで詳しく残っていた。
『RUN!-3films-』 追憶ダンス
舞台挨拶のある上映にしては、珍しく日曜日の12:00からの上映開始。
いつも座る、前から2列目右寄りの席が空いていたので確保。顔なじみのAPUの学生も今回の上映に参加していた。
本編上映前に、登壇予定だった方々のコメントがスクリーンに映し出される。順番に、篠田諒さん。木ノ本嶺浩さん。松林慎司さん。黒岩司さん。最後に津田寛治さん。別府に来たかった熱い思いが伝わってくる皆の挨拶が終わると、自然と劇場内から拍手が起こった。
まず初めの作品は『追憶ダンス』 土屋哲彦監督の作品。どこまで触れたらネタバレにならないものか…… 作品は何とも不思議な印象。ただ、いきなり、冒頭というか妄想の篠田諒さんのつかみのシーンが、観客の心の鬱憤を晴らすかのような小気味良い映像のため、開始4、5分程でこの作品のラストシーンを観終わってしまったかのような錯覚に陥る。気持ち的には、本編を賢者モードで観ているような感覚。
かなりミニマムな世界観なのだが、最小の登場人物と、舞台設定で、動きよりも会話で成立するストーリーが、現代版の落語を映像にしたように思えた。また、途中で登場する津田寛治さんの演技が感じ悪いやら、ひと悶着後の間の抜けた表情が絶妙やら……
第2回Beppuブルーバード映画祭で上映された短編映画、『豪速球』はショートコントのような印象を受けたが、この『追憶ダンス』がショートコントではなく、落語的に感じたのは、すごいキレのいいオチのせいだと思う。
このまま、「お後がよろしいようで」で幕が降りてもおかしくないが、オチの後の篠田諒さんと、木ノ本嶺浩さんの延々と続く演技が、結末と相まって笑いの中に物悲しさを醸し出していた。
『RUN!-3films-』 VANISH
2作目の『VANISH』
冒頭の松林慎司さんの語りから、凝った構成の画が続く。どこかで同じ空気感の作品を観たことがあるような…… その時は気づかなかったが、第2回Beppuブルーバード映画祭、ショートフィルムセレクションで観た『GOOD-BYE』の監督が、畑井雄介監督だった。
本作品は、とにかくヤクザ役の津田寛治さんの人相が尋常じゃない。『ニワトリ☆スター』の時もそうだが、ヤクザ演じる津田さんの眉間に寄せるシワが、人物を非常に神経質に、目つきをかなりヤバくさせる。
ネタバレになるので、あまり語れないが、ヤクザの神山役の津田寛治さんと、正体不明の男の松林慎司さんとの共存の話し。ちょっと特殊なバディものだが、神山には小さい娘、正体不明の男には小さい息子がおり、息子がやらかして神山と松林さん演じる男の関係が壊れないか、ヒヤヒヤしながら観ていた。
上映後の畑井雄介監督の話しでは、これは長編を意識して撮影した短編のため、続きを制作する予定らしい。自分の感想が長編のネタバレになってなければ良いのだが。
『RUN!-3films-』 ACTOR
作品冒頭から聞き覚えのある声が…… でも、あまり観たことのない設定キャラ。本作品の主要なキャストとして、須賀貴匡さんが出演されていた。
特撮好き、特に仮面ライダー龍騎好きには、ご褒美のような配役。しかし、この須賀貴匡さん演じるバーの店長が、本当に癇に障る! 言うセリフ、言うセリフ、本当にカチンと来るような言い回し。
『仮面ライダー龍騎』、『デッド寿司』、『HE-LOWシリーズ』を観たことがある人達は、須賀貴匡さんが元々こういう性格で、ノリで難なく演じているように感じているのではないだろうか?しかし、元々の須賀さんは物静かで、演技以外で人前に出たりすることを好まない性格だということを知っていると
「オイオイ! 演技の引き出しがどんだけあるんだよ!」
と驚かずにはいられない。
この作品はメタフィクションの構成になっていて、須賀さんの演技に関して、監督から簡単な口伝えの演出で、演技の変更を求められるシーンがある。その後のシーンを観ると、普段からこういう感じで演技を組み立てているのではないだろうかと思ってしまう程、演出の意図を組んだ須賀さんの演技に唸ってしまった。求められる演技に対しての反射神経が半端ない。
それと『ACTOR』で、やたらにリアルに感じられたのが、黒岩司さん演じる山田が『スタンドイン』として参加するCM撮影のシーン。もうCM撮影現場は、まんまこの雰囲気。特に現場に、訳のわからない正体不明のお偉いさんらしき人が、沢山いるのがやたらリアル。親請けの広告代理店のような人とか、スポンサー会社の担当のような人とか、立ち位置、担当業種の分からなそうな、エラく着飾った女性とかが、当たり前のようにいるあの空気感。
”のような” は下っ端の裏方には確認のしようがなく、こういう現場なんだと、空気として受け止めなければならない状況が、もうそのままなのだ。
スタンドインで照明、カメラチェックが終わった後、タレントが入ってきた時の会話のやり取りとか、周りのテンションとか、観ていて自分も山田目線で辛かったです。
上映後、土屋哲彦監督、畑井雄介監督登壇
上映後は、土屋哲彦、畑井雄介両監督を交えて舞台挨拶が始まる。
土屋哲彦監督から、この作品がBeppuブルーバード映画祭での短編作品上映が、オムニバスでまとめて全国上映するきっかけになったこと。舞台挨拶の最終地点として、みんなで別府に来たかったことを告げられる。ここから正確に時系列でレポし続けると、恐ろしい文字数になりそうなので、大まかにまとめて流します。
別府ブルーバードでは珍しく、スクリーン手前にプロジェクターが、上映前から設置されていた。両監督の舞台挨拶が進む中、
「出演俳優のみんなも別府に来たがっていましたよ」
という土屋監督の挨拶をきっかけに、司会の森田さんから
「別府ブルーバードでは、できないと諦めていた、リモート舞台挨拶を監督おふた方のお力で今日は試してみたいと思います」
との言葉。
それから、少しの時間、畑井雄介監督と劇場スタッフのヒロキさんとで、プロジェクタのセッテイングを始めた。
スクリーン手前に設置されたプロジェクタと、畑井監督のノートパソコンをHDMLで接続して、スマホのテザリングを使って配信する模様。接続が終わると画面から、にぎやかな面々が現れる。
別府ブルーバード劇場での、初めてのリモート舞台挨拶。しかし、画面はなんとか見えても、音声がブツブツ……
「自分のスマホから、向こうに電話して音声はそれで拾おう。スマホ取って来る」
と言って、土屋監督が私物のスマホを取りに行く。監督が、役者の皆さんが、劇場のスタッフが、なんとか別府と繋げよう、繋がろうとしている姿が、正直胸を打った。
とにかく、リモートなのに、津田さんを筆頭にみんなテンションが高い!
そして、リモートとは言え、別府で舞台挨拶ができる喜びを爆発させているのが手に取るように伝わってくる。色々な、リモート配信を見たが、お世辞を抜きに、みなさんが別府を特別に感じ、劇場を愛してる気持ちが本当に伝わって来ました。良くテレビで見るような、形式ばった舞台挨拶とは、ひと味もふた味も違い、参加していて温かい気持ちになった。こんなご時世、人と繋がること、時間を共有することが、本当に贅沢なことなんだと改めて感じる瞬間でもあった。
3部構成のオムニバス作品のためまずは『追憶ダンス』出演の篠田諒さん、木ノ本嶺浩さんに話しを伺う森田さん。
ほぼ、内容がネタバレになるため、割愛させていただきますが
森田さんのご厚意により、リモートで繋がる役者の皆さんへの質問を受け付けることになる。まぁ、こういう時、大抵自分がどういう質問しようか考えているので、他の方の質問を覚えていないことが多いのですが…… 今回も自分の質問考えるので、精一杯でした!たしか、コンビニのシーンについてだった気がする。
次が松林慎司さんと、津田寛治さん。ここでの質問は自分ともうひとり。
自分の質問は、音声もあまり良い状態ではないので、込み入った質問は厳しいかなと思い津田寛治さんの演じている時の表情について
「津田さんは、今回の作品や、別の作品でもヤクザを演じる時に、眉間のシワがものすごく寄るんですが、顔の表情が戻らなくなったりしませんか?」
リモート画面で、まさに眉間にシワを寄せてくれる津田寛治さん。
「こんな感じですか?」
と少しおどけた感じになりつつも
「表情が戻らなくなることは無いですね。ただ、役が抜けなくなることはあります」
ハッとする。最近、役の抜けについて話題に上がったばかりだった。役者を仕事とする上で、大変なことのひとつにメンタルへの負荷があると感じる。
もし、リモートではなく、まさに近距離で質問ができたら、この役の抜けについてもっと深くお話しを伺いたかったなという思いが頭をかすめた。お礼を言って次の方の質問へ移る。
「撮影時に大変だったのはどんなことですか?」
津田さんから
「予算が少ないのに、遠方にロケに行ったり、とにかく監督の撮影へのこだわりが凄すぎて大変。また、納得いかないと監督が芝居を始めて、自分たちがそれをコピーする羽目になる」との回答。
本作品である風景をバックにした冒頭のシーンがあるのだが、そこで別府にいる畑井雄介監督曰く
「日本じゃない雰囲気を出したかったのと、自分の頭の中に絵コンテが漫画みたいにあって、そのイメージが溢れてきて思い通りに撮れないと、つい自分でやってみせてしまう」
とのこと。
あまり、音声が良くないのと、少し声が張れてないこともあって
「えっ? 何?」
とリモート先の津田さん達がザワザワと。すかさず土屋監督が
「日本らしくない雰囲気で撮りたかったんだって」
と大きめの声で津田さん達へと伝える。
「だから、外国人の人が出てくるの?」
と津田さん。
その話しを聞いて森田さんからは、
「別府にはAPUという大学があって、留学生も沢山いるので、是非『VANISH』の長編の撮影を別府でどうですか?」
と畑井監督に別府を誘致。劇場内からは、拍手が起こる。畑井監督もリップサービスなのか、本気なのか
「VANISHの続きは、別府で撮影したいと思います」
と締めた。
最後に、『ACTOR』に出演した黒岩司さん。黒岩さんは宮崎出身で、森田さんから、
「宮崎は方言が凄い強いですけど、上京して役者を目指すのに標準語で話すのに苦労しませんでしたか?」
と触れられると、1年間、NHK日本語発音アクセント新辞典を片手に矯正が大変だったそう。劇場内が少し和む。この『ACTOR』という作品は、役者としての黒岩司のドキュメンタリー的な意図も土屋監督は狙っていたそうだ。
撮影中、凄いハプニングがあったが、これもネタバレになるので割愛します。
ここでも質問を募る。劇場を見渡すと誰も手を上げていないようなので、さっき質問したにもかかわらず、もう一度挙手。悪いかなと思ったが、また質問することができた。自分が唸った須賀貴匡さんの演技について、身近で接した黒岩さんに印象を聞いてみたかった。
「須賀貴匡さんの演技に、本気でムカつくことはなかったですか?」
黒岩さんは、少し恐縮し微笑みながら
「ムカつきながらも、大先輩である須賀さんの共演に感謝しつつ演じてました」
ひとつだけ、映画の内容に振れると、売れない役者役の山田を黒岩さんが演じているが、撮影された山田の自宅は、実際、黒岩さんが生活している本当の部屋だったそうだ。もう1度、作品を観る人はその辺もじっくり観て欲しいとのことだった。ョンの中に色々とリアルが散りばめられている感じが漂い、現実と虚構を行ったり来たりする感覚は、観ていて不思議な印象だった。だからこそ、須賀貴匡演じるバーの店長が、非常に癇に障るだ!
最後にひとりづつ、締めの挨拶。
終わってみると、いつもの劇場に登壇してくれた舞台挨拶のように、
もしかしたら、それ以上の濃い時間を共有できた。特にこの状況で、エンターテイメントを全力で届けてくれる役者、監督、制作に携わる方々には、感謝の念に堪えません。
わざわざ別府まで足を運んでいただいた、土屋哲彦、畑井雄介両監督も、
次はコロナが落ち着いて、ギュウギュウの劇場で作品が観られるようになった近い未来に、また別府にお越しいただければと思ってます。
最後に思ったのは
リモートでBeppuブルーバード映画祭
行けるんじゃない?