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ティファニーは東方正教会の「神現祭」

今回もクリスマスに関連する祭りや各言語での呼び方など、クリスマスのあれこれを見ていきましょう。これらの説明は人名につながっていきます。


25日の晩はクリスマスではない?

 前回の解説に従えば、25日の晩はクリスマスではない、というのが教会暦に準拠した考えになります。日本のクリスマスも、クリスマス・イブが本番の盛り上がりで、25日の夜は祭りの後的な雰囲気がありますが、本来のクリスマスの考え方に合っていたと言えます。
 しかし、12月25日の夜はクリスマスではないというのは本当でしょうか?

 カトリックには降誕節(ラテン語でTempus Nativitatis、英語でChristmas season)というものあります。
 例えばイタリアやフランス、スペインなどカトリックの影響が強い地域では、クリスマスから1月6日のエピファニー(公現祭)の前日、つまり1月5日の日没までが伝統的なクリスマス・シーズンとされています。
 現代では各地域で運用がまちまちで、エピファニー後の最初の日曜日までが降誕節とされているところもあります。本場ですらそのままクリスマス・シーズンに突入し有耶無耶に続くのですから、12月25日の日没までがクリスマスであることに厳密にこだわる理由はありません

公現祭

 ところで、エピファニーは日本では聞き慣れない言葉ですが、一体何なのでしょうか?「エピファニーEpiphany」とは、東方三博士が幼子イエスのもとを訪れて礼拝と贈り物を捧げたこと、それによって象徴されるキリストの誕生を記念する日です。
 エピファニーはギリシャ語の「エピファネースEpiphanēs」に由来し、古フランス語epiphanieを経て英語に流入しました。Epi「上に、上から」+phainein「出現する」でキリストの顕現を意味します。


東方正教会の神現祭

 また、エピファニーと同じような意味の言葉に「ティファニーtiffany」があります。ティファニーはギリシャ語のテオファネースTheophanes「神現祭」に由来し、古フランス語のtifanieを経て流入したものです。
 東方正教会では、洗礼者ヨハネによるイエスの洗礼を記念してユリウス暦1月6日に神現祭を行います。カトリックの公現祭は、もともと東方正教会で行われていた神現祭を、意味を変えて取り入れたものです。
 この神現祭がそのまま名前になった英語名「ティファニーTiffany」は、チャールズ・ルイス・ティファニーがニューヨークで創業した、ジュエリー・ブランドのティファニーでよく知られている名前です。

ラテン系言語のクリスマス

 日本人にとっては、クリスマスという呼び方は世界共通なのだろうな、と単純に思い込んでしまうところですが、これは英語圏特有の呼び方であって、他の言語では違う呼び方をされています。
 オランダ語の「ケルストゥミスKerstmis」だけは、まったく同じ構造です。似たものではギリシャ語の「フリストーイェンナーΧριστούγεννα」があるくらいです。フリストーイェンナーは「キリストの降誕」という意味です。
 ラテン系言語では、「主の降誕日」を意味するラテン語の「ディーエス・ナターリス・ドミニーDīes Natālis Dominī」を起点として、イタリア語は「ナターレNatale」、フランス語は「ノエルNoël」、スペイン語は「ナビダッドNavidad」、カタルーニャ語は「ナダルNadal」、ポルトガル語は「ナタールNatal」がクリスマスを意味します。
 クリスマスケーキに「ビュッシュ・ド・ノエルBûche de Noël」という薪(ビュッシュ)に似たロールケーキがありますが、このノエルの部分はフランス語で表現されたクリスマスのことで「クリスマスの薪」という意味になります。

北欧のクリスマス

 北欧ではまた別の呼び方をされており、古代ゲルマン民族の「冬至祭」を意味する「ユールJul」が、クリスマスと融合しました。雷神トールに捧げられた、北欧神話との結びつきが強い祝祭日です。
 雷神トールについては以下を参照してください。

 ドイツ語では、聖夜を意味する「ヴァイナハテンWeihnachten」と呼ばれます。

 こうしてみると、クリスマスという呼び方は、(英語話者が多いことを別として)案外少数派であることがわかります。
 次回はクリスマスに関連する人名について見ていきたいと思います。

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