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白鯨またはモービィデックを読む

白鯨またはモービィデックを読む

ハーマン・メルヴィル『白鯨 Moby-Dick or, The Whale』
田中西次郎訳

語源と文献(序文)
はじめから読者は戸惑う、これは小説なのか?冒頭40ページに及ぶ鯨についての博物的教養が羅列する。

「白鯨」が出版された1851年の時代背景を知っていた方が、読書の手助けになるであろうから、ここに記する。

1760年 産業革命がイギリスで1760年代から1830年に起こる。
1843年 イギリスで世界最初のパッケージツアーが事業化された。
1850年 米国すべての州で鉄道が建設された(ミシシッピ州以外)。
1852年 マサチューセッツ州で初めて義務教育制度が立法化された。
1853年 黒船来航 (日本)
1867年 徳川幕府終焉 (日本)
1874年 帝国郵便をもとに万国郵便連合が発足した。
1878年 ヴェルヌ「八十日間世界一周」発行

原文の英語は教養のあるアメリカ人でも手こずるもので、英語の教養が充分無ければ読み通せるものではない。「白鯨」が読めるイコール知識人であると言う通説がある。

1章 海妖(あらかし)
“まかりでたのはイシュメルと申すもの”という有名な文章で始まる。
イシュメルは陸の生活にうんざりし気鬱症が手に負えなくなってる。
原題は-Loomings〈危険・心配などが〉気味悪く迫る。
海への憧れが語られる。そこでは陸の法は通用しない、船、風、波、そして鯨が法となる。イシュメルは役職のない下っ端船員として捕鯨船に乗り込もうとしている。
旧約聖書からの引用が多く、ユダヤ・キリスト教の素養がないと読み進めるのは容易ではない。固有名詞が多く、神話、寓話、逸話が数多く挿入されて行く。
<豆知識>
イシュメル=イシュマエルは85歳の老齢になるまで子宝に恵まれなかったアブラハムの長男。母親は女奴隷ハガル。
アブラムはノアの洪水後、神による人類救済の出発点として選ばれ祝福された最初の預言者。「信仰の父」とも呼ばれる。
その後アブラハムの正妻サラに子供が出来たため、イシュマエルは母ハガルと共に砂漠へ追放される。

アラブ人はアブラハム = イブラーヒームとイスマーイール(イシュメル)を先祖とみなしている。イスラム教の立場では、イブラーヒームとはユダヤ教もキリスト教も存在しない時代に唯一神を信じ帰依した完全に純粋な一神教徒であり、イスラム教とはユダヤ教とキリスト教がいずれもイブラーヒームの信仰から逸脱して不完全な一神教に落ちた後の時代にイブラーヒームの純粋な一神教を再興した教えである、と考えられた。

2章 旅嚢(りょのう:旅行のとき必要な物を入れて持っていく袋)
たった2枚のシャツを旅行鞄に入れイシュメルはニューヨーク・マンハッタン湾からニュー・ベットフォードそしてナンタケットの港町に捕鯨船を探しに向かう。運悪くナンタケット行の船は出たばかり、ニュー・ベットフォードで足止めをくらう。
ほとんど文無しなのイシュメルは、Peter Coffinの経営するうらびれた安宿:
汐吹亭に宿泊する事になる。

3章 汐吹亭
汐吹亭はこれから始まるイシュメルの運命を予言するようなもので溢れている。
入り口に飾られた陰鬱な絵には、半ば沈没した船は3本のマストだけを水面にあらわし、海上にのたうちまわっている。憤怒(ふんど)した巨鯨は自らをその3本のマストに串刺しになっている。
バーには巨鯨の顎の骨が、その口を大きく開き飲み込むように設計されている。バーテンダーはヨナと呼ばれていた。
夕食は肉とジャガイモと蒸し団子。

部屋が空いていないので、イシュメルはベッドを他の銛(モリ)打ちとシェアーすれば宿泊できると告げられる。その男は今”首を売り”行ってると言う。
”首を売り”と聞いてニュージーランドの人食い人種を思い出すイシュメル。
案内された部屋にはその男の大きな銛が立てかけられ、ヤマアラシの皮で作ったようなポンチが置いてある。モンキージャケットを脱いでベッドに潜り込むが心配で寝れたものではない。イシュメルは、その男が帰って来るのをベッドでうとうとしながら待つ。
身体全体に入れ墨がある大男のクィークェグが戻ってくる。イシュメルがいる事を知らないクィークェグは侵入者に驚き、殺すと叫ぶ。亭主に助けを求めるイシュメル。
亭主「クィークェグ、いいかね、おまえわしが分かる、わしもおまえが分かる、この人はお前と寝る、わかるか?」
クィークェグ「わかった」
騒動が収まり同じベットを共にする二人。

4章 かけ布団
翌朝、クィークェグはイシュメルを抱きしめるように寝ている。その腕の感覚はイシュメルに幼い時に経験した不思議な夜を思い出させた。夢うつつのイシュメル少年は金縛りに会い(文にはそう書いてない)、何か超自然の手が自分の手を握っているような感覚を味わった。その感覚は何百年と長い時間続いたような気がした。
クィークェグは起きると礼儀正しく、この部屋は全部イシュメルが使っていいと、モンキージャケットを着こみ、銛を持って出て行った。
野蛮人というのは本来繊細な神経を持ち、礼儀正しいと読者に語り掛ける。

5章 朝飯
バー・ルームで朝食を取る。沢山の銛打ちが集まってるので、何か捕鯨にまつわる話が聞けるかと思っていたが、食堂は静まり返っている。
クィークェグは半生肉を自慢の銛の刃を使って切って食ってる。銛をひと時も手放す気がないらしい。

6章 街
ニュー・ベットフォードには一攫千金を狙う田舎の若者、クィークェグのような異邦人(フィージー島、トンガ島、エロマンゴ島人、パンナジア人)が溢れている国際的港町であった。それに加え捕鯨成金の奥様方も華やかに街を闊歩してる。

イロマンゴ島は、南太平洋、バヌアツのタフェア州最大の島。
1830年代から各国が宣教師を送り込み教化を試みたが、送られてから数年以内に原住民の人間狩りに遭って虐殺されて食べられるという事件が頻発していた。
人食い人種が捕鯨に携わっていた、荒くれものたちのたまり場である。

7章 会堂
礼拝堂を訪れるイシュメル。そこは海で命を落とした男たちの霊が祀られている。何故か異教徒のクィークェグの姿も見える。おびただしい数の捕鯨者の墓にたじろぐが、ナンタケット行に迷いはない。たとえ絶海で死そうとも、わたしの肉体はわたしの人間性(魂)にとって滓(かす)でしかない、とイシュメル。

8章 説教壇
昔船乗りだったと言われるメイプル神父の説教を聞く。
「世界はおのが旅路をゆく船であり、船路に終わりはない」。

9章 説教
メイプル神父がヨナについて語り、その罪について語る。「白鯨」では何度もヨナについて語られる。
ヨナは神が用意した大きな魚に飲み込まれ3日3晩魚の腹の中にいたが、神の命令によって海岸に吐き出された。

10章 親友
イシュメルはクィークェグの神ヨシュに祈り、クィークェグはキリストに祈る。
イシュメルは考える。キリスト教が寛容なら、異教徒の神を祈ったからと言ってなんの罪になるうか。クィークェグは友情の印として、イシュメルに持ち金の30ドルの半分を渡す。
クィークェグはイシュメルの額をこすり合わせて夫婦(bosom friend)になりましょうと言って、同じベッドに二人に入る。
1851年に当時のアメリカで異教徒と友人になるというのは、、なかなかの事である。

11章 寝巻
ベットの中で二人は煙草を燻ぶらせ、そして話続ける。
夜も更ける。

12章 生い立ち
クィークェグは生い立ちをつたない英語で語り始める(文字は読めない)。ココヴコー島という地図にもない島の王家の子孫であること、王を継承するはずだったが、もっと世界を見てみたい思いから、その時停泊していたアメリカ行きの船に密航した。
イシュメルが捕鯨船へ乗船する為にナンタケットに行くと言うと、自分も同じ船に乗ると言う。

13章 一輪車
ナンタケット行のモス号に乗り込むクィークェグとイシュメル。
一輪車を借りて波止場へ荷物を運搬するクィークェグはその昔、使い方が分からず肩にしょった過去を話す。文明を知らないと苦労する。
蒸気船モス号には初めて捕鯨へ乗り込もうとしている若衆もいて、野蛮人クィークェグをからかうが、高々と宙に放り出される。
高波でモス号が傾くと、その若い衆は海に放り出されてしまう。クィークェグはすばやく苗を自分の腰に結わえ、海に飛び込む。寒風吹く11月の海である。
無事その男は救助される。
クィークェグは誇りもせず、甲板で煙草を吹かす。

14章 ナンタケット
無事ナンタケットに着く。
インデアンの子供が鷲にさらわれた寓話が挿入される。

15章 クラムチャウダー
汐噴亭の主人ピーター・コフィンはナンタケットで従兄ハセイが営む「鍋屋」を紹介してくれた。入口には絞首刑台のような古い中檣(ちゆうしよう=メインマスト)が立てかけてある。コフィン(棺桶)、捕鯨船員の墓、絞首刑台のようなマストといい、悪い予感がイシュメルによぎる。それを振り切りイシュメルたちは門をくぐる。クィークェグとイシュメルはこの上なく上等の鱈と貝のクラムチャウダーを食べる。現在でもマサチューセッツ州地域ではクラムチャウダーは名物料理である。

16章 その船
クィークェグは守護神のYojoヨージョに尋ねる、一番マシな捕鯨船を選ぶにはどうしたらいいか、ヨージョの答えはイシュメルに任せろだった。
イシュメルは3曹の捕鯨船に目星を付ける。デビル・ダム号、ティト・ビッド号、ビークォド号。古船であるがその美しさに惚れ、ビークォド号の船長と交渉しに船上へ向かう。
ビークォド号の由来は昔滅んだインデアン種族の苗字らしい。
船上に上がると年老いた水夫を見つけ、自分が働ける捕鯨船を探してると告げる。経験があるのかと聞く水夫(ピーレッグ元船長)、商船はあるが捕鯨船はないと正直に答えるイシュメル。
ピーレッグは同じクエーカー教徒のイシュメルを気に入り、ビルダッド元船長(退役捕鯨家)へ紹介する。雇用契約書にサインをする間、イシュメルの給料について二人の罵り合いが続く。ビルダッド船長はイシュメルを最低賃金で雇う気らしい。777番配当、ピーレッグ船長はそれは安すすぎるので300番配当で契約をしろと食い下がる。
船長であるエイハブを知ってるか?とイシュメルに問う。エイハブは人嫌いで滅多に人前に出てこない、片足もない。鯨に食われたのじゃ、とピーレッグ船長。
イシュメルはエイハブという不吉な名前について質問すると、自分でつけたわけではない、狂った後家のお袋がつけたと答えるピーレッグ船長。
ピーレッグ船長にエイハブは立派な船長である、悪口、陰口を吐いてはならないと諭される。
<エイハブ=アハブ>
第6代のイスラエル王オムリの子に生まれ、その死後に跡を継いだ。そして22年間王位にあった。
旧約聖書には、エイハブ=アハブはシリアの王女イゼベルを妻に迎えた。イゼベルはシリアのバアル崇拝をイスラエルに導入した。
結果、それ以前から存したヤハウェ信仰や金の仔牛信仰に加えた混合宗教がイスラエルに展開された。これを旧約聖書は偶像崇拝として非難し、さらにはヤハウェ信仰への弾圧と評した。このため、旧約聖書では「北王国の歴代の王の中でも類を見ないほどの暴君」として扱われた。

<ピークォド号>
コーヒーチェーン・Starbucksは始め捕鯨船の名前「ピークォド(Pequod)」を候補に挙げたが、「pee」(おしっこ)の「quod」(刑務所)に聞こえるということでボツになったのこと。

17章 ラマダン
イシュメルが「鍋屋」クィークェグがいないことに気づく。部屋には鍵がかかっており、隙間からは、危険なので銛は部屋に持ち込まないようにと「鍋屋」女将に預けていたはずのクィークェグの銛が立てかけあることが見える。心配でイシュメルはドアを突き破る、そこにはクィークェグがヨージョを頭にのせラマダン(断食)中であった。ラマダンで胃の調子がおかしくならないかと聞くと、昔、村の戦闘で敵をたくさん殺し食ったが何ともなっかたとクィークェグが答える。

18章 符牒 (ふちょう)
キリスト教の洗礼をしなけなければビークォド号へ搭乗出来ないとビルダッド元船長はクィークェグの乗船を拒む。
イシュメルはクィークェグは「キリスト教第一組合教会員」であり、太古以来の正教教会であると嘯(うそぶ)く。なかなか信じないビルダッド元船長。
試しに銛をあの的(タール)めがけて投げてみろとクィークェグを試すが、見事射止める。
腕を気に入り乗船を認めるが、信心深いビルダッド元船長は異教徒のクィークェグの乗船には最後まで乗り気がしない。文字が書けないクィークェグの代わりビーレグ船長は符牒 (=記号)を契約書に記入してやる。

19章 予言者
契約後、宿にもどるとする二人にイライジャと名乗る男が現れ、エイハブについてお前ら知って契約をしたのかと絡む。
イシュメルは取り合わず、その場を去ろうとするが、意味ありげな話を続ける。
イライジャ「片足を鯨に食いちぎられたエイハブ船長の秘密を知ってるか?」「知ってる」とイシュメルは嘯(うそぶ)く、そうかと言って消えてしまう。

「白鯨」では予言と前兆が何度も語られ、何重にも重なりあっている。
<イライジャ(エリヤ)>
旧約聖書に暴君エイハブ王(アハブ)に抵抗する預言者として現れる。
ナボテの葡萄園の説話は有名:アハブ王がナボテを殺害し、その葡萄園を略奪したとき、エリヤが現れ「犬がナボテの血をなめた場所で、犬がお前の血をなめるであろう」と予言する。
イシュメルは、エイハブの名前を初めて聞いた時、ビーレグ船長へ「犬に血をなめられた男」かと聞き返して怒られてしまう。ビーレグ船長が知っているエイハブ船長は船員を貴ぶ経験豊富な船長である。

20章 全船活況
3年間の航海のために次々と荷物が詰め込まれる。
塩漬牛肉、乾パン、水、燃料、樽に使う金具等。
ビルダッド元船長の妹チャリティ叔母さんも手伝いに来ている。30ドルの投資を今回のビークォド号の捕鯨にしているらしい。リュウマチ治療のために フランネルを一巻き運んでるという興味深い記述もある。
エイハブは船長室に籠って出てこない。
<豆知識>
真水はすぐに腐ってしまうため、航海中は主にビールやワインなどの酒を飲んでいる。腐敗を避けるために酒を水で割って支給するようになる。これが、「グロッグ」。酒に酔ってふらふらの者を「グロッキー」と言うが、この「グロッグ」が語源だとされる。
ビスケットは長期保存ができるが、ひどく硬くてまずい上、ネズミに食い荒らされたり、ウジが湧いてしまうことも多かったとされる。
塩漬け肉は質の悪いコンビーフのようなもの。そのままではなく、スープにしたりして食べる。

21章 乗船
翌朝、イシュメルとクィークェグが夜明け前、船に戻ると4~5名の謎の集団が船に乗り込むもうとしている事に気づく。
またもやイライジャが現れ、あいつらを見たか?と聞く。イシュメルに今にあいつらの正体が分かると言って消えてしまう。
船上では艤装(ぎそう)者が作業している、他数名も作業中である。
就航前イシュメルとクィークェグの会話は多いが、出港後は二人の会話は文章からほとんど消える。
<艤装(ぎそう)>
艤装とは船を機能させるために必要な装置や設備の総称であり、またそれらを取り付ける作業。

22章 メリークリスマス
クリスマスの寒い日、ナンタケット港を船出をする、大海に出るまでビークォド号は水先案内人としてビーレグ船長とビルダッド元船長が同乗する。エイハブはまだ船室から出てこない。ビーレグ元船長が代わりに船尾に全員を集める。一等航海士のスタバックス、第二航海士スタブ、第三航海士のフラスクが姿を現す。

23章 風下の岸
ニュー・ベッドフォードの汐吹亭で見かけたベルキントンという勇ましい長身の男を舵席で見かける。4年間の危険な航海から上陸したばかりなのに、一息することもなく、また爆裂な長期航海にまた乗り出す男に畏敬の念と共に恐怖を覚える。
今後この男についての記述はない。
捕鯨に一度手を染めたものは、二度と陸の生活に戻れない事が暗示される。

24章 弁護
イシュメルは捕鯨について、世間が思っているような残忍な仕事ではなく、世界を探求する上で最適な仕事であり、尊敬に値するものでると述べる。
世界一周を成し遂げた航海家、バンクーバー、クック、クルーゼンスタンに比べてもナンタケットの船長は引けを取らない大冒険家である。
ここで鯨を描いた大作家は無く、捕鯨を記した大歴史家もいないとイシュメルに語らせる。
<1850年代のアメリカの捕鯨産業の概算>
1万8000人以上の海員
700以上の船体
400万ドル以上の消費(捕鯨の準備品)
2000万ドル以上の船価
年間700万ドル以上の収益

25章 追記
捕鯨の目的はその豊富な脂肪から採れる油である。
最も上質な油であり、かなりの低温であっても凍らない。

26章 騎士と従者(その1)
第一航海士スターバックスについての記述。ナンタケット出身、クエーカー教徒背が高く、筋肉質、迷信深く臆病であるが船内では最もが常識人である。
「鯨を怖がらない奴は、俺のボートには乗せない」「勇気とはいつも手に持っている道具のようなものだ」を信条にしている。
従者にクィークェグを選ぶ。
Starbuck のbuckは抵抗する意味がある。ビークォド号内でエイハブ船長に唯一助言を出来る乗員でもある。
因みにスターバックスがコーヒーを好んで飲むシーンは「白鯨」にはない。

27章 騎士と従者(その2)
第二航海士スタブとその他乗員について。
スタブは鱈岬(Cape Cod)の産まれ。陽気で明るく常にパイプをくわえている、危険な任務には自ら進んで向かうが、危機一髪の時も平静に落ち着いて働く。口は悪い。
スタブの従者はインデアンのダシュテゴ、古くからナンタケットの捕鯨船へ人材を提供しているゲイ岬(インデアンの居留地)の出身。勇猛無双。
第三航海士のフラスクはチビの白人、その従者は黒人のダグー。2メートルの巨漢である事を利用して、捕鯨の際はフラスクがその肩に乗っかり指揮を執る。
当時のアメリカ捕鯨はアメリカ軍隊と同じく、半分がアメリカ人(白人)、半分が非白人で構成されていた。捕鯨船はアゾレス島人が多く働いていた。
途中、アゾレス島に立ち寄った際そこで人材の補給をしたからである。また寄港した際、乗員の脱走は頻繁に起こった。
アゾレス諸島は大西洋の中央部(マカロネシア)に位置するポルトガル領の群島。

28章 エイハブ
数日間、大西洋を進むビークォド号であったが、誰もまだエイハブ船長を見たものはいない。船長室に雲隠れしている様子。ある朝甲板に出て見るとたくましい中年の男が立っていた。片足には鯨の顎で作った義足がついており、縦に大きな縫合線のような白い傷が垂直に身体を走っていた。エイハブ船長は何かに放心している様子であった。
それからも日々の航海にはエイハブ船長は携わる事はなっかた。

29章:エイハブ登場、つづいてスタブ
エイハブ船長とスタブ(第二航海士)の罵り合い。
夜甲板を義足で歩くのは眠りの妨げになるととスタブが揶揄すると、エイハブはスタブを犬畜生と罵る。
またエイハブ船長が毎晩、船倉の中に潜り込でるらしいと、団子小僧(dough boy)から聞かされる。

30章:パイプ
1ページ少々の短い章。
エイハブ船長がパイプを煙らせながら独り言。
煙草は止めたとパイプを海へ投げる。

31章:女王マブ(夢を支配する妖精の女王)
タイトルは冒険小説風だが、スタブがフラスクに語るエイハブの義足に蹴られる夢。エイハブはいつしかピラミッドになっている。
スタブはエイハブから白い鯨に注意しろと告げられる。

32章:鯨学
イシュメル=メルビルは数々の博学者、冒険家、科学者を総動員して鯨についての見聞を並べる。その頃は鯨は肺と温血を持った魚として分類されていたようである。
鯨の種類についての文献が続く。
抹香鯨、セミ鯨、背鰭鯨(イワシクジラ)、座頭鯨、長須鯨、硫黄鯨(しおながすくじら)、イッカク、ハナゴンドウ、シャチまで続く。

33章:銛打ちの頭
イシュメルの語りが続く。
捕鯨船には船長と並ぶ重要な役職がある。銛打ち番頭specksnyderである。
鯨にとどめを刺す役割を担う。船長室の隣には番頭室があるのだが、この船にはない。
イシュメの独り言:
この世での名声なるものは、衆愚のみじめな水準を疑う余地なく、ぬきんでていることよりも、むしろ「神に召さるる無為」、隠れた少数の選ばれたる人々に比しては、無限に劣ることによって得られるのである。

34章:船室の食卓
塩漬牛肉が主食。
上司より遅くまで食べていてはならぬ。上司が食事を終えれば、下司も席を立つ。デブのフラスクはこの仕来たりのため、いつも腹ペコ。

35章:しょう頭
24時間寝ずの番をする。鯨はどこにもいない。満天の星空と見張り番。
宇宙(蒼空)を見過ぎて、海に落ちるなよ、汎神論者諸君!
汎神論者=認識論的には直観を重んじ,倫理学的には人道主義,個人主義の立場。

36章:後甲板
後甲板に全員集合。エイハブの演説が始まる。インデアンのタシュテゴの口から初めてMoby Dickの言葉が発せられ、狂喜するエイハブ。この捕鯨は金もうけのためではなく、エイハブの片足をもぎ取った白鯨=Moby Dickへの復讐のために出港された。浮かぬ顔のスターバックス。冷静沈着な一等航海士のスターバックス。何かが間違ってる。
エイハブがふるまうGrogを廻し呑む船員。鼓舞するエイハブ。

37章:落日
エイハブの独り言:狂ってる? それがどうした。。
モービィデックへの復讐の炎が全身を覆う。

38章:たそがれ
スターバックスの独白:エイハブがモービィデックへ固執する事に危惧する。
いつかエイハブの狂気が乗員の命を危険に曝(さら)すだろうと。

39章:初夜直
スタブの独白:はははは、俺は偉い!スターバックスのビビり野郎!

40章:深夜の前甲板
総勢20名の水夫たちの取り留めない会話と喧嘩(乗員の総数は約30名)。捕鯨船がいかに外国人たちによって営まわれているか分かる。多国籍企業。
ナンタケットの水夫、オランダ人、フランス人、アメリカ黒人、インデアン、アイスランド人、マルタ島人、シシリー島人、ロングアイランドの水夫、アゾレス島人、中国人、マン島の老水夫、インド人、タヒチ島人、ポルトガル人の水夫、デンマーク人の水夫、イギリス人の水夫、スペイン人の水夫、サンチャゴの水夫、ベルファーストの水夫

41章:モービィ・デック
一旦港を出た捕鯨船は、他の捕鯨船に出会う機会もなく、情報交換もなかな出来ない。捕鯨は1年から3年にも及ぶ長い航海。
白鯨がどの海を彷徨ってるかは皆目分からない。分かってることは、白鯨は抹香鯨であり、他の鯨より凶暴で、かつ理知的なこと。人間の心さえ欺くほど狡猾。
白鯨の特徴はその巨大さと雪白の身体、皺だらけの額、ピラミッド型の白瘤(コブ)。
「この捉えがたい悪こそは、世の始まりから存在したのだ」

42章:白鯨の白さについて
白い巨体が何故恐怖なのか、それは白色が両義性を持っているからという説明。
羨望の対象としての白色:白馬、真珠、天使、大理石、椿、花嫁、等々。
畏怖の対象としての白色;白子、白いサメ、白山脈、白塔、死人そしてアルバトロス。
アルバトロス(アホウドリ 信天翁)に関する説明が長々と続く。
溺死した船乗りの魂が宿った鳥として不吉の象徴する鳥。

43章:聴け
ハッチ(倉口)の下から聞こえる咳のような音が聞こえる。

44章:海図
船長室に籠り、エイハブが海図を見ながら抹香鯨の餌場から移動先を読み取ってる。
しかし、はぐれ鯨のモービィ・デックはその限りではない。
復讐心のために眠れぬ夜を過ごすエイハブ。

45章:わたしは証言する
モービィ・デック以外の悪名高き巨大鯨の記述。
モンテール・トム
ニュージーランド・ジャーク
日本王モークァン
ドン・ミグエル
そして抹香鯨に襲われ大破した捕鯨船。
エセックス号
ユニオン号
ビュージー・ホール号
エセックス号の難破は実話で、モービィ・デックの元ネタ。
鯨に襲われた後、漂流する乗り組み員たちは人肉を食べて生き延びた。
最初に喰われたのがコーフィン。3章に出てくる旅館"汐吹亭"の亭主の名前も
コーフィン。coffinとは棺、ひつぎ。

46章エイハブの推量
またも復讐に身を焦がすエイハブが描かれている。
しかしモービィ・デックに遭遇出来るまで何年かかるか分からない。
1年、2年、いや10年。。
エイハブはモービィ・デック以外の鯨を狩る気は全くない。一頭も鯨が捕れなければ乗組員には一銭も入らない。それを知った乗組員たちがいつ謀反を起こすかわかならい。

47章 索畳(なわだたみ)造り
イシュメとクィークェグが甲板で索畳造りをしている。
インデアンのタシュテゴが突然抹香鯨の群れを発見、ざわめくビークォド号。
その時黒装束の5人の強靭たる男たちが現れる。あっけに囚われる船員。エイハブが船倉に忍ばせた、モービィ・デック狩りに選ばれたフェダラア指揮いる精鋭部隊。
43章の謎の音はこのフェダラアたち。
豆情報:抹香鯨が海に潜る時間は正確で、そのタイミングを見計らって海上で銛打ちたちは待ち構える。エイハブは団子小僧に時間を図らせる。

48章 最初の追撃
遂に抹香鯨現る。
エイハブ、スタバックス、スタブ、フラスクの4隻のボートに乗り群れを追う。
第二航海士スタブは乗員に罵詈雑言、楽に漕げ、あせるな、だれが気楽に漕げって言った、背骨が折れるまで漕げ、犬野郎、すっとこどっこい、居眠りするなボケ!
叱咤にはユーモアのセンスが必要。怒られた方が笑ってしう事が肝要。
小男のフラスクは黒んぼのダーグーの背中に乗り追撃。
スタバックスは鯨を追い詰め、クィークェグが銛を投げるが外す。
4隻は散り散りになり、スタバックスが乗ったボートは霧の海で迷子になる。
ずぶ濡れで寒気に震えているが、鯨捕りの男たちは有り余る筋肉を持ち、その筋肉が体の体温と精神を守護する。
スタバックスの乗員は霧の中、本船に救い出される。

49章 ハイエナ
ボートが転覆する事はよくあるのかとスタブ、フラスク、クィークェグに聞いて回る。
「そうだ」と言われ茫然とするイシュメル。
転覆したボートから救助されるのは、墓場から生き返ったラザロのようだと感じる。
並の抹香鯨さえこんな有様なのに海獣モービィ・デックなど命がいくらあっても足りないと慄くイシュメル。
イシュメルはクィークェグに遺言を託す。
ラザロの話はイシュメルの運命の予兆となる。
タイトルのハイエナであるが、他のタイトル同じく、内容と一致しないもがいくつかある。ハイエナはその顕著なもの。

<ラザロ>
ラザロが病気と聞いてベタニアにやってきたイエスと一行は、ラザロが葬られて既に4日経っていることを知る。イエスは、ラザロの死を悲しんで涙を流す。イエスが墓の前に立ち、「ラザロ、出てきなさい」というと、死んだはずのラザロが布にまかれて出てきた。

50章 エイハブのボートとその乗組、フェダラア
東洋人の密航者たちを、捕鯨船のオーナーたちは知らない。
エイハブが勝手に忍びこませた連中である。
リーダー格の老東洋人のフェダラアは頭にターバンを包み、他の乗員たちと交友を持とうとはしない。どんな素性かも分かりはしない。

51章 妖霊の汐
鯨骨を装うビークォド号が喜望岬に近づく頃、月明かりの中、フェダラアは
銀色の汐噴きを見つける。どよめく乗員だが、たとえ鯨の姿を見つけたとしても夜にボートを出す捕鯨船など百に一つもない。
鯨の姿を探す乗員だが、その姿は既にない。
翌日もフェダラアが汐噴きを見つけたと乗員に大声を出すが、その姿はどこにもない。それが3日続く。しまいに相手にする乗員もいなくなる。
喜望岬に到着するが、嵐がビークォド号を襲う。
嵐の暴風雨に立ち向かうエイハブは甲板に上り、大声を叫ぶ。
老船長の姿を見つめるスタバックス、このジジィは狂ってる。

52章 アルバトロス号
同郷のナンタケェトを離れ4年のアルバトロス号は船体も白ちゃけ、継ぎ接ぎだらけの船体は外形も錆で赤くなっている。エイハブはモービィデックの情報を聞き出そうとするが、すれ違ってしまう。海上で大船同士が接近するのは容易なことではない。

53章 洋上交歓
洋上で他の船と交流をすることをガムという。英語でGam。
しかし船の種類によってその交流は様々。
商船は捕鯨船を見るや、気どった足取りで過ぎてしまう。
奴隷船は積み荷が積み荷だけに素早く立ち去る。奴隷は生もの。
海賊船は”頭蓋骨はいくつ貯った”と聞くや、これまた足早に通り過ぎる。
捕鯨船同士の場合、船長同士が一つの船、一等航海士同士がもう一方に乗り込む。計4人だけが船を降り、ボートに乗り込む。

54章 タウン・ホウ号の物語
これは著者ハーマン・メルヴィルの捕鯨船での経験が元になってる。
1840年、捕鯨船アクシュネット号の乗組員となり、翌年太平洋へ航海、きびしい環境に嫌気が差し1842年7月9日、マルケサス諸島のヌク・ヒバ島で仲間と脱走、先住民タイピー族に出会う。
語り部はイシュメル、場所はリマのカフェ。聞き手はスペイン人たち。
舞台はタウン・ホウ号、登場人物は下級航海士スティールキルトと意地の悪い一等航海士のラドニィ。このラドニィは騾馬(ラバ)に似た男。船体に漏孔があり、ポンプで除水の重労働に疲労困憊しているスティールキルトに甲板掃除の仕事を言いつける。拒むスティールキルトに、ハンマーを振りかざすラドニィ。
スティールキルトが応戦し、ラドニィの顎にハマーが食い込む。鯨のように血を吹くラドニィ。それを聞きつけた船長は二丁拳銃を持ち出し、スティールキルトを成敗しようとする。自己防衛を主張するスティールキルトだが、前にも述べたように船内では上下関係は絶対。上司に逆らったものは鞭で折檻されるのが常。
水夫部屋に閉じ込められるスティールキルト。4日目には空腹と排出物の悪臭に堪えられなくなり、甲板に引きずり出される。鞭で折檻の時が迫るとき、船長になにかをつぶやくスティールキルト。急に折檻をやめる船長。何をつぶやいたかは謎。

数日後、タウン・ホウ号の前に巨大な鯨が現れるモービィ・デック。
全員戦闘用意、4隻のボートで出撃。その1隻に乗り組むはスティールキルトとラドニィ。モービィ・デックの背に暗礁するボート、その瞬間海上に投げ出されるラドニィ。それを咥え海中深く潜水する白鯨。次に浮上した白鯨の歯にはラドニィのシャツの切れ端が見えるだけ。
モービィ・デックの攻撃を受け、浸水激しいタウン・ホウ号はタヒチ近くに港にやっとのことでたどり着くが、36人乗組員の内、5人以外、残りの乗務員全員はスティールキルトと共に脱走する。

<上>完結


<下>

55章 荒唐なる鯨の絵について 
古今東西、鯨の絵が如何に出鱈目か、豚のような絵からカボチャような鯨まで、想像上の生き物として描かれてる。特に海上を泳ぐ鯨の絵は皆無。

56章 やや誤謬少なき鯨の図
フランス画家Ambroise Louis Garnerayの鯨の絵について語る。

57章  油絵、象牙、木彫り、金石彫刻、および山中、星座にみる鯨について
鯨とレヴィアタンとの関係性、鯨の星座について語られる。
片足を抹香鯨に食いちぎられたロンドンの乞食の話が入る。

レヴィアタンは、旧約聖書に登場する海中の怪物。悪魔と見られることもある。 「ねじれた」「渦を巻いた」という意味のヘブライ語が語源。原義から転じて、単に大きな怪物や生き物を意味する言葉。

58章  フリット
プランクトンの大群の中に微睡むセミクジラ。
抹香鯨捕船のビークォド号はその場を何食わぬ顔で通り過ぎる。何故セミクジラは捕らないのか不明。鯨捕上の規定があるのかもしれない。
フリット: brit はセミクジラが食べる甲殻類のプランクトン。
セミクジラをはじめとするセミクジラ科のクジラは肥えた体形で動きが遅く、沿岸部に接近する事が多い上に好奇心も強く、脂肪分が多く死んでも沈まないなどの理由から捕獲が容易であり、他方、鯨油や鯨肉の採取効率に優れ、工芸材料として便利な長い鯨ひげを有しているなど利用価値が高かったことから、古くから世界各地で捕鯨の対象とされてきた。 セミクジラ属の英名の Right Whale の Right は漁に都合がよいという意味。
先ほど出てきたアルバトロス号はセミクジラ捕鯨船。

59章  槍烏賊
ジャヴァ島(インドネシア)を航行中に、大男の黒人ダグーが巨大なイカを白鯨と見間違える。
スタバックスにとっては巨大なイカは不吉な前兆。見たものは港に帰れない。
ノルウェーの神話に出てくる大クラーケンは巨大イカであり、旧約聖書に現れる巨人族アナクもそれである。

60章 鯨索(なわ=縄)
捕鯨には索はもっとも重要な道具。マニラ縄を使用する。槍にそれを結び鯨を引き寄せるが、これが曲者で、暴れる鯨の前ではこの縄がこんがらがる。仕舞いには自分の首に絡まり水夫の命取りになるばかりか、ボードにも巻き付き鯨と共に海底深く沈む原因にもなる代物。イシュメルは独ちる、首に縄のかかってない人間などいない。それが陸か海での違いだけである。

61章 スタブ、鯨を仕留める。
大イカはスタブにとっては善兆。ビビりのスタバックスとは違う。実際抹香鯨の好物はイカ、タコである。
穏やかで無風、凪インド洋、イシュメルは見張り番なのだが微睡みの中、突然白い泡が沸き上がる。万力で縄を握り締めるイシュメル。
4隻のボートで追跡。スタブの怒号が飛び交う。落ち着け、落ち着けキュウリみたに落ち着け!長身のインデアンタシュテゴの銛が刺さる。
長時間の死闘のすえ巨大な抹香鯨を仕留める。

62章 擲銛 (投げつける・もり)
イシュメルの捕鯨に関する洞察。
重い銛を投げる距離は30フィート以上(9m)に及び、命中率は低い。
命中は10回に1回以下。
ボート漕ぎの船員が途中で銛打ちの役を務めるのだが、すでに追跡中にその力を使い果たすため、なおさら命中率を下げる非効率さがまかり通っている。
銛打ちは銛打ちの役に集中すべし。

63章 叉桂
各ボートには二本以上の銛が用意されているが、鯨との格闘の際はこの銛が
自分の所に跳ね返ってくる。まして数本の銛が用意された場合、4隻のボートの銛は交差し銛打ちにとっては首切り刃になる。

64章 スタブの夜食
スタブは仕留めた褒美に鯨肉をステーキにして食する。
西洋人は鯨肉を食わないと思っていたが食うらしい。
たぶんそれはスタブが美食家であるからだろう。
エイハブは浮かぬ顔で絶望している。もう彼には捕鯨の楽しみや喜びは遠の昔に消えていったのだ。
スタブは興奮冷めやらぬず老黒人の料理番を夜中に呼び出し、ステーキの焼き方にケチを付ける。揶揄(からかう)だけ揶揄い、船の横に捕獲した鯨を狙うサメに説教しろと命令する。哀れな老黒人は白人のスタブに逆らうことはご法度である。
多くの老黒人男性は膝を悪くして跛(びっこ)であるとの記述がある。当時の黒人労働環境が如何に過酷か想像できる。

65章 佳肴としての鯨
鯨肉についての豆知識編。
3世紀以前のフランスではセミクジラの舌は珍味。
当時イルカの肉も佳肴(かこう)グルメ料理であった。
抹香鯨の脳みそは美味とある。しかし陸上の人からは鯨肉食いは野蛮な行為とされていた。

66章 サメ退治
赤道直下の海はサメも多く、捕鯨してもサメに食われてしまう。6時間もすれば鯨は骸骨になってしまう。それに比べ大西洋はサメは比較的少ないらしい。

67章 脂肉切り
甲板に上げられた抹香鯨の解体。鯨の重さで船体も傾く、脂が多い鯨は甲板も油まみれになり、解体は一筋縄ではいかない。

68章 毛布 
鯨の皮はその脂を含むのかについてイシュメは検証する。温血動物なのに北海でも生き延びられるのは、その脂に秘密があるのではないかと推測する。

69章 葬礼
頭と切り取られ、脂肪(blubber)を削がれた鯨は海に流される。
その残骸はサメと海鳥の餌食となる。
解体された鯨は白い幽霊となって海を漂う。
この死骸を浅瀬や岩礁と見間違える未経験な軍艦や探検家もいる。

70章 スフィンクス
捕鯨に横づけされた鯨はまず頭を切られる。
その頭は抹香鯨の3分の1を占める、それを宙に吊るすため船体は傾いてしまう。その頭にエイハブは語りかける「地球というこの巨船の地獄のような船倉には溺れた何百万人の骨が低荷に積まれている、そこがお前のなつかしい故郷だ」

71章 ジェロボウム号の物語
ピークォドー号、同郷のジェロボウム号に遭遇する。捕鯨船には遠くからでも船名が選別出来るように船番号が記入されてる書物がある、それで信号のやり取りをするが、手旗信号かは記されてない。
ジェロボウム号のメイヒュー船長はボートで接近するが、自分の船に悪性の伝染病が発生しており、ピークォドー号への船上を辞退する。そのボートに乗ってきた小柄で黄色い髪のそばかすだらけの若い男は、奇怪極まりない行動をとる。その男はは大天使ガブリエルだと名乗り、ジェロボウム号の乗務員を手なずけてる様子。メイヒュー船長はこの男を追い出したいのだが、時すでに遅く乗務員たちは彼に洗脳されている。エイハブはメイヒュー船長に白鯨を知らないかと聞くと、陰惨な物語をエイハブに語り始める。出港してから2年近く経った時、ジェロボウム号は白鯨に遭遇する、ガブリエルは白鯨はシェイカー教徒(自分の宗教)の神の化身であり、決して攻撃してはならぬと警める。一等航海士のメイシィはそれを聞かずに出撃し、銛をモービィデックに突き刺すが、海に引きずり込まれてしまう。メイシィは海中深く沈んだまま出てこない。メイヒュー船長はエイハブに白鯨を追うのかと聞く、「そうよ」と答えるエイハブ。ガブリエルはエイハブへ「神を冒涜するものは地獄へ落ろ!」と叫ぶ。
捕鯨船はいろいろな手紙を預かっている、2、3年前の古い手紙もある。エイハブはスタバックスにジェロボウム号宛ての手紙がないか船室へ見に行かせる。唯一あったのはメイシィの妻からの手紙であった。

天使ガブリエルはキリスト教ではミカエル、ラファエルと共に三大天使。
聖書において「神のことばを伝える天使」。
この本では天使ガブリエルと預言者イライジャは狂人として描かれる。
シェーカーはイギリスからアメリカに渡ったクエーカーの一派で,ニューヨークを拠点に東部沿岸地域に設立されたキリストの再臨を信奉する教団。

72章 猿綱
解体作業の続き。
横づけされた鯨の油を削ぎ取るクィークェグ。船体と鯨の間に綱をはりそれを渡って行う危険な作業。船体の周りにはサメが獲物を狙っている。
作業を終え、冷え切ったクィークェグに団子小僧が生姜湯を渡すが、そんなもので身体が温まるかと怒りが爆発。スタバックスに頼んで酒(ラム)を貰う。

73章 スタブとフラスクがセミ鯨を倒して、それについて語る事
エイハブからセミ鯨を一頭捕れという命令が下る。
抹香鯨より一段劣るセミクジラを捕ることを訝しがるスタブとフラスク。
彼ら2隻のみで出撃。セミ鯨に引きずられ本船の回りをぐるぐる回ったボートはなんとか1頭仕留める。セミ鯨を捕鯨するのは抹香鯨の頭でバランスを失った本船に、その頭で重心を取り戻すため。フェダラアのアイデアらしい。以前からフェダラアの事が気に入らないスタブ、いつか奴を海に放り投げる計画をフラスクに話す。しかしフェダラアは東洋の悪魔なのでそんなことでは死にはしないとフラスクは語る。

74章 抹香鯨の頭
抹香鯨とセミ鯨の相違について。
抹香鯨
耳:外に開いており認識可
舌:極めて小さい
口:42本の歯がある
汐吹:一つ
哲学:プラトン派(この世界は不完全な仮象の世界にすぎない。不完全な人間の感覚ではイデアを捉えることができない)

75章 セミ鯨の頭
セミ鯨
耳:内に閉じており認識不可
舌:脂肪が多くなめらか
口:無数の髭に覆われてる。
汐吹き孔::ƒ型のふたつ孔 
哲学:ストア派(倫理を重んじ自然の本性に従う)

76章 破城鎚 
抹香鯨の前頭は固く分厚い。雄羊のように頭突き(ずつき)が最大の武器。
捕鯨船を破損させる程の破壊力がある。

77章 ハイデルベルヒの大酒樽
吊るされた頭の下に大樽が用意される。
抹香鯨の頭から500ガロンの大量の油が採れるが、甲板は油まみれになり足を取られる。こぼす量も半端ではない。

78章 大酒樽と釣瓶
90樽の油絞りが終わった頃、鯨の頭に乗って作業をしていたインデアンのタシュテゴが足を滑らし鯨の口に落ちてしまう、そして頭はそのまま海へ落下。
タシュテゴを助けるためにクィークェグが海へ飛び込む。鯨頭と共に海底に沈むタシュテゴ、鯨頭に孔を開け救出するクィークェグ。産婆が赤子を取り上げるように頭からその身体は取り出される。
イシュメルは思う。もしそのままタシュテゴが鯨頭の中で死んだのなら、鯨の銛打ちとして、なんと豪華な死に方であろう。

79章 大草原
鯨の前頭には多くの皺や窪みがあるが、そこから何か分かるのではないかとイシュメルは思考する。
スイスの神秘学で人相学者ラヴァテルを引き合いに出す。
原文ではphrenology:骨相学

80章 胡桃(クルミ)
鯨の脳はその巨体に比べ驚く程小さい。
イシュメルは骨相学をして、頭蓋骨より脊髄の方がその人物の本性を表わすと考える。脊髄が立派なものは高貴な魂をもつと考える。イシュメルは隆々たる背筋を持つ青年である。
故に脳が小さかろうが立派な脊髄をもつ鯨は高貴であるという結論に至る。

81章 ビークォドー号、ヴァージニア号と会う
ドイツの捕鯨船に出会う。一匹も捕鯨出来てないヴァージニア号はランプの
油にもこと欠く始末。ビークォドー号に鯨油を所望する。その時鯨の群れがあらわれる。その中の巨大な老鯨を追うビークォドー号、ヴァージニア号のボートたち。
軍配はビークォド号に上がるが、あまりの巨大さに横付け出来ず、本船は転覆しそうになる。老鯨を縛った縄を切り落とすクィークェグ。喪は海中深く沈んで行く。このような不祥事は抹香鯨では1頭に比べ、セミ鯨では20頭の割りで起こる。それをよそ眼にヴァージニア号はイワシ鯨を追い始める。
イシュメルはヴァージニア号が一頭も捕鯨出来ないのは、鯨に対して畏敬の念が足りないのだと考える。
豆知識:イワシ鯨(Sei whale)
1950年までイワシ鯨は素早く逃げることが巧みであり、また他の大型鯨と比較し少量の鯨油しか取れなかったため捕鯨の対象とならなかった。

82章 捕鯨の名誉と栄光について
捕鯨の神話的考察。
聖ジョージ、ペルセウス、ヘラクレスが退治した怪物は巨大な鯨であった、故に捕鯨者は英雄の仲間である。
しかしヴァージニア号などは捕鯨家の面汚しである。

83章 ヨナについての歴史的考察
鯨に飲み込まれたヨナについての神学的、科学的実証。
実はヨナは死んだ鯨の腹に三日三晩隠れていた等。

84章 槍の宙返り
ボートの底に油を丹念に塗るすクィークェグ、これがボートの速さを増すと信じている。そんな午後、鯨群が発見される。タシュテゴの銛が見事刺さるが、その鯨は海中に潜らず疾走する。そこで登場スタブ、10~12フィートの長槍に細い紐を結び遠投する。鯨の背に刺さっては返り、刺さっては返える。鮮血を噴き上げ絶命する鯨。祝いの酒を持って来いと叫ぶスタブ。

85章 噴泉
鯨の汐噴きについて。一度の汐吹で約1時間海中に潜るだけの空気を補充する鯨。その汐吹を浴びた漁師は失明すると信じられた。

86章 尾
鯨の尾はその身体の中で荘厳美である。しかし頭と尾ひれはどこららどこまでか厳密には区別がつかない。その破壊力で大勢の銛打ちは命を落としている。
「汝、我がうしろを見るべし、我が面(顔)を見るべきにあらず」エホバがモーゼに告げた言葉で終わる。

87章 無敵艦隊
この小説の中でも、最も躍動感があり読み応えのある章。サマーセット・モームが絶賛した章としても有名。
武器と糧食、3年分の水を積み込むビークォド号は全く寄港せずとも世界を周る事が出来る力量を持つ。これこそノアの箱舟であると語られる。
マラッカ半島を航行中のビークォド号。スンダ海峡は抹香鯨の好漁場。
鯨群を発見するが同時にマレー人の海賊にも発見させる。鯨を追うビークォド号、ビークォド号を追う海賊船。海賊たちを振り切った後、ビークォド号が遭遇したのは妊婦中の牝鯨の群れだった(泡食い(gally)って動かなくなった鯨の群れ)。それにつき進むボート、ドラグ(木の銛にウキが付いたもので、鯨同士をつなぎ留め、後で仕留めるための目印になる)で殺すだけ殺そうと群れの中に入るが、捕鯨に手こずる。群れの中を漂うボート。スタバックスとクィークェグは鯨の子供に慕わられ、母乳を与える母親鯨や、出産中の牝鯨を海中に見る事になる。
鯨の乳首は肛門の両端についている。またその母汁は美味で豊潤であると書かれてある。
せっかく群れに出くわしたのに捕獲できたのは一匹のみ。
「鯨多ければ漁すくなし」捕鯨界のことわざ。
スンダ海峡は、インドネシアのジャワ島とスマトラ島との間にあり、ジャワ海とインド洋とを繋ぐ海峡である。

88章 学校と教師
20~50頭の小群れを学校と呼ぶ。牝鯨を母体にした群れには大牡鯨が一匹加わる。牝鯨の大きさは牡鯨の3分の1にも満たない。その牡鯨は教師と呼ばれ、若い牡鯨が近寄ってと猛然と追い払う。若い牡鯨はブル(雄牛)と呼ばれ、喧嘩ぱやい。この二つの学校の違いは仲間の一匹がやられると牡鯨は見棄てるが、牝鯨はいつまでも寄り添う。

89章 繋ぎ魚と離れ魚
銛を打った鯨が他の船に捕獲された場合の権利の話。
仕留め鯨は船に横付けされている間は捕獲したものの所有になるが、逃した鯨はそれを拾った船の所有になる。たとえその銛が鯨にとって致命傷でも。

90章 頭か尾か
洋上で捕獲できず、陸に上がった鯨はもっと厄介で、その国の国王の所有になる。王が頭を取り、女王が尾を捕る。鯨には頭と尾しかない。
仕留めた漁師は泣き入りするしかない。

91章 ビークォド号、ローズ・バッド号に会う
フランス捕鯨船は両側に腐敗した鯨を横付けにしている。悪臭がビークォド号まで漂ってくる。その一匹にスタブたちが撃ち込んだドラグが見える。
スタブは悪知恵を働かせ、ローズ・バッド号の船長を騙し、腐敗した鯨の肚から龍涎香を取り出す事に成功する。1オンス金貨1ギニーの価値がある。

92章 龍涎香
龍涎香は鯨の老廃物から生成されるが、それを使用する陸の人間は知る由もない。じゃ香もしかりジャコウジカを殺してその腹部の香嚢を切り取って乾燥して得ていた。 聖パウロの言葉が引用される「卑しきものに撒かれ、栄光あるものに蘇る」
屁理屈である。
オランダ捕鯨について説明、自国に持ち帰るにはあまりに臭く、グリーンランドで解体をはじめた事が語られるが、ビークォド号の船倉にある鯨油は無臭である。

93章 海に捨てられた男
ピップという団子小僧と同じくチビの乗員がいる。黒人の小僧であるが団子小僧と違って陽気である。黒人はどの人種より陽気で軽快である。
スタブのボート漕ぎが手を負傷したのを機に、自分のボートにピップを乗せるが、縄を自分の身体に巻き付けてしまい役に立たない。2回目の追跡にもへまをして、ボートから落ちたまま、スタブに海上に放置されてしまう。本船に救いだされるが、それ以来おびただしい珊瑚虫の幻影を見るようになる。乗員はピップは狂ったと言い、イシュメルは「人間の狂気は天の正気」と説く。

94章 握手
鯨の部位による油絞り。
脳:永遠に搾っていたい程官能的な油。
白馬:尾びれの肥えた部分。
プラム・プデング:美味な油、例えるなら肥満ルイ王の太腿の肉をカツレツにした味。変な例えである。
廃肉:セミ鯨の背中から取り出された黒い油。
鉗子:尾にある腱質の短い紐。

95章 長袍
鯨のペニスとそれを包む皮の話。
長さは30cm、漆黒である。

96章 精油装置
間口3.0m奥2.4m高1.5mの巨釜が二つ入ってる精油装置が甲板中央に備えられ、脂を精油するための火が燃やさせる。その煙は悪臭で満ち、地獄の存在を証明するかのようだとイシュメルは説く。
釜の火は一晩中焚かれ、それを見つめていた当直番のイシュメルは舵を切り間違え、船を転覆しそうになる。

97章 燈火
1ページ以下の章。
捕鯨船はいかに油を潤沢に使えるかの説明。商船では王姫の乳より少量で水夫は夜を過ごす。商船の船室は暗闇であるが、捕鯨船の船内はまばゆいばかりに明るい。

98章 貯蔵と処理
休み無しに96時間も鯨を追い、本船までたどり着いたと思いきや、甲板で解体が始まる。それに続き脂絞り、精油作業、そして血と油にまみれた甲板をピカピカに磨く掃除が待ってる(未加工の油を灰汁として掃除に使用)ひと休みする間もなく「汐噴いてるぞ」のひと言で追撃が始まる。永遠に繰り返される残酷非道の人生。

99章 スペイン金貨
エイハブがマストに打付けたスペイン金貨に乗員たちおのおのが語りかける。
エイハブ「嵐よ来い、生まれる時も苦しいのだから、辛く生き、悶え苦しむのが人間にはお似合いだ、そうしとけ!」
スタバックス「神々は死の谷に住む俺たちをお守りくださってる」
スタブ「よく聞けスペイン金貨、てめえのここにある黄道は、人間の一生を一周りで、ひと段落するように書いてあるんだ」
黄道(太陽の周期)
クィークェグ「・・・・」
ピップ「エイハブ爺さん、白鯨はね、あんたを釘づけにするよ」

100章 脚と腕
イギリスのサミュエル・エンダービュ号に遭遇する。その船長プーマァに白鯨の情報を聞き出す。右の鰭(ヒレ)の近くには何本かの銛(もり)が刺さっている、瘤のある皺の多い頭を持つ巨大な白鯨の話をする。白鯨との死闘の際、一等航海士マウントトップが投げた銛が白鯨にはじかれプーマァ船長の腕に大怪我をさせる。傷口が腐り、腕の切断手術をすることになったと語るプーマァ船長。
鯨の骨で作った義手をしている。
もうあいつを追うのはごめんだ言うプーマァ船長を尻目に闘志を燃やすエイハブ。

101章 酒壺
イギリスの名門エンダービュが所有する捕鯨船サミュエル・エンダービュ号の話。この船はそれまで捕鯨の中心だった大西洋を遥か越え、日本海までその漁場を拡大した。その船でイシュメルが歓迎された時の話。
フィリップ酒(ビール、ラム、砂糖を混ぜたカクテル)を飲まされ、うまい牛肉をごちそうになる。
鯨捕りは太く短く生きて、楽しく死んでいくやつらであったとイシュメルは賛美する。陸の人間への軽蔑を仄めかす。
180トンの牛肉、ビスケット240トン、軟パン32トン、そのたビール、バター、貯蔵魚等の大量の食料を詰め込んで航行していた。
豆知識:ナンタッケト出身の捕鯨家メーシィとは、のちのアメリカ最大の百貨店Macy'sの末裔である。

102章 アーサシドの離宮
イシュメルの空想談義。
ソロモン諸島にある小群島のアーサシドには巨大な鯨骨で出来た宮殿があり、それを計測するイシュメルの妄想。

103章 鯨骨の計測
最大級の抹香鯨では全長27m、重さ90トンにもなる
あばら骨は10本、長いもので2.4mにもなる。脊髄の個数は40以上、最大の大きさは90cmになる。

104章 化石鯨
アダム以前、人間の時間が始まる前、その時代の鯨の骨がアルプス山麓、フランス、イギリス、ルイジアナ、アラバマ、ミシシッピにも発見されてる。
1842年にアラバマで発見された怪獣の骨はのちに鯨の骨と判定される。
鯨は太古の昔より存在し、その骨は大洪水によって世界中に流され点在している。

105章 鯨の大きさは減るのか?鯨は死滅するのか?
平均の大きさは22mであるが文献によると100mから243mの巨大鯨が記述されてるが、イシュメルはその大きさにつては懐疑的である。寿命も千年とある。
船員数40人で 48カ月間を航海し40頭の捕鯨が出来れば上出来でる。しかるに西部開拓時代にインデアやカナダ人が殺したバファローは4年で40万頭にもなるだろうから、如何に捕鯨が慎ましいか述べる。
メルビル(イシュメル)のユダヤ・キリスト教批判が含まれてる。
鯨たちはノアの大洪水ではノアの箱舟を軽蔑したに違いない。
<豆知識>
船員数40人の中には船医、樽(たる)屋、大工、鍛冶屋、料理番、清掃係等が含まれる。

106章 エイハブの脚
サミュエル・エンダービュ号から下船する時、エイハブは義足を破損してしまう。新しい義足を大工にオーダーする。素材は鯨骨。
エイハブは呟く「最上の地上の幸せさえも、その中につまらぬと思わせる安っぽさがある、哀しみには壮麗さがあり、喜びは浅い」

107章 大工
捕鯨の大工は多才である。壊れたボート、櫂の刃の直し、甲板の丸窓の直し、鳥かごをセミ鯨の髭で作ったりもする。船員の歯の痛みには抜歯も行う。器用さは乗員の認める所だが、機械的で無個性である。そういう訳か、この大工の名前は明かされない。

108章 エイハブと大工
大工が鯨骨の義足をつくる様子が描かれてる。
それを見に来るエイハブがギリシャ神話を持ち出し、人間に火を与えたのはプロメテウスであり、プロメテウスは鍛冶屋だったと語る。
大工は失われた脚が痛むって本当ですかと、エイハブに質問する。
そうだと答え、大工の片脚を失ったエイハブの脚の所へ並べさせる。
エイハブは毒づく「全世界の帳簿の中に、この義足の貸借は書き込まれている、呪われ!」

109章 エイハブとスタバックス
船底に貯蔵している樽から油が漏れてると連絡が入る。スタバックスは船長室でエイハブに船を止めて、船底にある樽を調べるべきと提案する。が、もう少しでモービィデックがいる日本列島に辿りつくのにそんな時間はない、そのまま航行すると退ける。それを聞いたら船主が黙っていないと、エイハブ船長を説得するが、聞き耳を持たない。短銃をスタバックスに向け、ここを去れと脅すエイハブ。船長室を去り際、スタバックスは「エイハブはエイハブに気をつけてください、ご老人」と言い残す。
それを聞いたエイハブば船を止める事に承諾する。

110章 棺の中のクィークェグ
地位があがれば上がるほど捕鯨船の任務は過酷になる、まして船長になろうというものは。油漏れの樽を探そうと船底を調べるがなかなか、その樽は見つからない。クィークェグがその役目を命ぜられ、ぬるぬる、じめじめした船底深くから大樽を運び出す仕事を何時間もかかった。それが原因でクィークェグは熱病にかかってしまう。どんどん痩せこけ衰弱する人食い人種。死に際に何がしたいかクィークェグに聞くと、死んだとき自分を海に流す丸木舟が欲しいと言う。大工を呼びクィークェグの身体に合う丸木舟を作らせる。しかしクィークェグは陸で残した義務を思い出し、死ぬ決意をひるがえし快復する。
人間が一度生きようとすれば、病気では死なないと語るクィークェグ。

111章 太平洋
バシー海峡を渡るビークォド号、日本の海でモービィデックを仕留めるとエイハブは乗員に宣言する。「あそこで白鯨は鮮血を吹き出す!」
バシー海峡(バシーかいきょう)は、中華民国台湾島南東の蘭嶼(蘭島)に隣接する小蘭嶼(小蘭島)と、フィリピン領バタン諸島(バシー諸島)最北のマヴディス島との間にある海峡を指す。

112章 鍛冶匠
鍛冶職人パースがビークォド号の乗員になるまでの経緯。
腕の立つ鍛冶職人だたパースは若い女房と3人の子供ち、幸せな暮らしが続いていたが、或る晩強盗に襲われ全ての財産を失ってしまう。それ以来パースは鍛冶屋の仕事にも集中出来なくなる。遂には女房と3人の子供も亡くなってしまう。
無数の人魚がパースにささやく「おいでよ、心やぶれた者よ、ここに他界の生活が得られる、おいでよ、憎み憎まれた陸の世界を、死よりも遠く忘れ去った新しい生活に身を隠し、私たちと結婚しに!」そしてパースは海に出た。

113章 鍛冶炉
エイハブが鍛冶屋に馬の蹄鉄で最高の銛(もり)をオーダーする。もちろん白鯨狩りの銛である。鍛冶屋は12本の鉄釘を一つに捩じって一本の銛を造る。
エイハブ「人間が気が狂わずに、惨めに落ちた様を見るといらいらする。何故お前は狂わぬ?おぬしが狂えないのは、天がまだおぬしを憎んでるからか?」
エイハブに取り合わない鍛冶屋。

114章 金箔の海
ビークォド号は日本沖漁場に近づく。夕暮れの日本海沖は穏やかで美しく、その
金箔の海を見つめるスタバックスとスタブ。
スタバックス「底知れぬ美しさだ、俺はこの美を信じる」
スタブ「俺はいつでも最高に幸せだ」
恍惚と陶酔にみちたエーテルのなかを、この世界は帆走っているのか?イシュメルは呟く。
<豆知識>
北大西洋の鯨を捕っていたが資源が枯渇、その後北太平洋の日本近海が良質な油の採れるマッコウ鯨の生息海域として発見され、1820年代からイギリス・米国の進出が始り、1840-50年は北太平用の捕鯨業はピークに達する。 

日本周辺にも1820年代に到達し、極めて資源豊富な漁場であるとして多数の捕鯨船が集まった。操業海域の拡大にあわせて捕鯨船は排水量300トン以上に大型化し、大型のカッターでクジラを追い込み、銛で捕獲し、船上に据えた炉と釜で皮などを煮て採油し、採油した油は船内で製作した樽に保存し、薪水を出先で補給しながら(このような事情が日米和親条約締結へのアメリカの最初の動機であった)

115章 ナンタケット船、バチュラァ号に会う
同郷ナンタケット船バチュラァ号に会う。バチュラァ号は大漁に恵まれ帰郷の途中であった。エイハブは白鯨を見たかと聞くが、見てない、と大漁に浮かれる船長は答える。こちらの船に来て祝ってくれと言う船長に「阿呆というものは人なつこいものじゃ」と毒づくエイハブ。

116章 死にゆく鯨
4頭の鯨を仕留めるビークォド号。その一頭はエイハブのボートが仕留める。
しかし浮かぬ顔のエイハブは鯨に話しかける「生命は太陽の方を向いて真心を込めて死んでいくが、死ぬが早いか、死は躯(むくろ)をぐるりと回し、他のところへ向かわせてしまう、鯨よ、太陽は二度と生命を与えぬぞ」

117章 鯨見張
仕留めた鯨をボートに寄せ、一晩明かすエイハブ。同乗した拝火教徒フェダラアとの会話。フェダラアの予言を聞かせる。エイハブが海上で二つの棺(ひつぎ)を見るまでは死にはしない。一つは人間の手で作られたものではない、もう一つはアメリカの木で作られたもの、そして麻の紐が命取りになると告げる。
謎の予言を楽しむエイハブ。

118章 四分儀
赤道の近くに白鯨が出ると確信するエイハブ。四分儀は要らぬと捨ててしまう。
象限儀=四分儀(しぶんぎ)
天体観測また太陽や明るい星の子午線高度を利用して、観測者の地理的緯度を割り出すためにも使える。
スタブ、スタバックス、フェダラアは狂乱の老船長の様子を伺ってる。
スタブ「いつか船長が言ってた、誰か知らぬがこの老いぼれの手に、このカードを突きつけ、これで勝負しろ、ほかの札ではダメだとぬかしおるのだ。エイハブよ、汝の為すところ正しい、勝負に生き、勝負に死せよ」
宿命論者のフェダラアは冷笑をエイハブに向ける。

119章 燭
落雷の嵐の中セントエルモの火がマストに灯る。エイハブの新し白鯨倒しの槍にも炎が立ち上がる。スタバックスは不吉な前兆であり、今すぐナンタケットに戻らなければ乗務員全員が破滅するとエイハブに懇願するも、怖気るなと諭す。
セントエルモの火は、悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象。激しいときは指先や毛髪の先端が発光する

120章 甲板、初夜直の終わりに近づく
落雷、嵐の中、スタバックスはエイハブに帆桁(ホゲタ)を外すように進言するが、拒む、まして檣冠(ほばしら)を外すなど卑怯者と罵る。
帆桁(ホゲタ)
帆を張るために帆柱の上に横に渡した用材。

121章 深夜、前甲板舷檣
エイハブの命令でビークォド号の錨(いかり)が引き上げられる。スタブはもう二度とこの錨は下ろされることはないと直感する。エイハブが船長を務める限りビークォド号は後尾に火薬箱、前部にマッチを積んで、一触即発の状態である。

122章 深夜の檣頭-落雷と稲妻と
最短の章になる。1行ほどの文、タシュテゴのセリフのみ「稲妻はもういい、ラムをよこせ」。110章以後2~3ページの章が多くなる。

123章 小銃
颱(たいふう)に翻弄されるビークォド号に吹く風が順風に変わる。スタバックスは船長室へ知らせに行くが、睡眠中のエイハブの部屋の棚に短銃を見つける。火薬も弾も装填(そう てん)されている、かつてエイハブがスタバックスを脅した銃だ。真面目なスタバックスはこのままでは、狂人エイハブに白鯨と共に全員海の奈落に投げ込まれると憂いが募る。スタバックスは引き金を引こうとするが、妻のメアリーと子供たちを思い出す。やはり人殺にはなれないと、その場を立ち去る。甲板に戻りスタブに船長を起こすように告げる。

124章 羅計
翌日も颱がおさまらない海、エイハブが舵手(ダシュ)を殴りつける、「どこに船は向っている?」「東南東です」。太陽を背にし、西に船は向っていると指摘するエイハブ。先日の雷で羅針盤が狂ったらしい。エイハブは即座に仮の羅針盤を作り、乗員に自分の経験の豊富さを示す。スタバックス、スタブ、フラスクは口には出さないが、お互いに同じ気持ちを持ってる事を察する。

125章 紐つき測程儀
エイハブは船の速度を図るためにタヒチ男とマン島の老爺に紐つき測程儀を海に投げさせるが壊れてしまう。エイハブはピップはどこに行ったかとマン島の老爺に聞くが、ボートから飛び込んだと言う。「大馬鹿は小馬鹿を叱るものじゃ」とつぶやくエイハブ。
ピップを連れて船長室に引き上げるエイハブ。「戯(たわけ)けがつらなって行くわ」とマン島の老爺は二人の狂人を揶揄する。

<豆知識>
測程儀 そくていぎ(log)
船の速力 (対水速度) と航程を測定指示する計器。 logは「丸太」の意味で,海中に浮べた木片で船速をはかったことから出たという。歴史的には,結び目をつけた長い紐 (測程索) の先に扇形の板をつけて一定時間流し,繰出された紐の長さを時間で割って船速を算出した手用測程儀 (ハンドログ) があった。
マン島はグレートブリテン島とアイルランド島に囲まれたアイリッシュ海の中央に位置する島。

126章 救命浮標
船員の一人(名前はない)がマストから海に落ち、溺死する。救助ブイを投げるが壊れて沈んでしまう。スタバックスはクィークェグに以前作った棺桶を再利用して救助ブイを作るように大工に命令する。
大工の愚痴:俺は修繕屋じゃない、こんな仕事は見習の小僧にやらせればいい。乗務員全員30名がひとつのブイにつかまる30本のひもが出ているやつを作ってやれ。
大工のたわごと:65歳になる隠居婆さんが禿頭の若い大工と駆け落ちした話を持ち出し、自分はそんな下品な大工じゃないと嘯く。

127章 甲板
エイハブと大工の会話。エイハブは芝居がっかたセリフを大工に言う。
「お前は俺の義足も作るが、棺桶もつくる、今度は救助ブイを作ってる。おぬしは無節操で、万能多芸なること神のごとき男だな」
取り合わない大工。
会話の後、ピップと船室に向かうエイハブ。この二人の魂は既に現世にはない。

128章 ビークォド号、レーチェル号に会う。
翌日、ナンタケットの捕鯨船レーチェル号に会う。
エイハブ「白鯨を見たか?」「昨日見た」とガーディナァ船長が話始める。
モービィデックを追ってる際、ボートが一艘行方不明になる。そのボートには12歳の自分の倅が乗っていた。48時間だけ一緒に息子を探してくれまいかと懇願するガーディナァ船長に、俺の船の苗ひとつ触るなと、真心からの頼みを拒絶するエイハブ。ガーディナァ船長は無言でエイハブの船を降りる。
レーチェルとは聖書によれば迷い子の意味がある。
映画版ではガーディナァ船長はエイハブに罵声を浴びせるが、原作にはない。

129章 船室にて
エイハブとピップの狂人芝居。
スタブに海に見棄てられた以来、ピップは自分が死んでいると感じている。エイハブへ自分は見捨てないと言う。

130章 帽子
レーチェル号から会ってから4日たっても汐噴一つ見えない日が続く。
エイハブはモービィデック探索の為、甲板に陣取る。もう船長室には戻らず、一日2度の食事をそこで取る。フェダラアも甲板にずっと立ったまま、眠った様子もなく、怪しげな目を輝かせている。二人は甲板に立ちつくすが、一言も口をきかない。
エイハブは帆柱の高い所へ自分を籠に入れ吊り上げろと命令する。見晴らしのいい場所でエイハブは「俺が最初に奴を見つける、スペイン金貨はエイハブが取らねばならない」と豪語する。
上空を海鷲が旋回しエイハブの帽子を奪って行く。イシュメルは不吉な前兆だと呟く。

131章 ビークォド号、デライト(歓喜)号に会う。
「白鯨を見たか?」エイハブの問いに、デライト号の船長は破損したボートを指さす。
白鯨を追ったがその内の一艘が大破し、屈強だった乗員5人は絶命。今しがたその内の一人の水葬礼を行っているところだと言う。去るビークォド号の後尾には棺桶を修繕した救助ブイが見える。

132章 交響
穏やかな風、優しい空の日、甲板でのスタバックスとエイハブの会話。
エイハブの年齢が58歳であり、若い妻を50過ぎて娶った事、こどももいる事、18歳で銛打ちになり40年間以上海上で生活している事、その間3年間と陸で暮らした事がない事、家族はずっと放置してある事が読者に分かる。
食い物と言えば乾いた塩漬けの食い物ばかり食ってきた。こんな人生をおくる自分は大バカ者だと話す。スタバックスは白鯨など今すぐ忘れて家族の待つナンタケットに戻ろうと諭す。しかしエイハブの長い狂人演説が始まる。「残酷で冷酷な帝王が俺を意のままに動かす、エイハブは俺なのか?」運命に飲み込まれ、それに逆らえ無い狂人の覚悟が描かれる。
慄(おのの)きスタバックスはその場を立ち去る。二人の会話をたぶん聞いていたフェダラアは何も言わず海を見ている。

133章 追撃1日目
エイハブは抹香鯨の特殊な臭いを夜風にかぎ分ける。遂に白鯨を見つけるエイハブ「スペイン金貨は俺のものだ」先頭を切ってエイハブのボートはフェダラアを同乗させ追撃する。スタバックスには本船に残るように命令し、残り全部のボートが出撃する。
エイハブのボートが迫るとモービィデックは海中深く潜水する。鯨の潜水時間は1時間。エイハブは時間を図る。海底を覗くと巨大な白い物体がボートの真下に浮上する。エイハブのボートの中心を咥えるモービィデック。めりめりと軋むボート。特注の銛を刺そうとするが真下すぎて出来ない。もがけばもがく程、白鯨の口の奥に滑り込むボート。挟み撃ちのボートは真っ二つに破壊され、エイハブは海に放り投げ出される。
海上に投げ出された乗員たちの回りを旋回するモービィデック、片足のエイハブは溺れかける。その時本船がモービィデックに体当たりせんと直進する。それを察したか、その場を去る白鯨。
5名全員無事に本船に救助される。破損したボートを見てスタブは笑うが、その不謹慎な笑いは不吉の前兆だとスタバックスにはエイハブに告げる。前兆など辞書の言葉だ、何の意味もないと。スタバックス、スタブ、お前らはまだ人間だが、俺には人間の友も神々の仲間もいないと、モービィデックの追跡を命令する。

134章 追撃2日目
宵闇が降り白鯨の汐吹が見えなくなっても、エイハブはこれまでの経験と勘からどの方向にモービィデックが向かっているのか分かる。30人の乗員は一体となってモービィデックを追う中、見張場が見つけたのは白鯨ではなく、他の鯨だった。エイハブはまたもや帆柱の最上に上り、白鯨を探すや否や白鯨が視界に現れる。エイハブを挑発するように高く跳ね上がる白鯨。スターバックス以外の船員全員へ追撃命令を下す。
エイハブを乗せたボートは体当たりの覚悟で、白鯨めざしまっしぐらに進む。
3曹のボートは神出鬼没の白鯨に翻弄され、刺さった銛から伸びた索(なわ、つな)に3曹のボートはお互いに引き寄せられ、縺(もつ)れ合ってしまう。スタブとフラスクのボートは尾ひれに叩きのめされる。
エイハブのボートはまたもや白鯨から真底を突かれ、天空に投げだされる。本船に助けられてたエイハブは、甲板に引き上げられる。破損したボートの部品、折れた槍や銛が散乱し、負傷者多数の中、全員の視線がエイハブに集まる。義足(骨脚)も折れ、残っている脚はわずかだった。スターバックスにもたれかかりながら、残った予備ボートに艤装 (ぎそう)の命令を下すエイハブ。
スターバックス「どうぞ神様一秒でもお姿をお見せください。船長、これ以上あいつを狩るのは神を畏れぬ不敬の業です」
エイハブ「エイハブはエイハブである、この筋書きは絶対不変に定められておる。大海が渦巻く千万年前から、お前と俺はすでに稽古したことなのだ」
全員を甲板に呼び集めると、そこには拝火教徒フェダラアの姿はなかった。
エイハブ「お前は行ってしまったのか?俺が死ぬ前にもう一度現れる?
それは謎じゃ、俺はそれを解く」
(117章)
エイハブが海上で二つの棺(ひつぎ)を見るまでは死にはしない。一つは人間の手で作られたものではないもの、もう一つはアメリカの木で作られたもの、そして麻の紐が命取りになる。

135章 追撃3日目
夜は爽やかに晴々と明けた。
前方を見ても白鯨が現れないエイハブは、舵取りへ航路を戻れと命令する。どうも白鯨を追い抜いたらしい。三度目の白鯨への追撃が始まる時、無数のサメの群れがビークォド号の回りに集結し、海鷹も船の頭上を旋回する。まるでこれから大漁の獲物がかかるかのように。
エイハブは3名の乗員で進撃するが、現れた白鯨の背には行方不明になったフェダラアの軀(むくろ)が苗に絡まってる(人間の手で作られたものではない棺)。黒い服は引き裂かれ、腫れ上がった両目は、まっすぐエイハブに向けられる。
*映画版ではエイハブが白鯨の背で躯になる。
エイハブの渾身の銛が白鯨投げられが、モービィデックは身体を捻り、ボートにのしかかる。3人は海に放り出されるが、エイハブはかろうじてボートにとどまる。
モービィデックはビークォド号を見つけるや、これが元凶とばかりにエイハブには構わず、狙いを本船に直進する。エイハブは気づく、第二のフェダラア予言とはビークォド号(アメリカンの木で出来た棺)の事だった。
その頭は透き通るような純白であった。ビークォド号の横っ腹に一撃を喰らわす白鯨、海に投げ出される乗員。みるみる水浸するビークォド号。
スターバックス「エイハブ、きさまの仕業を見よ!おお、神様私のそばにお立ちください」
スタブ「最後にサクランボが食いたいね、給料の前払をもらっておいて、お袋に渡しておけばよかった」
エイハブの銛が白鯨に突き刺さり、苗が真っすぐに伸びる。その苗がエイハブの首に巻き付く、モービィデックはエイハブもろとも海底に去っていく。声を出す暇も無くエイハブはボートから姿を消す。それに気づくものは誰もいなかった。
わずかに海面に見えれる3本のマストに残った異教徒たち、クィークェグ、ダシュテゴ、ダーグーも船体と共に渦に巻かれ海底に沈む。
死闘は終わる。海の藻屑と化したビークォド号。

エピローグ
劇は終わった。
ここで誰に出る幕があるのか?
イシュメルはビークォド号が海底深く沈む中、幸運にも救命ブイ=棺桶を見つけ、それに助けられた。2日間海上に漂流したあと船に見つけられる。その船とはチェルシー号であった。

<完>


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