ウズベキスタン | シルクロードの交差点で再び輝く経済と文化の中心地【気になる世界の国々#13】
ウズベキスタンの基本プロフィール
ウズベキスタンは中央アジアに位置する内陸国で、東にキルギス、西にトルクメニスタン、南にアフガニスタン、北にカザフスタンといった国々と国境を接しています。面積は約44万7,400平方キロメートル、人口は約3,600万人(2024年推定)で、首都はタシュケントです。歴史的なシルクロードの交差点として、文化・経済の重要な役割を果たしてきました。
なお、時差については、日本(東京)はウズベキスタン(タシュケント)より4時間進んでいます。例えば、日本が午後7時の時、ウズベキスタンでは同じ日の午後3時です。
シルクロードの要衝としての地理的重要性
ウズベキスタンは古代シルクロードの主要ルート上に位置しており、その地理的位置は歴史的に貿易と文化交流の要となってきました。特にサマルカンド、ブハラ、ヒヴァといった都市は、東洋と西洋を結ぶ交易路の中心地として発展しました。近年では、この地理的優位性を活かし、中国主導の「一帯一路」構想にも積極的に参加しており、中央アジア地域の物流や経済のハブとしての役割が期待されています。
ウズベキスタンの歴史と国民性
ウズベキスタンの歴史は、中央アジアの中心地として、多くの文明や文化が交差する舞台となってきました。この地域は古代から交易や侵略の要所であり、数々の帝国や民族がここに足跡を残しました。
古代の支配と文化
ウズベキスタンの歴史は、紀元前6世紀に栄えたアケメネス朝ペルシャ帝国から始まります。この時期、ウズベキスタン地域はペルシャ帝国のサトラップ(州)として組み込まれ、ペルシャ文化の影響を受けました。その後、紀元前4世紀にはアレクサンドロス大王がこの地を征服し、ヘレニズム文化が広がりました。特にサマルカンドの周辺ではギリシャ文化と地元文化が融合した独自の社会が形成されました。
シルクロード時代
ウズベキスタンはシルクロードの主要ルート上に位置し、中国、インド、中東、ヨーロッパを結ぶ交易の拠点として発展しました。この時期、多様な民族や宗教がこの地を行き交い、文化的な多様性が深まりました。ゾロアスター教、仏教、イスラム教がそれぞれの時代に広がり、宗教の融合が起きたのもこの地域の特徴です。
ティムール帝国の黄金期
14世紀後半から15世紀にかけて、ウズベキスタンはティムール帝国の中心地となり、特にサマルカンドが文化的・学問的な中心地として繁栄しました。ティムール(タメルラン)は中央アジア全域を支配する大帝国を築き、サマルカンドに多くの学者や芸術家を集めました。この時代には、レギスタン広場やグリ・アミール廟といった壮大な建築物が建設され、現在も観光名所として世界中から訪問者を引きつけています。ティムール帝国の文化的遺産は、ウズベキスタンの誇りであり、イスラム文化とペルシャ文化の融合の象徴です。
ロシア帝国とソビエト連邦の影響
19世紀にはロシア帝国の支配下に入り、その後ソビエト連邦の一部となりました。この時期、ロシア語が広がり、民族的な独自性が抑制される一方で、教育や産業化が進みました。ソビエト時代にはウズベキスタンが綿花生産地として利用され、大規模な灌漑プロジェクトが行われましたが、環境破壊やアラル海の縮小といった課題も残しました。
独立後の民族文化再興
1991年にソビエト連邦が崩壊し、ウズベキスタンは独立を果たしました。独立後は、ウズベク語が公用語とされ、ロシア語の影響が徐々に減少しました。また、ティムール帝国時代の遺産が民族的なアイデンティティの再構築に活用され、歴史的建造物の保存や観光資源としての活用が進められています。
ウズベキスタンの国民性
ウズベキスタンの国民性は、その歴史的背景や文化的多様性によって形作られています。まず、ウズベク人は非常に親切で、訪問者を温かく迎える「ホスピタリティ(おもてなしの心)」が強く根付いています。シルクロード時代から続く旅人をもてなす伝統が現在も生きており、観光客に対しても親しみやすい雰囲気を提供しています。
また、ウズベク人にとって家族は非常に重要な存在です。家族中心主義の文化が強く、親族間の結びつきが非常に深いことが特徴です。結婚や家族の行事は社会生活において大きな役割を果たし、親族が集まる場面が頻繁に見られます。
さらに、ウズベク人は歴史的に農業や繊維産業に携わってきたことから、勤勉な性格を持ち合わせています。同時に、さまざまな文化や慣習を取り入れる柔軟性にも優れており、多文化への寛容さが国民性に反映されています。イスラム教が主流ではあるものの、宗教的な極端さは少なく、イスラム文化と世俗的な要素がバランス良く共存しています。
加えて、ウズベク人は伝統音楽や舞踊に対して強い情熱を持っています。結婚式やお祝いの場では、色鮮やかな衣装をまとった人々が音楽とともに踊り、活気ある雰囲気を作り出します。こうした文化的要素が、ウズベキスタンを訪れる人々に深い印象を与えています。
経済の現状と主要産業
為替
ウズベキスタンの通貨であるウズベキスタン・スム(UZS)は、2025年1月時点で1ドル=約13,000ウズベキスタン・スムの為替レートとなっています。
GDP
ウズベキスタンは近年、経済改革を進め、外資誘致や輸出拡大に力を入れています。2024年の推定GDPは約810億ドルです。
GDP成長率は5.6%。世界に占める名目GDPの割合は約0.1%、購買力平価GDPでは約0.2%です。
なお、2025年~2029年のGDP成長率は、5.7%, 5.7%, 5.7%, 5.7%, 5.7%となっています。画像はGDP成長率の推移です。
インフレ率と失業率
2024年10月のインフレ率は10.24%。
直近の失業率は6.8%。
人口動態
2024年時点のウズベキスタンの人口ピラミッドを見ると、労働年齢層(15歳から64歳) が全人口の約63%を占めており、これは国の経済成長を支える主要な基盤となっています。この層の豊富な労働力は、農業、繊維産業、鉱業、観光業といったウズベキスタンの主要産業の発展を下支えしています。
若年層(0~14歳) の割合は全人口の約31%を占めており、非常に高い水準にあります。これはウズベキスタンが依然として「人口ボーナス期」にあることを示しており、将来的な労働力の供給源として重要な役割を果たすと期待されています。
一方で、65歳以上の高齢層 の割合は全体の約6%と比較的低く、高齢化はまだ進んでいない状況です。
この構造はウズベキスタンが人口の若さを活かし、持続的な経済発展の可能性を秘めていることを示しています。
全体像はこちら。
主な輸出産業・品目
図はウズベキスタンの経済活動および輸出品目を示したものです。
金(Gold)
ウズベキスタン最大の輸出品目は金で、輸出全体の約18.95%を占めています。国内の豊富な鉱物資源を活用し、外貨獲得の中心的な役割を果たしています。金の輸出はウズベキスタン経済を支える柱の一つです。観光業(Travel & Tourism)
観光業はウズベキスタンの主要な外貨獲得分野の一つで、輸出全体の約7.52%を占めています。特にサマルカンドやブハラといった歴史的都市が、シルクロードの文化的魅力を背景に観光客を引きつけています。観光業は経済効果に加え、関連する輸送やサービス業の発展にも寄与しています。綿糸(Cotton Yarn of >85%)
綿糸の輸出は全体の約6.73%を占めており、ウズベキスタンの農業および繊維産業の重要性を反映しています。国内で生産された綿花を利用した綿糸は、国際市場で高い需要を誇ります。石油ガス(Petroleum Gases)
石油ガスは輸出全体の約4.55%を占め、ウズベキスタンのエネルギー産業における主要な輸出品目です。国内の豊富な天然資源を活用した輸出は、経済の安定化にも貢献しています。
ウズベキスタンの輸出は、金や綿花といった伝統的な産業を中心に、多様な分野で構成されています。一方で、観光業やエネルギー産業などの成長分野も加わり、経済の多様化が進行中です。
汚職と法の支配
・Corruption Perceptions Index(腐敗指数)
Rank 121/180
・Rule of Law Index(法の支配指数)
Rank 83/142
ウズベキスタンは、腐敗認識指数 で180カ国中121位にランクインしており、汚職が依然として深刻な課題となっています。特に、公共部門や地方政府における透明性の欠如が指摘されています。
一方、法の支配指数では142カ国中83位に位置しており、中程度の評価を受けています。司法制度の独立性は徐々に向上しているものの、法の執行における公平性や効率性に課題が残っています。
イノベーションと平和度
・Global Innovation Index(グローバルイノベーション指数)
Rank 83/125
・Global Peace Index(世界平和度指数)
Rank 60/163
ウズベキスタンは、グローバルイノベーション指数で125カ国中83位にランクインしており、中央アジア諸国の中では中程度の評価を受けています。この順位は、農業や繊維産業を中心とした伝統的な産業に加え、ICT(情報通信技術)やスタートアップ分野への投資が進展していることを反映しています。
一方、世界平和度指数 では163カ国中60位と、中央アジア地域内で比較的安定した国と評価されています。政治的安定性と治安の改善が進んでおり、一部の地域では犯罪率の低下も見られます。
ウズベキスタンの魅力と課題
ウズベキスタンには、特筆すべき以下のポイントがあります。
1. 複数の内陸国に囲まれた「二重内陸国」
ウズベキスタンは世界でも珍しい「二重内陸国(ダブルランドロック)」の一つです。つまり、隣接するどの国も内陸国であり、海に出るには最低でも2つの国を越えなければなりません。この地理的な条件は、ウズベキスタンの輸出入に特有の物流課題をもたらしており、国の経済政策や交通インフラ整備に大きな影響を与えています。一方で、内陸国としての地理的優位性を活かし、シルクロード時代から貿易の交差点として重要な役割を果たしてきました。
2. アラル海の環境問題
かつて世界第4位の面積を誇ったアラル海は、ソビエト時代の過剰な灌漑事業により、現在ではほぼ消滅しています。この環境破壊はウズベキスタンに深刻な影響を与えており、アラル海周辺地域では土壌の塩害や健康被害が問題となっています。近年では、環境再生のための国際的な協力が進められていますが、解決には長い時間がかかると見られています。この問題は、ウズベキスタンが直面する最大の環境課題の一つです。
3. 中央アジア最大の人口
ウズベキスタンは、約3,600万人の人口を擁しており、中央アジアで最大の人口を持つ国です。この人口規模は、国内市場の成長ポテンシャルを示しており、労働力の豊富さが経済発展を支える重要な要素となっています。また、若年層の割合が高いため、今後の経済成長の推進力としても期待されています。
4. 世界遺産に登録された歴史都市
ウズベキスタンには、ユネスコの世界遺産に登録されている複数の歴史都市があります。特に有名なのが、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァです。これらの都市は、シルクロードの交易都市として発展し、イスラム建築やペルシャ文化の影響を色濃く受けています。壮大な建築物や装飾タイルの美しさは、訪問者に深い感動を与えるだけでなく、ウズベキスタンの文化観光を支える柱となっています。
5. 天然資源の豊富さ
ウズベキスタンは、金、天然ガス、銅、ウランといった資源に恵まれており、それらが経済の主要な支柱となっています。特に金の埋蔵量は世界でもトップクラスであり、輸出の約19%を占めています。また、天然ガスは地域内でのエネルギー供給において重要な役割を果たしており、周辺国との関係構築にも資する要素となっています。これらの資源を持続可能な形で管理することが課題となっています。
天然ガス
「JOGMEC, ロシア、カザフスタン、ウズベキスタンの天然ガス分野での協力(2023/11/29)」によると、以下の内容が示されています。
ウズベキスタンにとっての天然ガス
ウズベキスタンにおける天然ガスは、国のエネルギー供給を支える極めて重要な資源です。同国のエネルギー構成において、天然ガスは全体の約9割を占めており、電力供給の中核的役割を担っています。人口増加に伴い電力消費が年率3%程度のペースで拡大していることから、天然ガスの安定供給が国の経済や社会に与える影響は非常に大きいと言えます。ちなみに、ウズベキスタンでは天然ガスを燃料とする自動車(CNG車)が普及しており、国内で一定数の車両が天然ガスを主要燃料として使用しています。CNG車の普及は、ガソリンよりも安価な燃料供給が可能であることから進められており、政府もその普及を支援しています。
しかしながら、ウズベキスタンの天然ガス生産量は近年減少傾向にあります。主な要因として、国内市場向けに安価で供給されるため輸出余力が乏しいことが挙げられます。さらに、新規の上流プロジェクトへの投資不足や既存施設の老朽化が進行し、生産能力の低下が顕著となっています。この状況は、国内での電力需要増加に対応しきれないリスクを孕んでいます。
ロシアからの輸入と国際協力
こうした背景の中、2023年10月にはロシアからの天然ガス輸入が開始されました。年間2.8BCMという供給量は、ウズベキスタンにとって短期的なエネルギー供給の安定化に寄与すると期待されています。これに伴い、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタンの3か国が協力する「3か国ガス同盟」が注目されています。この枠組みは、エネルギー輸送の効率化や安定供給を目指すものであり、特にロシアが中国市場への輸出ルートを視野に入れる中で、ウズベキスタンの地政学的な重要性が増しています。
国内エネルギー政策の課題
ウズベキスタン国内においては、エネルギー政策の再構築が急務です。特に、天然ガスへの依存度を徐々に低減し、再生可能エネルギーの導入を加速する必要があります。また、既存の天然ガス関連施設の改修や効率化を進めることで、供給能力を維持しつつ持続可能なエネルギー供給体制を構築することが求められます。
ウズベキスタンを含む周辺国のパイプライン網は、以下の図の通りです。
終わりに
ウズベキスタンは、シルクロード時代から続く歴史と文化の豊かさ、豊富な天然資源、そして中央アジア最大の人口を活かし、経済と社会の発展を続けています。改革を進める中で、観光業や輸出産業を中心に多様な経済分野が成長しつつあります。一方で、汚職や法の支配、アラル海の環境問題などの課題も依然として存在します。しかし、若い人口構成や豊かな遺産を基盤に、国際社会との連携を深めながら持続可能な成長を実現する可能性を秘めています。ウズベキスタンの今後の動向は、中央アジアの発展において重要な鍵となるでしょう。