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ルーズヴェルトはオランダ語の「バラ園」

 ヨーロッパの姓には、今まで取り上げてきた「ジャクソン」「マクドナルド」のように「~の息子」を意味する姓が多くありますが、職業から姓になったものも多くあります。日本で言う屋号に相当するものです。今回は職業に由来する姓について解説します。


スミスは鍛冶屋

 職業由来の姓の代表的なものとして、英語名「スミスSmith」があります。鍛冶屋という意味で、その他のつづりにSmither、Smytheがあります。スミスはアメリカ合衆国において最も多い姓であり、聞いたことがない人はいないと思いますが、アカデミー賞での平手打ちが話題になったウィル・スミスを例としてあげておきます。
 スミスに相当する鍛冶屋のドイツ語名は「シュミットSchmidt」です。例として、Google社の元CEOエリック・シュミットをあげておきましょう。
 鍛冶屋のイタリア語名は「フェッラーリFerrari」、ポルトガル語名は「フェッレイラFerreira」です。高級スポーツ車のフェラーリは、エンツォ・フェッラーリが創業したメーカーの名前です。
 鍛冶屋のポーランド語名は「コヴァルスキーKowalski」で、ポーランドで2番目に多い姓です。ハンガリー語・チェコ語名は「コヴァチKovács」です。コヴァチという名前の人物は、一般にとても知られている人物はちょっと思い浮かびませんが、私の知っている範囲では元クロアチア代表のサッカー選手だったニコ・コヴァチがいます。
 その他、「ゴールドスミスGoldsmith」「ゴールドシュミットGoldschmidt」のように金属と合成された姓もあり、「金細工職人」を意味します。世界的なコーチのマーシャル・ゴールドスミス、メジャーリーガーのポール・エドワード・ゴールドシュミットが思い浮かびます。

ベイカーはパン屋

 パンはヨーロッパで広く愛される食品なので、パン屋さんも姓になっています。
 英語名で「ベイカーBacker」「バクスターBaxter」、ドイツ語名で「ベーカーBecker,Bäcker」、フランス語名で「ブーランジェBoulanger」、オランダ語名で「バッカーBakker」、オランダ語の方言形「ベッカーBekker,Becker」などがあります。
 パンを焼くことをベイクといい、ベーカリーはパン屋さんなので、想像はつきますね。「シャーロック・ホームズ」が居住した設定で有名なベイカー街は、ウェストミンスター寺院の北にある実在の通りで、敷設した建築家のウィリアム・ベイカーにちなんで名付けられました。ベッカーという名前は、元プロテニス選手のボリス・ベッカーで知られています。
 パンには小麦粉が必要なので、粉屋を意味する英語名「ミラーMiller」も関連する名前です。コーヒーを粉にする器械をコーヒーミルといいますから、想像はつきますね。粉屋のドイツ語名「ミュラーMüller」は、FCバイエルン・ミュンヘンのサッカー選手トーマス・ミュラーで知っているかもしれません。

職業に由来する芸能・スポーツ選手の姓

 職業から個別に挙げるとキリがないので、ここからはよく知られている名前に絞って紹介します。
 まず、ハリー・ポッターの「ポッターPotter」は、ポットから想像がつくとおり陶工を意味します。
 英国人女優のエリザベス・テイラーやアメリカ人歌手のテイラー・スウィフトの「テイラーTaylor」は衣服の仕立屋です。テイラーメイド、などの言葉から知られています。
 アメリカ合衆国出身で史上最も成功した女性ロック歌手として知られる、ティナ・ターナーの「ターナーTurner」は旋盤工です。
 兄妹を中心としたグループとして活動し、世界中で愛されたカーペンターズの「カーペンターCarpenter」は大工を意味します。他に世界初の有人動力飛行を成し遂げたライト兄弟の「ライトWright」も大工です。cartと複合した「カートライトCartwright」は車大工を意味し、ドイツ語では「ヴァーグナーWargner」が同じ意味の姓です。作曲家のヴィルヘルム・リヒャルト・ヴァーグナーがよく知られています。
 ドイツの有名な作曲家、ロベルト・シューマンの「シューマンSchumann」は響きのとおり靴屋さんです。同じくオーストリアの作曲家フランツ・シューベルトの「シューベルトSchubert」は靴職人です。

職業に由来する有名人の姓

 世界を裏で牛耳っているという噂のロスチャイルドの出自はユダヤ系ドイツ人であり、ドイツ語「ロートシルトRothschild」が元の姓です。商売で看板に掲げた「赤い盾」が姓の由来です。ロートは朝焼けで山が赤く染まるモルゲン・ロートのRoth(=赤)、シルトは英語のシールドに相当するSchild(=盾)の組み合わせです。ロートシルトは、フランスのボルドーワインの5大シャトーと称される、シャトー・ラフィット・ロートシルト、シャトー・ムートン・ロートシルトで知られています。
 天才物理学者アルバート・アインシュタインの「アインシュタインEinstain」は石工を意味します。同じく石工を意味する姓として、これまた世界を裏から操っていることで有名なフリーメイソンで知られる「メイソンMason」があります。英国の陶器メーカーMASON’Sで知っているかもしれません。
 作曲家のベートーヴェンの本名ルートヴィヒ・ファン・ベートホーフェンの「ベートホーフェンBeethoven」はオランダ語でビーツ農家を意味します。そう言われてみればなるほど、というところですがベートーヴェンという耳馴染みのある英語読みからは想像できません。なお、最近では地名由来説も有力です。
 ドイツの政治家ゲルハルト・フリッツ・クルト・シュレーダーの「シュレーダーSchröder」、「キャプテン翼」の登場人物カール・ハインツ・シュナイダーの「シュナイダーSchneider」、元オランダ代表のサッカー選手だったヴェスレイ・ベンヤミン・スナイデルの「スナイデルSnijder」はいずれも仕立屋です。シュレーダーとシュナイダーは同じ名前で、シュレーダーが方言です。
 第39代アメリカ合衆国大統領ジミー・カーターの「カーターCarter」はカート職人または御者を意味し、ケルト系の名前です。ドナルド・トランプ前大統領の「トランプTrump」はドラム奏者(ドイツ系アメリカ人のため)、ジョセフ・バイデン大統領の「バイデンBiden」はボタン職人を意味します。セオドア・ルーズヴェルト及びフランクリン・ルーズヴェルト大統領の「ルーズヴェルトRoosevelt」はオランダ語由来でバラ園を意味します。
 職業ではありませんが、元英国首相のウィンストン・チャーチルの「チャーチルCharchill」はcharch+hillで「教会のある丘」という意味です。
 シンガー・ソングライターであるフリオ・イグレシアスの「イグレシアスIglesias」は、スペイン語の教会です。教会を意味するイタリア語の姓は「キエーザChiesa」です。イタリア代表のサッカー選手にフェデリコ・キエーザがいます。

 以上、思いつくままに紹介しましたが、音としてのみ認識していた名前が実は先祖の屋号で、それぞれに意味があるとわかると非常に興味がわきます。


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