ライブのこと、そして
ライブ:【有観客・生配信ライブ】 花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢2022・紫陽花編 「Rainy day in June」(下北沢・ニュー風知空知、2022年6月3日)
実は今回の「流れ」の2週間ほど前、大変遅まきながら、ピアニストの野島健太郎さんが昨年3月に亡くなられていたことを知り、ショックを受けていたのであった。私自身、野島さんについては、昔、シナロケや陣内孝則バンドで一時期プレイしていたこと、近年では、花田さんの福島「流れ」でのゲスト・セッションぐらいしか思いつかないのだが、それでもとても悲しく思う。一昨昨年の12月、福島・As Soon Asで「流れ」のステージ終了後、去り際に挨拶したところ、バーカウンターにもたれかかり、人懐っこい笑顔で応えてくれたのが忘れられない。いつか「ガラガラゴロゴロ」なんかを花田さんのギターと野島さんのピアノで聴いてみたいなあ、などと勝手に夢見て(というか妄想して)いたのだが・・・。梅雨入り間近の下北沢「流れ」への道中、京王井の頭線の線路沿いに咲く紫陽花の花が、沈みがちな心のなぐさめに。
さて、生けるものの話である。運よくチケットが手に入り、会場で生を観た後、自宅でも配信でおさらい鑑賞。なんという贅沢。ハープなし、Epiphone Frontier 一本勝負。 心なしか花田さん自身の曲の比率が高かったように思う。カバーがメインの選曲もいいが、花田さん自身の持ち歌が多く聴けるのはやっぱり嬉しい。MCもほとんどなく、歌う以外はひたすらにギターに向き合う。その姿に思わず胸がときめく。って、ときめくなんてお年頃は、もうとっくに過ぎたのだけれど(笑)。
定評に逆らわず、それが魅力のユルくてダルなムード満載。と同時に、例えば「Heart of Stone」や「からかわないで」の熱っぽさ、「路地裏のブルース」の心の痛み、「帰れない二人」の切なさなど、さまざまな情感がどの曲にもじわりとにじむ。時に一音一音に丁寧な、芯の強い弦の響きも印象的だった。
ライブ前半、「One for the Road」「何処へ行っても」の辺にきて、花田さんの曲への没入感にどきどきしながら、ぐいぐい引き込まれてしまう。終始一貫クールな表情の一方で、どこか気分よさそげに世界に入り込んでいる花田さんが、いい。歌い出しの対比表現を始め、松井五郎氏による端正な詞の「Beginning」は、先月白楽で聴いたばかり。また、ソロアルバム3作目の、年季の入ったこの曲の直後に、自身の新作を持ってくるあたりは新旧対決、過ぎた時間の重みを考えさせられた。
休憩を挟んで後半。長尺の前奏と終奏の「にわか~雨」はしっとりとした味わい。まるで一篇の古いモノクロ映画のよう。「お天道さま」は、憂き世の中のさわやかな諦めとささやかな楽観にほっとする。アンコールの「No Expectations」 は、ステージ最後の締めくくりの定番。これも素晴らしかった。穏やかな川の流れのような、あるいは、大陸をガタゴトのんびり走る長距離列車のようなギターが心地よい。このままずっと聴いていたら、気持ちよすぎて天国までも行けちゃうかも。ん、いや、でも、さしあたって、私めは、現世に未練たらたらですので、天国にはまだ行かなくて全然いいです(笑)。結局のところ、我々生けるものは皆、遅かれ早かれたどり着く天国行きの列車に乗っているのだとしても、ね・・・。
ところで、ライブがはねて帰りしなのこと。野島さんの訃報について、偶然、古くからの花田さんファンの方とお話しすることができた。 おかげでここしばらく抱えていた、モヤモヤした悲しい気持ちを表に出すことができ、心が楽になった。 突然にもかかわらず、耳を傾けてくださった親切な方、ありがとうございました。 そして、野島健太郎さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
【花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢2022・紫陽花編】
(She’s So) Untouchable (Johnny Thunders)/汽笛が(山口冨士夫)/風の中に消えた(ルースターズ)/夢の旅路/あいつが去った日(チューリップ)/Heart of Stone (The Rolling Stones)/One for the Road/何処へ行っても(山口冨士夫)/おいら今まで(サンハウス)/Beginning/新曲(歌い出し: 泣き濡れた瞳が)//(休憩)//Femme Fatale (The Velvet Underground)/ハイウェイをおりて/ぬすっと(サンハウス)/A Song for You /路地裏のブルース/帰れない二人(井上陽水)/Here Comes the Sun (The Beatles)/にわか~雨(サンハウス)/Something (The Beatles)/お天道さま/からかわないで(山口冨士夫)/白い一日(小椋佳)//(アンコール)//あの頃さ/ひとつ(山口冨士夫)/No Expectations (The Rolling Stones)