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リチウム | 世界のモビリティ革命を支える金属【世界の資源#1】

リチウムの重要性とその背景

リチウムは、現代のエネルギー転換を支える重要な金属であり、特に再生可能エネルギーの貯蔵や電気自動車(EV)バッテリーに不可欠な素材として注目されています。その軽量性と高いエネルギー密度から、「未来の金属」とも称されています。地殻中の含有量はそれほど多くないものの、その用途の拡大により需要が急増しており、世界的に戦略的な資源として位置付けられています。リチウムは、元素記号 Li で表され、周期表では原子番号 3 に位置するアルカリ金属です。

Wikipediaより抜粋

リチウムの物理的特性とその影響

リチウムは、独自の特性を持つ金属であり、その特性が広範な産業用途を支えています。

  • 軽量性: リチウムは、すべての金属の中で最も軽いという特性を持ちます。その軽量性は、特に輸送分野やモビリティ用途で重要です。例えば、電気自動車(EV)やドローン、航空機のバッテリーにおいて、車両全体の重量を抑えることでエネルギー効率を向上させる役割を果たします。

  • 高いエネルギー密度: リチウムは高いエネルギー密度を持ち、リチウムイオンバッテリーで効率的なエネルギー貯蔵を実現します。この特性により、スマートフォンやノートパソコンといった携帯型電子機器、さらには再生可能エネルギーの貯蔵システムや電動工具など、多岐にわたる用途で活用されています。また、エネルギー密度の高さは、電動化社会を推進する大きな要因となっています。

  • 反応性: リチウムは水や酸素と容易に反応するため、バッテリーの電解質や化学産業で幅広く利用されています。この反応性により、リチウムイオン電池の高い充放電性能が可能になっています。また、医薬品や潤滑剤、さらには特定の合金材料にも応用され、その多様な産業利用が拡大しています。

  • リサイクル可能性: 使用済みのリチウム電池はリサイクル可能であり、資源の有効活用や環境負荷の軽減に寄与します。リチウムだけでなく、コバルト、ニッケル、マンガンなどの貴重な金属も回収され、新しい電池や化学製品の製造に再利用されます。ただし、現行のリサイクルプロセスには以下の課題があります:

    • 技術的課題:電池内の成分を効率的に分離・回収する技術がまだ発展途上で、回収率向上が求められています。

    • コストの問題:リサイクルコストが新規採掘コストを上回る場合があり、経済的な持続可能性が課題です。

    • 環境負荷:リサイクル工程で発生するエネルギー消費や二次廃棄物が課題となる場合があります。

これらの課題解決に向けた技術革新が進められており、効率的かつ経済的なリサイクルプロセスの実現が期待されています。特に電気自動車(EV)の普及に伴う大量の使用済み電池の排出を見据え、リサイクルの重要性はさらに高まっています。


世界にあるリチウム

ここから、資源量、埋蔵量、生産量のデータについて確認していきます。なお、参照元は以下の通りです。
資源量、埋蔵量:USGS
生産量:World Mining Data

資源量

世界には約1.05億トンのリチウム資源量があるとされています。
最も多いのはボリビアで、次いでアルゼンチン、アメリカとなっています。

USGSのデータ(Mineral Commodity Summaries 2024)から作成

埋蔵量

世界には約2,800万トンのリチウム埋蔵量があるとされています。
最も多いのはチリで、次いでオーストラリア、アルゼンチンとなっています。

USGSのデータ(Mineral Commodity Summaries 2024)から作成

生産量

2022年のデータによれば、世界のリチウム総生産量は約10万トンで、11か国が生産国として含まれています。最も多いのはオーストラリアで、次いでチリ、中国となっています。

※なお、World Mining DataではデータがLi₂Oとして示されているため、本記事ではLi量に換算して表記しています。

World Mining Dataのデータ(Share of world production 2022 by countries) から作成

リチウム資源の種類と特徴

リチウムは資源形態により以下の4種類に分類されます。

1. 鉱石型リチウム

リチウムを含む鉱石として、スポジュメン(LiAl(SiO3)2)が主な原料です。リチウム含有率は4〜6%程度で、主に高純度リチウム化合物(水酸化リチウムや炭酸リチウム)の製造に利用されます。

2. 塩湖型リチウム

塩湖水中のリチウム濃度は0.02〜0.2%程度。蒸発を利用して抽出され、コストが比較的低い一方、気候条件に依存するため供給が不安定になる場合があります。主にチリやアルゼンチンなどで生産され、コスト効率の良い用途に適しています。

3. 粘土型リチウム

粘土鉱床に含まれるリチウムは、塩湖型よりも高い濃度を持つ一方で、採掘および加工技術が未成熟であるため、コストが高くなります。現在、アメリカのネバダ州(例:Thacker Passプロジェクト)を中心に開発が進められていますが、大規模な商業生産にはまだ至っていません。

4. 地熱型リチウム

地熱発電の副産物として、地熱水からリチウムを回収する技術です。地熱型リチウムは、生産時の環境負荷が低いため、「グリーンリチウム」として注目されています。アメリカのカリフォルニア州が有名です。


鉱石型と塩湖型

4つの分類の中でも特に注目される鉱石型リチウムと塩湖型リチウムについて、ここからは国別に説明していきます。

鉱石型リチウム

1.オーストラリア
オーストラリアは、世界最大のリチウム生産国であり、鉱石型リチウムの主供給地です。中国や韓国などへ輸出して水酸化リチウムに加工されます。鉱石型リチウムは高純度化が容易なため、高性能EVバッテリー向けの水酸化リチウム生産に特化しており、供給の安定性が高い点が特徴です。

2.中国
中国は鉱石型リチウムを国内で生産する一方、オーストラリアからの輸入に大きく依存しています。国内産の鉱石型リチウムは品位がやや低い傾向がありますが、精錬施設の拡充により効率的な加工が進んでいます。また、リチウムの下流産業(電池生産)での世界的な競争力が中国を支えています。

塩湖型リチウム

1.チリ
チリは塩湖型リチウムの主要供給国であり、世界的なリチウム市場で重要な役割を果たしています。乾燥した気候条件が塩湖水の蒸発を促進し、効率的な抽出を可能にしています。アタカマ塩湖のリチウム濃度は世界的に見ても高く、競争力のある価格で提供されています。また、主要企業であるSQM(Sociedad Química y Minera)が生産の多くを担っています。

2.アルゼンチン
アルゼンチンは塩湖型リチウムの供給地として成長を続けています。乾燥した地域(例:サルタ州、フフイ州、カタマルカ州)で塩湖水を利用したリチウム抽出が進められています。

3.ボリビア
ボリビアには膨大なリチウム埋蔵量があるとされ、特にウユニ塩湖がその中心として有名です。しかし、採掘・加工技術の遅れやインフラの未整備により、生産量はまだ限られています。一方で、将来的な潜在能力は非常に高いと評価されています。
ボリビアの塩湖は他国と比べてマグネシウム含有量が高く、これがリチウムの分離・精製を技術的に難しくし、コスト増加の要因となっています。さらに、ボリビア政府はリチウム資源の国有化政策を進めており、このことが海外企業の参入を難しくしている一因となっています。


リチウムトライアングル

リチウムトライアングルの特徴

リチウムトライアングルは、ボリビア、アルゼンチン、チリの国境地帯に広がる地域で、世界最大規模のリチウム埋蔵地として知られています。この地域には、世界のリチウム埋蔵量の約50〜60%が集中しているとされています。この地域には、チリのアタカマ塩湖、ボリビアのウユニ塩湖、アルゼンチンのサルタ州の塩湖などのリチウムが豊富に含まれる巨大な塩湖が多数あります。

この地域が注目される理由は、その膨大な埋蔵量に加え、リチウムの抽出プロセスが比較的コスト効率に優れている点です。特に塩湖型リチウムは、鉱石型リチウムと比べて蒸発を利用した自然の力を活用できるため、生産コストを抑えることができます。ただし、蒸発速度が気候条件(乾燥や日射量)に依存するため、生産効率には変動が生じる可能性があります。

以下に、各地域の大まかな位置関係を示した地図を掲載します。

google mapに書き込んで作成

塩湖型リチウムの回収プロセス

塩湖型リチウムは、地下から塩水を汲み上げて蒸発させ、リチウムを抽出すると先ほど紹介しましたが、その具体的な回収プロセスを最後に記載します。

1. 地下塩水(ブライン)の採取

  • 工程: 塩湖の地下深くに蓄えられた塩水を汲み上げます。これには、ボーリング(掘削)を行い、地下水脈にポンプを挿入します。

  • 所要時間: 数日〜数週間(塩湖の規模や地下水の深さに依存)

  • ポイント:この塩水にはリチウムだけでなく、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどのさまざまな成分が含まれています。塩湖によってリチウム濃度が異なり、濃度が高いほど効率的な抽出が可能です。


2. 蒸発池への移送

  • 工程: 汲み上げた塩水を広大な蒸発池(Evaporation Pond)に移送します。これらの池は通常、塩湖周辺に建設され、太陽光と乾燥した気候を利用して塩水を蒸発させます。

  • 所要時間: 数日(塩水の移送と池への分配に必要な時間)

  • ポイント:蒸発池の大きさは数十平方キロメートルにも及ぶことがあり、池の形状や分割方法により効率が変わります。蒸発池は一般的に複数の段階に分けられ、各池で異なる成分を濃縮します。


3. 自然蒸発による濃縮

  • 工程: 蒸発池に塩水を留め、自然蒸発を利用して水分を飛ばし、リチウムを含む塩水の濃度を高めていきます。このプロセスは非常に時間がかかります。

  • 所要時間: 6〜18か月(地域の気候条件による)

  • ポイント:蒸発の過程で、まずナトリウム(塩化ナトリウム)やマグネシウムといった成分が析出し、順次取り除かれます。最終段階でリチウム濃度が高まった塩水(リチウム濃縮液)が得られます。気温や湿度、降雨量などの気候条件が蒸発効率に大きく影響します。


4. リチウム濃縮液の収集と化学処理

  • 工程: 蒸発池で濃縮されたリチウム液を収集し、化学処理を行います。この処理では、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)などの化学物質を加えてリチウム炭酸塩を沈殿させます。

  • 所要時間: 数週間〜数か月(施設の規模や処理方法による)

  • ポイント:リチウム濃縮液を処理して得られる主な製品は「リチウム炭酸塩」です。このリチウム炭酸塩は、さらに水酸化リチウムなどの化合物に加工されることもあります。


5. 製品の乾燥とパッケージング

  • 工程: 化学処理後に得られたリチウム炭酸塩を乾燥させ、粉末状に加工し、パッケージングします。これが市場に出荷される最終形態の一つです。

  • 所要時間: 数日〜1週間

  • ポイント:製品の品質管理が重要で、純度99%以上のリチウム炭酸塩が求められる場合が多いです。生産量や用途に応じて、さらに加工されるケースもあります。


全体の所要期間

塩湖型リチウムの回収プロセス全体には、最短でも1年程度、場合によっては18か月以上の時間がかかることがあります。これは主に蒸発池での濃縮工程の長さに起因します。


終わりに

リチウムは、現代のエネルギー社会に欠かせない戦略的資源として、その重要性をますます高めています。リチウムトライアングルを中心とした塩湖型リチウムと、オーストラリアの鉱石型リチウムは、それぞれの強みを生かしながら世界の需要を支えています。しかし、環境問題や地政学的リスクといった課題に直面しているのも事実です。

これらの課題を乗り越え、持続可能な供給体制を構築することが、エネルギー転換を加速させるカギとなるでしょう。電気自動車や再生可能エネルギーの普及とともに、リチウムの需要は引き続き拡大すると見込まれています。リチウムが「未来の金属」として、私たちの社会をどのように変革していくのか。これからの動向に、さらに注目が集まることでしょう。

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