全てのものには理由がある: 『ワンダヴィジョン』の仮説と最後の総整理
みなさんご覧になっていますか.Marvel,Disney+ 初のオリジナルドラマ,『ワンダヴィジョン』.いやぁ,とんでもない作品です.この作品をリアルタイムで楽しめている今の状況を心底喜ばしく思います.
この記事では,『ワンダヴィジョン』第8話までの内容を受けて,残る最終回に向け,依然残る「大きな謎」についての持論,仮説を提示しつつ,状況を整理しいくつか予測を提示していきます.完全にネタバレありとなっているので,これから見ようと思われている方はご注意ください.
あらすじの確認
この記事を読まれている方は『ワンダヴィジョン』を既に最新話までご覧になっている方々だろうと思いますが,念のため,ごくごく簡単に,『ワンダヴィジョン』という物語がどのような展開で進んできたのか,確認しておこうと思います.
物語は,1950年代のシットコムとして始まります (「元ネタ」についてはこちらの記事が詳しいです).主役は当然ワンダとヴィジョン.第2話で『奥様は魔女』がオマージュされていましたが,実際奥様であるワンダは特殊能力を用いる「魔女」で,夫は夫でシンセゾイドであり,物体をすり抜けたりする,実に風変わりな夫婦です.ただしワンダは魔法を隠し,ヴィジョンも世を忍ぶ仮の姿として人間に擬態して,一見すると最近街にやってきた若い普通の夫婦かのように暮らしています.
しかし物語の展開と共に,二人の「偽装」が徐々に崩れていき,同時に60年代,70年代,80年代と,街や人々の様子も変化し,モノクロだった世界にも色がついていきます.そして突如,「放送は中断」され (第4話),二人の暮らす街,ウエストビューの「外側」が描かれることとなります.
外側では,ウエストビューという街が「無かった」ことにされ,そこにいたはずの住民たちが行方不明となっていました.調査に来た S.W.O.R.D. という組織の構成員であるモニカ・ランボーは,ウエストビュー全体を囲む不思議な「エネルギー場」の存在に気が付きます.そしてモニカがそのエネルギー場に触れた途端,モニカの体は「中の世界」に吸い込まれ,姿が見えなくなってしまいました.
間もなく大掛かりな調査チームが結成され,ウエストビューに隣接する形で調査のための S.W.O.R.D. の基地が出来上がります.そしてそのチームに呼ばれた科学者の一人であるダーシー・ルイスが,奇妙な「電波」の存在に気が付きます.電波の波長からピンと来たダーシーは,「平らでない」古いテレビを要求.用意されたテレビに映し出されたのは,視聴者が見ていた,ワンダとヴィジョンを主役とするシットコムでした.
ウエストビューはワンダの力によって謎の六角形のエネルギー場,通称「ヘックス」に囲まれ,その内部に入ったモノは,内部のロジックで改変され容姿が変化し,また「ドラマの出演者」のように振る舞うようマインドコントロールされてしまうということが分かりました.後にこれはワンダの持つ「現実改変」の能力によるもので,愛するヴィジョンを失った悲しみから,二人の終の住処として土地を購入していたウエストビューの地でその「魔力」が爆発的に発動し生まれたものだということが明らかになります (第8話).
シットコムは,続く紛争に苦しむ幼少期のワンダが好んで見ていたものであり,彼女の「憧れ」や「安息」が投影されていたものだったということも判明します.ワンダがずっと思い描いていた「幸せな家族」の形が,シットコムだったのです.
残された謎
さて本題です.第8話の「答え合わせ」パートによって,2つの大きな謎が解消されました.それは,
1. ヘックスはどうやってできたのか
2. なぜシットコムだったのか
というものです.上にあらすじで確認した通り,ヘックスはワンダの「力」の暴走により形成され,シットコムは彼女の「憧れ」の具現化であることが分かりました.
しかし,それでもまだ解決していない謎がいくつか存在します.その一つは「ピエトロ問題」,あるいは「ニセトロ問題」ですが,ここで取り上げたいのは,もっと大きな,あの物語の「構成」に関わる問題です.
それは,
3. なぜヘックス内の様子がシットコムとして放送されていたのか
ということです.この「劇中劇」というメタ構造,あるいは「枠構造」によって,物語は極めて複雑になり,多くの考察者たちを悩ませて来ました.
正直に言って,この謎には特に「答え」は用意されていないのではないかと思っています.ワンダがシットコムの世界に憧れていたから,以上! という展開なのかもしれません.「カオスマジック」というとてつもない力が導入された以上,もう割と何でもありとも言えます.実際それはそれでいいかなと思わなくもないのですが,辻褄を合わせたくなるのが研究者の性.
仮説
この謎に対する私の仮説は,こういうものです:
ワンダの「憧れ」と「現実」との折り合いを付けるための「装置」が「街中シットコム化」だった.
どういうことか?
ワンダは幸せな家族の形としてシットコムの「向こう側」の世界を思い描いていました.しかし言わずもがな,その世界は虚構の中.昔のシットコムなどについては,時間さえも超越しなければならない.現実改変能力で「虚構」を現実の中に作り出すことはできても,それが現実の中にあるという事実は変わらない.ヘックスという「虚構空間」を作り出したとしても,そのヘックス自体が現実の中に存在している.ここに矛盾が生じます.
そこでワンダが (恐らく無意識に) 取った手段が,「ドラマの中ということにする」というものだったのではないか.「全てドラマの中だ」とすれば,2020年代に1950年代のシットコムの世界を作りだしても問題ない.要するにドラマのセットと同じです.しかし「今からここで1950年代のシットコムを撮りまーす」と住民に言ったところで,誰も従ってはくれない.だからマインドコントロールをした上で,盲目的に「役」になりきってもらう必要があった.
「ドラマの中」なので,当然脚本があって,撮影も行われるし,放送もされる.誰に見せるでもない放送のはずだったが,たまたまダーシーがそれに気が付いたことで,あの劇中劇構造ができあがった.
こう考えると,全ての謎にうまく説明がつきます.
その他予測と妄想
上に書いたようにこの「仮説」は無意味な「辻褄合わせ」であり,実際は特に理由のない単なる「演出」の類なのかもしれません.作品として十分楽しんだので,それならそれでいいでしょう.当たっていたら当たっていたで嬉しいですが.
それはそれとして,他にも大小さまざまな「謎」が残っていますし,これからどうするんだ? という未解決の問題もあります.そのうちいくつかに,私なりの「予想」や「妄想」をぶつけて,この記事を締めくくりたいと思います.
まず,ニセトロ問題.
キャストが MCU ではなく X-MEN シリーズでクイックシルバーを演じたエヴァン・ピーターズであったことで,「マルチバースか?」という考察が世を駆け巡りましたが,これについては,私は「単なるファンサービス」だと思っています.キャストが MCU でピエトロを演じていたアーロン・テイラー=ジョンソンではなかった理由については,第8話でアグネスことアガサ・ハークネスの口から説明がありました.そうなると,「ピエトロ役」を演じさせるのは言ってみれば「誰でもよかった」わけです.
では誰にするか? となったら,せっかくならマーベルが大好きな視聴者をざわつかせる「面白い」キャストがいい.その「答え」がエヴァン・ピーターズだったということではないか.物語的には面白くないかもしれませんが,それが第8話までの展開を考えると最もしっくりくるように思います.
続いて,ドッティの正体.
明らかに,「単なるウェストビューの住民」ではない彼女.彼女の正体についても,様々な考察が飛び交っていますが,
1. モノクロ世界で見せた「赤い血」
2. S.W.O.R.D. の基地で「身元」の割り出し対象になっていなかった点
3. 第7話の意味深な登場
という3点 (3はかなり弱いですが) を鑑みると,巷の噂通り,「もう一人の魔女」という説が有力ではないかと思われます.いや,もっと言うと,願望としては,ドクター・ストレンジが変装した姿だったらいいなと,思っています.
ドクター・ストレンジ説も巷をそれなりに席巻しており,『ワンダヴィジョン』という作品自体が『ドクター・ストレンジ2』につながっているということも発表されていることを考えると,あり得ない話ではないかなぁと思いますが,さすがに彼が「直接」登場するということはないような気もします.また,ストレンジなのだとしたら,ここまでワンダを「泳がせる」必要もなく,また敢えて「女性」の姿に変装する必要もないような気もします.そもそも「変装」なんかできるのか? という疑問もあります.
そう考えると,ほどよい落としどころとしては,『ドクターストレンジ2』に登場するサブキャラクターである魔女,という可能性です.無難,かつ割と多くの方が予想している説だとは思いますが,かなり濃厚ではないかと思われます.
最後に,ヴィジョン問題.
第8話の最後に,S.W.O.R.D. の手によって新生ヴィジョン,いわゆる「白ヴィジョン」が誕生しましたが,ヘックスの中にもワンダがゼロから作り出したヴィジョンが存在します.この「2人のヴィジョン」がどう「出会う」のか,というのが今後の展開として気になるところです.
正直に言ってこの点については想像がつかないのですが,ワンダの作り出したヴィジョンはヘックスから出られないということを考えると,何らかの形でのその「精神」(あるいはプログラム? ジャーヴィス?) が「外」の白ヴィジョンと融合することで,「ヴィジョン復活」と相成るというのが順当なところでしょうか.
ただそれとは別に,こんな妄想もしています.ワンダはヘックスを拡張することができるわけで,その逆に,極限までヘックスを「縮小」させることもできるはず.ならばヘックスをどんどん小さくしていって,最終的にヴィジョンの等身大のサイズにして,その中にはヴィジョン1人しか存在しない,という状態にしてしまえば,ヴィジョンは事実上「外の世界」に存在できるような気がします.全身を覆う「生命維持装置」としての「移動式ヘックス」です.まるで,ウォーズマンのベアクローによって脳に損傷を負ったラーメンマンが,モンゴルマンマスクをつけることで再び動けるようになったように (いつの間にかマスク無しで動けるようになっていましたが).
終わりに
『ワンダヴィジョン』も残すところ最終回のみ.終わっていないけども既に「ロス」の感があります.『ファルコン&ウィンターソルジャー』も楽しみですが,『ワンダヴィジョン』の「楽しさ」とは全く別ジャンルになるでしょうから,今味わっているこの楽しみに替わるものはそうそう得られないはず.寂しいですが,冒頭に書いたように,こんな傑作をリアルタイムで楽しめたことを本当に幸せに思います.