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モーリシャス | 多文化の融合と観光業が輝きを放つ島国【気になる世界の国々#7】

モーリシャスの基本プロフィール

モーリシャスはアフリカ大陸の東方約2,000キロメートル、インド洋に浮かぶ島国です。面積は約2,040平方キロメートル、人口は約130万人(2024年推定)で、首都はポートルイスです。この国は多文化共生、観光業の発展、そして高い経済成長率が特徴的な新興国の一つとして注目されています。

なお、時差については、日本(東京)はモーリシャス(ポートルイス)より5時間進んでいます。例えば、日本が午後7時の時、モーリシャスでは同じ日の午後2時です。


アフリカとアジアを結ぶ交差点としての地理的重要性

モーリシャスはインド洋の貿易ルート上に位置し、その地理的優位性から「アフリカとアジアをつなぐハブ」として重要な役割を果たしています。主要な港であるポートルイス港は、国際物流の拠点となり、特にヨーロッパ、アフリカ、アジアを結ぶトランシップ拠点として機能しています。また、豊かな自然と美しいビーチが観光業を支え、年間数百万人の観光客を魅了しています。


多文化共生の国

モーリシャスは歴史的に、フランス、イギリス、インド、中国など多くの国の影響を受けており、多文化が共生する社会を築いています。
モーリシャスの多文化性は、歴史的な移民の流入によって形成されました。

1. 歴史的背景と民族的多様性

  • フランスとイギリスの植民地時代の影響
    モーリシャスは最初オランダの支配下にありましたが、その後フランスに植民地化され、ナポレオン戦争後の1814年にイギリスの支配下に入りました。フランス時代に導入されたサトウキビ栽培が産業の基盤を作り、労働力としてアフリカ系奴隷が連れて来られました。イギリス統治下では、奴隷制廃止後の労働力不足を補うため、主にインドから契約労働者が移住しました。

  • インド系移民の影響
    現在、モーリシャスの人口の約60%以上がインド系であり、特にヒンドゥー教徒やイスラム教徒が多くを占めています。この移民の影響により、インドの文化や食文化、宗教的行事がモーリシャスの社会に深く根付いています。

  • 中国系コミュニティ
    19世紀には中国系移民も到来し、特に商業分野で活躍しました。現在でも中国の旧正月(春節)はモーリシャスの公式祝日として認められ、地域社会で大きな役割を果たしています。

  • アフリカ系の影響
    アフリカ系住民(クレオール)は、奴隷として連れて来られた人々の子孫であり、彼らの音楽やダンス(セガなど)はモーリシャスの文化的アイデンティティの一部となっています。


2. 宗教の共存

モーリシャスでは、さまざまな宗教が共存しています。

  • ヒンドゥー教
    ヒンドゥー教はモーリシャス最大の宗教であり、総人口の約50%が信仰しています。国内にはヒンドゥー教寺院が多く存在し、特に毎年行われる「マハー・シヴァラートリー(Maha Shivaratree)」は、国内最大規模の宗教行事の一つです。

  • カトリック教会
    フランス植民地時代に伝えられたカトリックは現在でも強い影響力を持ち、人口の約25%がカトリックを信仰しています。キリスト教の祝日(クリスマスや復活祭)は全国で祝われます。

  • イスラム教
    モーリシャスにはインド系ムスリムが多く、人口の約17%がイスラム教徒です。イスラム教のモスクは島内各地にあり、ラマダンやイド・アル=フィトルなどの行事も盛んに行われます。

  • その他宗教
    中国系住民による道教や仏教の慣習も見られ、また、無宗教や少数宗教を信仰する人々も存在しています。


3. 言語の多様性

モーリシャスの憲法では公用語を明確に定めていませんが、議会の公用語は英語とされています。しかし、日常生活やメディアではフランス語とモーリシャス・クレオール語が広く使用されています。

  • 英語
    政府や教育の場では英語が公式言語として使用されていますが、英語を母語とする人は少数派です。

  • フランス語
    フランス語はビジネスや日常生活で広く使われ、新聞やテレビ、ラジオの多くがフランス語で提供されています。

  • クレオール語
    モーリシャス・クレオール語は、住民の間で最も一般的に話される言語であり、フランス語をベースに独自の語彙や文法を持っています。

  • その他の言語
    インド系住民によるボージプリー語やヒンディー語、中国系住民による標準中国語や広東語も話されています。


4. 食文化の融合

モーリシャスの食文化は、その多文化性を象徴するものであり、フランス料理、インド料理、クレオール料理、中国料理が融合したユニークなスタイルを持っています。

  • カレーとチャツネ
    インド系の影響により、さまざまなスパイスを使ったカレー料理が一般的であり、ロティやサモサといったインド風の軽食も人気です。特に、山羊やチキン、羊、魚などのマサラ(カレー)や、サモサ、ブリヤニ(スパイスをきかせた炊き込みご飯)などがポピュラーです。

  • シーフード料理
    モーリシャスは島国であるため、新鮮な魚介類を使った料理が豊富です。特に、タコのカレーやグリルされた魚、シーフードカレーが有名で、クレオール文化の影響を受けたルガイユ(トマトとたまねぎ、しょうが、ニンニクのソース)やドーブ(トマトとたまねぎ、ニンニク入りの牛肉や鶏肉のシチュー)といった料理も見られます。

  • 中国料理
    チャーハンや春巻きなどの中国料理は、地元の味付けと融合して独特のスタイルを形成しています。また、モーリシャスでは中華料理とインド料理が非常に人気があり、種類も豊富です。エビとココナッツミルクが入った温かいご飯などの有名な料理や、宗教的な祭りの際に食べるライススープの一種であるドクラなどのエキゾチックな料理もあります。


5. 音楽とダンスの多様性

モーリシャスの音楽とダンスは、多文化共生を象徴するものです。

  • セガ(Sega)
    アフリカ系住民がもたらしたセガは、モーリシャスの伝統音楽・ダンスとして広く親しまれています。そのリズムとメロディは、奴隷時代の悲しみと希望を表現しているとされています。

  • その他の音楽
    インドのボリウッド音楽や中国の伝統音楽、フランスのシャンソンなど、多様な音楽が共存しています。

このように、モーリシャスは、歴史的背景や移民による多文化の融合が進んだ結果、宗教、言語、食文化、音楽など多岐にわたる分野で共存と調和が実現された稀有な国です。


経済の現状と主要産業

為替

モーリシャスの通貨であるモーリシャス・ルピー(MUR)は、2024年12月時点で1ドル=約47モーリシャス・ルピーの為替レートとなっています。

出典:Investing.comより

GDP

モーリシャスのGDPは約146億ドル(2024年推定)で、アフリカの中でも比較的小規模ですが、安定した成長を遂げています。
GDP成長率は6.1%。世界に占める名目GDPの割合は約0.01%、購買力平価GDPでは約0.02%で非常に小さいことが分かります。
なお、2025年~2029年のGDP成長率は、4.0%,  4.0%,  4.0%,  4.0%, 4.0%となっています。画像はGDP成長率の推移です。

International Monetary Fundのデータ

インフレ率と失業率

2024年11月のインフレ率は3.4%。

出典: Trading Economicsより

直近の失業率は5.9%。

出典: Trading Economicsより

人口動態

出典:PopulationPyramid.net

2024年時点のモーリシャスの人口ピラミッドを見ると、労働年齢層(15歳から64歳)が全人口の大部分を占めており、これは観光業、金融サービス、漁業といったモーリシャスの主要産業を支える基盤となっています。この層の充実した労働力は、経済活動の活性化に寄与しています。
若年層(0~14歳)の割合は約15%で、過去と比較すると減少傾向にありますが、将来的な労働力としての期待が持てます。
一方、65歳以上の高齢層の割合は全体の約13%に達しており、アフリカ諸国の中では比較的高い水準となっています。これは、モーリシャスがすでに高齢化社会へ移行しつつあることを示しています。

全体像はこちら。

出典:PopulationPyramid.net

主な輸出産業・品目

出典: Harvard Growth Lab - Atlas of Economic Complexity

図はモーリシャスの経済活動および輸出品目を示したものです。

  • 観光業(Travel & Tourism)
    モーリシャス最大の外貨獲得分野で、輸出全体の32.34%を占めています。特に美しいビーチや高級リゾートが、ヨーロッパやアジアからの観光客を引きつけています。観光業は直接的な経済効果だけでなく、関連する輸送やサービス業の成長も促進しています。

  • ビジネスサービス(Business Services)
    14.29%を占めるこの分野は、モーリシャスが金融ハブとしての地位を確立する要因となっています。特に、税制優遇を活用した国際的なビジネス投資が進んでいます。

  • 衣料品(Men’s Suits, T-Shirts, Knit Fabricsなど)
    繊維・衣料品の輸出は合計で約6%を占めています。特に、男性用スーツやTシャツといった製品が主要な輸出品目として挙げられます。

モーリシャスの輸出構造は、観光業を中心に、漁業、農業、繊維産業、金融サービスなど、多様な産業が支えています。特に観光業は圧倒的な割合を占める一方で、加工食品や衣料品なども重要な役割を果たしています。


汚職と法の支配

・Corruption Perceptions Index(腐敗指数)
Rank 55/180
・Rule of Law Index(法の支配指数)

Rank 46/142

モーリシャスは、腐敗指数で180カ国中55位にランクインしており、アフリカの中では比較的良好な評価を受けています。汚職は依然として課題ですが、透明性の向上に向けた政府の取り組みにより、他のアフリカ諸国と比べて一定の進展が見られます。特に、公共サービスにおける透明性向上や、汚職防止法の強化が注目されています。

一方、法の支配指数では142カ国中46位と高評価を受けており、アフリカ諸国の中で最も安定した法制度の一つとして評価されています。司法制度は比較的独立しており、法執行の透明性や公平性が確保されています。


イノベーションと平和度

Global Innovation Index(グローバルイノベーション指数)
Rank 55/125
Global Peace Index(世界平和度指数)
Rank 22/163

モーリシャスは、グローバルイノベーション指数で125カ国中55位にランクインしており、アフリカ諸国の中でも比較的高い評価を受けています。この順位は、特に観光業や金融サービス業を中心とした経済活動の中で、ICT(情報通信技術)の利用やデジタル経済の促進が進んでいることを反映しています。

一方、世界平和度指数では163カ国中22位と、アフリカ地域内で高い安定性を誇る国と評価されています。政治的安定や低い犯罪率がその要因であり、観光業の発展にもつながっています。治安が比較的良好で、観光客や住民にとって安全な環境が整備されています。


各地域との関連

1.アフリカとの関係

モーリシャスはアフリカ大陸に属しながらも、島国としての特性を活かして他のアフリカ諸国と差別化された役割を果たしています。

  • 貿易と投資拠点
    モーリシャスは、南部アフリカ開発共同体(SADC)および東部・南部アフリカ市場共同体(COMESA)の加盟国として、域内貿易の促進に積極的に取り組んでいます。

  • オフショア金融センター
    モーリシャスは、アフリカ諸国への投資のためのオフショア金融センターとして活躍しています。特に、南アフリカやケニアなどの成長市場に向けた投資を促進するための中継地としての役割が重要視されています。

  • 物流と貿易の中継地点
    ポートルイス港はアフリカ東海岸の貿易物流において重要な役割を果たしており、特に南部アフリカとの農産物や工業製品の貿易で活用されています。


2.アジアとの関係

アジア、特にインドと中国とのつながりは、モーリシャスの経済・文化に大きな影響を与えています。

  • インドとの深いつながり
    モーリシャスの人口の多くがインド系移民の子孫であり、インドとの深いつながりがあります。インドはモーリシャスを経由してアフリカ市場へ進出する企業が多く、モーリシャスはインドからの投資の主要な受け入れ先となっています。また、インド政府はモーリシャスに対して金融支援や技術協力を提供し、両国間の経済関係を強化しています。

  • 中国との貿易とインフラ投資
    中国はモーリシャスの主要な貿易相手国の一つであり、両国間の自由貿易協定(FTA)が2021年1月1日に発効しました。中国政府や企業は、モーリシャスのインフラプロジェクト(道路建設、港湾整備など)に多額の投資を行っており、「一帯一路」構想とも連動した動きが見られます。


3.ヨーロッパとの関係

モーリシャスは、かつてフランスとイギリスの植民地であった歴史から、ヨーロッパ諸国と深い経済的・文化的なつながりを維持しています。

  • 主要貿易相手
    モーリシャスは、砂糖、繊維製品、魚介類などの農水産物をヨーロッパ市場に輸出しています。また、欧州連合(EU)との特恵貿易協定を活用し、これらの製品の輸出を促進しています。

  • 観光業
    ヨーロッパ、特にフランス、イギリス、ドイツからの観光客がモーリシャスの観光業に大きく貢献しています。モーリシャスの高級リゾートは、ヨーロッパの富裕層に人気があり、観光業の収益に寄与しています。

  • 金融とサービス
    モーリシャスは、ヨーロッパの金融機関にとってアフリカ市場へのゲートウェイとして機能しています。特にフランスやイギリスからの金融サービスの投資が活発であり、モーリシャスの有利な規制環境がこれを支えています。


終わりに

モーリシャスは、アフリカ、アジア、ヨーロッパの交差点に位置する地理的優位性を活かし、多文化共生と経済的多様性を兼ね備えた国です。観光業、金融サービス、農業、漁業など、多様な産業を基盤とし、安定した政治体制と法制度を背景に持続可能な経済発展を目指しています。一方で、観光業への依存や高齢化、社会的格差といった課題にも直面しており、これらの問題に対応するためには、経済のさらなる多様化や社会政策の強化が必要とされています。

モーリシャスがその地理的特性を最大限に活用しながら、持続可能で包摂的な社会を築き、国際社会の中でその存在感を高めることが期待されています。

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